「日本は教育に掛ける予算が少ない」と聞いたことがある人は多いのではないでしょうか。宇宙開発やスーパーコンピューターの研究・開発といった科学の分野の現場でも、予算はよく話題になっていますね。しかし本当に日本は教育関連予算が少ないのでしょうか。
■GDPに対する学校教育費は確かに低い
文部科学省が発表しているデータ『教育指標の国際比較』を調べてみました。これはOECD加盟国34カ国を対象に集計した資料を基にしています。
■OECD各国のGDPに対する学校教育費の比率 Top5(全教育段階)
第1位 アイスランド(7.9%)
第2位 韓国(7.6%)
第3位 イスラエル(7.3%)
第4位 アメリカ合衆国(7.2%)
第5位 チリ(7.1%)
同5位 デンマーク(7.1%)
第24位 日本(4.9%)※28カ国中
■OECD各国のGDPに対する学校教育費の比率 Top5(初等・中等・高等教育以外の中等後教育編)
第1位 アイスランド(5.1%)
第2位 ニュージーランド(4.5%)
第3位 ベルギー(4.4%)
第4位 デンマーク(4.3%)
第5位 スイス(4.3%)
第28位 日本(2.8%)※30カ国中
■OECD各国のGDPに対する学校教育費の比率 Top5(高等教育編)
第1位 アメリカ合衆国(2.7%)
第2位 韓国(2.6%)
第3位 カナダ(2.5%)
第4位 チリ(2.2%)
第5位 デンマーク(1.7%)
同5位 フィンランド(1.7%)
同5位 ノルウェー(1.7%)
第11位 日本(1.5%)※29カ国中
※……上記3つのランキングの「学校教育費」は「公財政支出」と「私費負担」の合計です。
全教育段階での日本の学校教育費の対GDP比は「4.9%」。データが不明の6カ国を除いて、5番目に低い数字です。
少し細かく見ると、初等・中等教育および高等教育以外の中等後教育については2.8%、高等教育では1.5%となっています。
順位に注目すると、高等教育以前ではほぼ最下位。高等教育では中の上という結果です。
■政府総支出に対する学校教育費の比率はOECD最下位クラス
GDPに対する比率を見るだけでは、政府が教育に力を入れているかどうかの判断がつきにくいですね。そこで次に政府の総支出に占める教育費支出の割合というデータを見てみます。
■OECD各国の一般政府総支出に占める公財政教育支出の割合(全教育段階) Top5
第1位 メキシコ(20.6%)
第2位 ニュージーランド(18.6%)
第3位 チリ(16.8%)
第4位 スイス(16.7%)
第5位 ノルウェー(16.0%)
第30位 日本(9.4%)※31カ国中
さらに驚きの結果になりました。日本の一般政府総支出に占める公財政教育支出の比率は、全教育段階で9.4%。これはイタリアと並び、OECDの中で最下位の記録です(計数が不明の3カ国を除く)。
■日本における学校教育費は私費が支えている?
次に、学校教育費の公私負担区分を見てみましょう。学校教育費がどのくらい公的に負担されているかを示すデータです。
■OECD各国の学校教育費(全教育段階・公財政)の公的負担の比率 Top5
第1位 フィンランド(97.4%)
第2位 スウェーデン(97.3%)
第3位 エストニア(94.7%)
第4位 ベルギー(94.3%)
第5位 アイルランド(93.8%)
第26位 日本(66.4%)※28カ国中
日本は、全教育段階において、公財政が占める比率が66.4%、私費が33.6%となっています。2/3は政府が負担しているということですね。なんと下には韓国、チリだけという、日本は公的負担の少ない国なのです。
国際的に見ると、「日本の教育費は私費に依存している部分が多く、公的には教育に費用を掛けていない」と言われても仕方がないようです。
■学校教育費における政府と地方の負担の比率は?
学校教育費を公的に負担しているといっても、中央政府が全て負担するのか、地方の自治体が負担するのか、という問題があります。これについては、2つのデータがあります。
■OECD各国の中央政府が公財政教育支出において負担している比率(初等・中等・高等教育以外の中等後教育)Top5
第1位 ニュージーランド(100%)
第2位 スロベニア(87.1%)
第3位 アイルランド(84.8%)
第4位 オランダ(84.6%)
第5位 イタリア(81.9%)
第28位 日本(0.6%)※30カ国中
■OECD各国の中央政府が公財政教育支出において負担している比率(高等教育)TOP10
第1位 アイスランド(100%)
同1位 オランダ(100%)
同1位 ニュージーランド(100%)
同1位 ノルウェー(100%)
同1位 イギリス(100%)
第6位 スロバキア共和国(99.9%)
第7位 ポルトガル(99.7%)
第8位 エストニア(99.3%)
第9位 ハンガリー(99.2%)
第10位 スロベニア(98.5%)
第18位 日本(92.2%)※29カ国中
高等教育とそれ以前で分けて集計したデータです。これによると、日本では高等教育以前では政府よりも各自治体が多く負担し、高等教育になると政府が多く負担するようになっているようです。
日本の場合、高等教育以前において最終的に中央政府が負担しているのは0.6%。では、国際的にはどうでしょうか。1%を切っている国は日本を含めてわずか4カ国でした。
高等教育では92.2%となり、一見高いように見えます。しかし、100%という国が5カ国もあるように、どの国も高めになっています。日本は18位。中の下という順位ですので、どちらかというと低い方です。
■学生1人当たりに掛ける学校教育費は?
最後に、各国が学生1人当たりに掛けている学校教育費のデータをご紹介します。就学前教育から高等教育というように、教育課程ごとに分けられています。
■OECD各国で学生1人当たりに掛ける学校教育費(就学前) Top5
第1位 ルクセンブルグ(13,460ドル)
第2位 アイスランド(10,080ドル)
第3位 アメリカ合衆国(10,070ドル)
第4位 イタリア(8,187ドル)
第5位 スロベニア(8,029ドル)
第23位 日本(4,711ドル)※30カ国中
※OECD各国平均 6,210ドル
■OECD各国で学生一人当たりにかける学校教育費(初等教育) Top5
第1位 ルクセンブルグ(13,648ドル)
第2位 ノルウェー(11,077ドル)
第3位 アイスランド(10,599ドル)
第4位 デンマーク(10,080ドル)
第5位 アメリカ合衆国(99,82ドル)
第14位 日本(7,491ドル)※31カ国中
※OECD各国平均 7,153ドル
■OECD各国で学生一人当たりにかける学校教育費(中等教育) Top5
第1位 ルクセンブルグ(19,898ドル)
第2位 スイス(17,825ドル)
第3位 ノルウェー(13,070ドル)
第4位 アメリカ合衆国(12,097ドル)
第5位 オーストリア(11,741ドル)
第15位 日本(9,092ドル)※32カ国中
※OECD各国平均 8,972ドル
■OECD各国で学生一人当たりにかける学校教育費(高等教育) Top5
第1位 アメリカ合衆国(29,910ドル)
第2位 スイス(21,648ドル)
第3位 カナダ(20,903ドル)
第4位 スウェーデン(20,014ドル)
第5位 ノルウェー(18,942ドル)
第15位 日本(14,890ドル)※30カ国中
※OECD各国平均 13,717ドル
日本は、就学前教育での教育費が平均を大きく下回っていますが、それ以外の過程では平均以上でした。幼少期の教育費に対して、特に費用を掛けていないのですね。
いかがでしたか? 今回はあくまで「費用」ということに注目して調べてみました。もちろん、費用と教育の質が一致するというわけではなく、そういう観点でもっと細かい考察・分析が必要でしょう。
ただ国際的に比較して「日本は教育に掛ける費用が少ない」というぐらいの結果は、今回の調査でも十分お分かりいただけたのではないでしょうか。
⇒データ出展:教育指標の国際比較
(藤野晶@dcp)