事の起こりは、やはり大赤字に転落した『韓国電力公社』(以下『韓国電力』と表記)です。
民間企業の資金調達を脅かす『韓国電力』
『韓国電力』は2022年は通期で30兆ウォンの営業赤字に達するのではないかと見られています。このような赤字ではキャッシュフローが足りませんので、どこかから資金を調達しないと会社が飛びます。
そもそも国の電気インフラを一手に担う企業が飛びそうなんて話は全くもって情けない限りですが、親方太極旗(信用格付けは政府の暗黙の保証を受けてAAA)なのをいいことに、債券を巨額発行して会社を回しています。
先にMoney1でもご紹介した『韓国電力』の債券発行額の天井はすでに撤廃され、11月だけで「3兆5,500億ウォン」の債券を発行。
2022年の債券発行額は累計でなんと「27兆4,500億ウォン」に達しています。
つまり、2022年に営業赤字となりそうな金額分をすでに債券で調達しているのです。
『韓国電力』がこのように債券市場で巨額の債券を発行するので、他のより信用等級の低い企業は資金調達ができずに困っています。投資家のお金が回ってこないからです。
投資家は当然、リスクの低い方を取りますから、親方太極旗の『韓国電力』の債券を選ぶのです。恐ろしいことに、この『韓国電力』の債券の利率が「6%」に迫るのです。
他の「より信用等級の落ちる企業」の利率はどのくらいになるんだ、という話です。
このような状況であるため、『韓国電力』はメディアの一部から「資金を飲み込むブラックホール」といわれているわけです。
『韓国銀行』の李昌鏞(イ・チャンヨン)総裁が、最近の「資金調達市場の流動性不足」の主な理由の一つを『韓国電力』と名指しするほどです。
『韓国電力』の赤字が『産業銀行』の健全性を阻害する
それだけではありません。国策銀行である『産業銀行』の健全性を揺るがせてもいるのです。
というのは、『産業銀行』は『韓国電力』の主要株主の一つでもあります。持分法によって『韓国電力』の赤字の1/3は『産業銀行』がかぶることなるです。
もし、『韓国電力』が予測どおり2022年に「営業利益:-30兆ウォン」を記録した場合、『産業銀行』の企業への支援余力は40兆ウォン以上減少する――という観測が出ました。
なぜ、こんなことになるかというと、銀行の健全性を担保するために一定割合は安全な資産を保持しなければならないからです。『国際決済銀行』(BIS)が枠をはめており、この規制を「バーゼルIII」といいます。
勧告基準である13%を守ると企業を支援するために使えるお金が40兆ウォン以上減少するというわけです。
実は、先に少しだけご紹介した『産業銀行』が韓国海運最大手の『HMM』の株式持ち分(20.69%)を売却しようとしているのも13%の枠を守るためというのが理由の一つです。
つまり、『韓国電力』の大赤字は国策銀行の健全性をも揺るがす事態となっているのです。
『韓国電力』をどうする?
あちこちに甚大な影響を与えている『韓国電力』の大赤字ですが、何度もご紹介しているとおり、これは前文在寅政権のせいです。
クリーンエネルギー政策※を推進して、太陽光・風力発電施設を乱造。生産した電力を『韓国電力』で買い取らせ、それを家計・企業に売るわけですが、電気料金の値上げをまかりならん、としました。また、原発をやめてLNG火力発電に切り替えることを推し進めました。
※文在寅のクリーンエネルギー政策では原発はクリーンエネルギーの範疇に入っていませんでした。文大統領が標榜したのは「脱原発」です。
ところが、発電のための燃料代、石炭・石油やLNGの価格が急騰し、発電コストが急増。それなのに電気料金を上げることができず、『韓国電力』は電気を売れば売るほど赤字という世にもあほらしい事態に陥りました。これが『韓国電力』が大赤字を築くことになった原因です。
ですから、そもそもが全くの政治的な大失敗なのです。
『韓国電力』を早急に黒字にしないと資金調達市場のブラックホール状態などの諸問題が解決しません。
実は韓国政府は2008年に2兆7,980億ウォンの赤字を出した『韓国電力』に、補正予算を組んで6,680億ウォンを支援したことがあります。
しかし、今回の営業赤字の規模は当時の約10倍ですから、支援するにしても巨額になります。
一番簡単の簡単なのは電気料金を上げることで、現在の価格の1.5倍にすれば黒字化できます。
しかし、国民からの反発が大きいと予想されるため、現在の尹錫悦(ユン・ソギョル)政権には断行することができないでしょう。
政府与党の『国民の力』からは「『韓国電力』の国勢調査を行え」という声が上がっています。
なぜ『韓国電力』がこのような赤字になったのかを調査しろというのです。調査が行われれば、前文政権の無茶苦茶な政策が糾弾されることになるでしょう。
『韓国電力』のブラックホール化も政争の具になるかもしれません。
(吉田ハンチング@dcp)