祝日・連休ですので読み物的な記事を一つ。
韓国観察者・鈴置高史先生の『朝鮮半島201Z年』をご紹介します。鈴置先生の手になるポリティカル・フィクションで、2010年に刊行されました。
朝鮮半島を巡って、韓国・日本・北朝鮮・中国・アメリカ合衆国がどのように動くのか、その結果「どのような世界が現出するのか」を描いています。
「あくまでもフィクション」ですが、鈴置先生は、読者の皆さまもご存じのとおり韓国の分析についての第一人者。
2010年といえば、韓国通貨危機(2008~2009年)を経験した直後。北朝鮮は金ちゃんファミリー二代目の金正日(キム・ジョンイル)が国防委員長を務め、中国の総書記は胡錦濤さんでした。
日本はうんざりすることに媚中派・媚韓・親北朝鮮の『民主党』政権時代でした。ハトポッポ鳩山由紀夫首相(2009年09月16日~2010年06月08日) ⇒ ボンクラ極まりなかった菅直人(2010年06月08日~)が首相を務めるという最低・最悪、まさに「悪夢の時代」でした。
「このままではダメだ」という危機意識が鈴置先生にこの本を書かせた――と推測できます、ご自身では執筆の動機について以下のように述べていらっしゃいます。
長くなりますが、本書の「あとがき」から以下に引用します。
朝鮮半島が中国圏に戻る日――あとがきに代えて
香港人、台湾人、フィリピン人、マレーシア人、シンガポール人、タイ人――。
10年も前からアジアの知識人に会うたびに「日増しに膨れ上がる中国にどう対応すべきか」、「米中間の対立が先鋭化した際にどう生き延びるか」を聞いてきた。
快刀乱麻と呼べる明快な答えは誰からも得られなかった。
だが、誰もがこの問題を真剣に考えていることは分かった。彼らは何らかの意味で中国台風にさらされながら生きて来た人々か、その子孫である。
同時に、日本人が以下に中国を知らないかも思い知った。東アジアのほとんどの国が中国の度重なる侵略を受けるか、あるいは中国の移民を受け入れてきた歴史を持つ。
一方、日本は大量の文化を輸入したとはいえ、政治的、人的交流の面で言えば明治維新まで、ほとんど中国とは直接的な関係を持たなかった、東アジアでは稀有な国なのだ。
「もう日本も、中国に逆らってはいけません」――。
06年秋、韓国の指導者の一人から突然、強い口調でこう言われた。
昔から親米派として有名だった人である。
そのころ日本にはまだ「日中友好」という古典的な修辞が残っていた。
一方、韓国は、力と自身をいや増す中国から厳しい仕打ちを受け始めていた。彼の思いがけない言葉は、中国知らずの呑気な日本人へのアドバイスだったのだろう。
また、日中が対立すれば必ずとばっちりを受ける韓国の指導者として予防線を合ったつもりでもあったろう。
その瞬間「韓国人はついに中国世界で生きることを覚悟したのだな」と考え、この本を書こうと思った。
中国と数千年間も直に向き合ってきた朝鮮半島の人々が、再び台頭した巨大な隣国の勢力圏に心ならずも戻っていく――。
それは日本にも死活的な影響を呼ぼす。
はじめはノンフィクションとして書こうとした。
だが、すぐにその難しさに気付いた。自らの筆力のなさを棚に上げて言うなら、朝鮮半島に差し始めた中国の陰をいくら丹念に集めて記しても、日本人に我が身のことのように実感を持って読んでもらうのは容易ではない。
空に黒雲が満ち生温かい風が吹いてきても、台風というものを体験したことのない人はそれが台風の予兆だとは想像できないのと似ている。
そこで記者としてははなはだ邪道ながら「朝鮮半島に近未来に吹き荒れる中国台風」をフィクションとして描いた。
ファクトを踏まえた上での思考実験だから、現実がこの小説にたまたま似てくることもあるだろう。
ただ、本当に読んで欲しいのは「近未来」部分よりも「なぜ、その未来が起こりうるか」を述べた「現状分析」のくだりである。
(後略)⇒参照・引用元:『朝鮮半島201Z年』著:鈴置高史,日本経済新聞社,2010年11月22日 1版1刷,pp477-478
2010年の本ですが、2026年現在でも本書の「キモ」の部分は日本に効きます。
状況がどんどん日本にとって悪くなっていく
「Z」は恐らく「おしまい」を意味しています。鈴置先生自身が「この愉快ならざる物語」と書いていらっしゃいますが、読み進めるに従って段々暗い気持ちになってくるでしょう。
愉快ならざる状況が「201X年」、「201Y年」へと進行し、「朝鮮半島201Z年」に至ります。
本書が面白いのは「状況の積み上げ」にあります。現在2026年ですが「なんだ当たっていないじゃないか」が本筋ではないのです。
序章では、韓国・仁川国際空港の側で北朝鮮と韓国の海軍が交戦。中国の航空機が撃墜されます。同空港は全面閉鎖に追い込まれますが、問題はこれによって韓国の地政学的リスクが再確認されてキャピタルフライトが発生したことでした。
通過安、株安が劇的に進行し、ウォン安の進行を阻止できない韓国は通貨危機に襲われることになります。
外貨を調達しなければならない韓国通貨当局は、アメリカ合衆国に頼りますが「『IMF』に行けよ」と拒否し、日本も渋って協力しません。
合衆国は自身の危機で韓国にまで手が回らず、日本も反韓感情と迷走する内閣(笑)が原因で韓国救済に応じませんでした。
しかし、韓国はアジア通貨危機(韓国での呼称は「IMF危機」)の経験から、2回も「国家破産を経験して『IMF』に駆け込むなどメンツが許さない」と、『IMF』に救済を要請できません。
そこで、韓国が選んだのは「中国」。中国は韓国の上場会社の株式の3分の1に投資する――という形で救済。要するに安っく韓国企業を買い叩く形で韓国にお金を入れたのです。
ほとんどの大広告主の筆頭株主が中国となった韓国メディアは、親中的な報道に転がり落ちます。
面白いのは、米軍基地の街「振武市」に、基地追放を掲げる反米市長が誕生する下りです。
鈴置先生なので巧みに「ファクト」を織り交ぜて話を展開しており、この点が本書の白眉です。
なぜ反米市長が誕生するかというと、韓国政府が外国人に地方参政権を与える措置を取っているからです。韓国に入ってきた中国人が地方参政権を獲得し、「合衆国の空軍基地を返還させる」を公約にした市長を誕生させたのです。
この件を鈴置先生はこう書いています(「新聞ニッポンの社説」という体で)。
韓国の反米基地運動 外国人参政権がもたらす
自業自得というべきか
韓国は外国人、ことに中国人に幅広く参政権を与え、“リベラルで開かれた国家”を誇った。
そして選挙の結果、米軍基地閉鎖を強硬に主張する反米市長が米軍基地の街に誕生。
さっそく実力行使が始まった。韓国の安全保障は一気に揺らぐだろう。
韓国が外国人の参政権を導入したのは極めて不純な動機からだ。
「開かれた国を作る」というのは名分に過ぎず、本当の狙いは在日韓国人の投票を通じ日本の政治への影響力を得ることだった。
まず、05年に国会で「永住外国人に対する外国人地方参政権付与法」を成立させた。
韓国政府はこれをテコに「相互主義」を掲げて在日韓国人の参政権を認めるよう迫った。
しかし、韓国で実際に地方選挙権を得たのは06年の外国人参加選挙で6726人。総有権者数の0.05%に過ぎなかった。
また、3K労働者として移入した外国人を選挙から締め出すために、投票権付与の前提となる永住権の資格を「韓国人1人当たり国民総所得の4倍の年収を持つこと」と定めた。
“開放国家”とはほど遠い制度だった。
そして、今回、動機不純であり形式的だった外国人参政権が中国に見事に利用された。
(後略)⇒参照・引用元:『朝鮮半島201Z年』著:鈴置高史,日本経済新聞社,2010年11月22日 1版1刷,pp179
「韓国は外国人、ことに中国人に幅広く参政権を与え、“リベラルで開かれた国家”を誇った」は(今のところ)フィクションですが、「在日韓国人の投票を通じ日本の政治への影響力を得る」ために、「永住外国人に対する外国人地方参政権付与法」を成立させた」は本当です※。
※2005年の「公職選挙法」改正によって、一定の条件を満たす外国人に地方選挙の選挙権を認めた制度。盧武鉉(ノ・ムヒョン)時代に成立。国会可決は06月30日、公布・施行は08月04日です。
「相互主義」などといって、在日韓国人に選挙権を与えろと主張したのも本当です。
日本人はこのような韓国の姑息な手管をあまり理解していません。日本人は「韓国が隙あらば日本を騙してやろう」と常に考えている国なのだ――ということを理解すべきなのです。
――このように、本書は絶妙に「事実」を織り交ぜ、それを基に状況を積み上げていきます。
朝鮮半島、そして日本が「201Z年」にどのようなことになるのか――ぜひご一読ください。
(吉田ハンチング@dcp)





