2020年12月16日、アメリカ合衆国の財務省は「Macroeconomic and Foreign Exchange Policies of Major Trading Partners of the United States」(合衆国の主要貿易相手国のマクロ経済と為替政策)という非常に面白いリポートを公表しました。
この中の「Executive Summary」で財務省は韓国について以下のように解説しています。
韓国は包括的な公衆衛生対策を実施し、COVID-19のまん延を封鎖した。しかし、韓国の金融市場は不安定な状況に陥り、パンデミックが世界的に拡大する中、韓国の成長見通しは悪化した。
当局は金融政策を緩和し、金融市場を安定化させるための措置を講じ、2020年9月までの累計でGDPの3.9%に相当する累積直接財政刺激策を実施した。
韓国の大規模な対外黒字は縮小を続けており、経常収支の黒字は2020年6月までの4四半期でGDP比3.5%にまで減少した。韓国の対米物品貿易黒字は、パンデミックが輸出を圧迫したため、同期間に200億ドルに縮小した。
COVID-19の流行の中で減価圧力が激化したため、韓国は2020年6月までの4四半期で実質的な純外貨売りを含む91億ドル(GDPの0.6%)の為替売りで、直物市場でウォンを支援するために純介入を行ったと報告している。
財務省は、2019年12月に半期ごとの開示から四半期ごとの開示に移行するなど、為替介入の透明性を高めるための韓国の措置を歓迎する。
パンデミック前にすでに進行していた成長の減速を考えると、特に成長が衰えたり、さらなるリスクが顕在化した場合には、より強力な財政対応が必要と思われる。
このリポートで最も興味深いのは、ウォン安(ウォンの減価)を阻止するために、6月までの4四半期で91億ドルの為替介入を行っていたという部分です。
上掲は「月足」のドルウォンチャートです。月足ですのでローソク足1本が1カ間の値動きを示します。4四半期ですのでローソク足12本です。この期間で91億ドルを投入したというわけですが、確かに防衛線と推定する「1ドル=1,200ウォン」(赤い点線の水平線)を超えるローソク足多数です。
どの時期にいくらずつ投入したのか詳細は分かりませんが、為替市場でドルを売ってウォンを買い、ウォンの価値を支えようとしたわけです。この介入は確実に外貨準備をすり減らしたはずです。
では、外貨準備のDeposits(預金)が急減した時期はあったでしょうか? 以下をご覧ください。
2019年12月には現金たるDeposits(預金)が「129億ドル」まで急減しています。
ここからは推測です。恐らく07、08月とドルウォンが「1ドル=1,200ウォン」を超えて上昇するので為替介入(ドル売りウォン買い)を開始、09~12月と下落させる中で危険な水準まで、すなわち外貨準備のDeposits(預金)が129億ドルまでなくなったのです。
2019年11月末から12月末にかけて、韓国の外貨準備のDeposits(預金)は73億ドルも減少しています。
ちなみにこのDeposits(預金)「129億ドル」というのは、外貨準備の直近5年で見ても(2015年01月以来)最低の金額です。
しかし、01、02、03月とドルウォンレートは上昇し続け、Deposits(預金)の金額は上昇していますが、この時点では介入はドル不足でできなかったのではないでしょうか。介入資金がなかったからレートが上昇したとも考えられます。そして03月。韓国のドル流動性が枯渇。
03月には一時「1ドル=1,292.93ウォン」に達します。この時、韓国に合衆国FRB(Federal Reserve Boardの略:連邦準備制度理事会)から救いの手が差し伸べられました。「通貨スワップ」(FRBの言い方では「ドル流動生スワップ」)です。
先にご紹介したとおり、『韓国銀行』の「通貨スワップ」締結発表は為替レートを安定させる効果があり、すんでのところで韓国は助かった――という説明はいかがでしょうか。
(柏ケミカル@dcp)