現在韓国では、現文在寅政権と尹錫悦(ユン・ソギョル)新政権側の対立が激化しています。
韓国では毎度おなじみの戦いですが、検察改革を巡ってヒートアップしています。
現政府与党『共に民主党』は、先にご紹介した「検察から捜査権を完全に剥奪する法律」を成立させようとしており、これは明らかに「自分たちを捜査させないため」のものです。
当然、次期政権を担当する『国民の力』は猛反発。検察庁自身も反対を表明しています。
旧政権と新政権による「ノーガードのどつき合い」の様相を呈しているのです。
怒りが爆発してとことんやるのが韓国流
山紫水明の国に住み、潔きことを美徳とする日本人からすれば、「よくまあそこまでやるよ」という話で、なかなか韓国の権力者のメンタリティーが理解しにくいもの。
しかし、韓国の皆さんからすればこれは当然のことのようです。以下に池東旭先生の著作から文章を引用してみます。
(前略)
それが韓国人のメンタリティーの基調である恨(ハン)に凝縮している。抑圧者にたいして怒りをぶつけることのできない無力さが恨としてくすぶる。それがたまりにたまってある日突然爆発する。その時韓国人は合理的判断も冷静な打算もすっかり忘れる。「死なばもろとも」とばかりに激情的に行動する。それがいわゆる「ハンブリ」(恨みをはらす)なのである。
外国人は韓国の政治的振幅の大きさ、報復の激しさに驚く。
元最高権力者を容赦なく逮捕して遡及法までつくって裁くのをみてビックリする。
だがこれも「ハンブリ」という角度から見ればよくわかる。法治ではなく人治であり、理治(理屈詰めの行動)ではなく情治(感情による行動)なのだ。
(後略)⇒参照:引用元:『韓国の族閥・軍閥・財閥 支配集団の政治力学を解く』著:池東旭,中公新書,1997年03月25日発行,p.5
池東旭先生のこの文章が掲載されている本が刊行されたのは、韓国が『IMF』(International Monetary Fundの略:国際通貨基金)の管理下に入る直前の1997年05月です。
現在ではありません。
しかし、池東旭先生の「元最高権力者を容赦なく逮捕して遡及法までつくって裁く」ことが外国人を驚かせる――という指摘は、25年が経過した今でも通用します。
5年間たまりにたまった怒りが文政権(およびその関係者)に対して爆発する――と説明できるわけです。
その爆発を受ける側も自分の身を守らなければなりませんので、あの手この手で防御に努めるのです。「検察から捜査権を完全に剥奪する法案」を通過させようというのはその一環です。
「監獄に行かないで済むならなんでもする」のです。
一方の新政権側も、2022年04月13日、次期法務部長に「韓東勳(ハン・ドンフン)」さんを指名して、文在寅大統領また文政権関係者を追い込む気満々です。
この韓東勳(ハン・ドンフン)さんの法務部長指名は現与党『共に民主党』に衝撃を与えました。「人事テロ」という表現で尹錫悦(ユン・ソギョル)新政権を批判する声が出たぐらいです。
韓東勳とはどんな人物か?
日本ではあまり報じられていませんが、この韓東勳(ハン・ドンフン)さん(上掲写真)は、現文政権に遺恨がある人です。例の秋美愛(チュ・ミエ)法務部長官時代に、曹国(チョ・グク)元法務部長官の捜査を指揮していた人物です(当時検事長)。
秋美愛(チュ・ミエ)長官が尹錫悦(ユン・ソギョル)検察総長と対立し、その余波で韓東勳(ハン・ドンフン)さんも左遷されました。
しかも4回も左遷されています。
2020年06月:法務研修院研究委員/龍仁分院勤務
2020年10月:鎮川本院勤務(ソウルからさらに遠ざかる)
法務研修院に飛ばした後、法務部監察官室が韓東勳(ハン・ドンフン)さんが出退勤をきちんとしたのか、出勤後の研究業務をきちんと行っているのかを調査している。
2021年06月:司法研修院副院長(現職)
※研修を受ける検事が1人もいない閑職
このように現政権、また『共に民主党』が露骨に痛めつけた人物ですが、尹錫悦(ユン・ソギョル)検察総長時代に捜査の指揮を執ったことからも分かるとおり、尹さんはその能力を高く評価しています。
『共に民主党』側からすれば、自分たちが散々に攻撃した人物ですから、法務部長になられたら何をされるか分かりません。「報復されるに決まっている」というわけで、そのため「人事テロ」などと批判しているのです。
他人には自分のやったことを行わせたくないというのですから、全くいい気な物です。
このように、韓国では新旧権力の対決は激化する一方です。
落としどころを探すような生半可な抗争ではありません。特に現在の政府与党『共に民主党』からすれば、「監獄に行かないで済むか」がかかっていますので必死です。
いわば「仁義なき戦い」です。
いよいよ文政権が終わるまで3週間となりました。尹錫悦(ユン・ソギョル)新大統領が就任するまでに抗争がどのような展開となるのか、にご注目ください。
もちろん尹錫悦(ユン・ソギョル)新大統領が誕生しても、『共に民主党』は立法府を押さえていますので、抗争は続きます(定数300のうち172議席が『共に民主党』)。
一応念のために書きますが、尹錫悦(ユン・ソギョル)さんは、韓さんを次期法務部長に指名したことについて、「法務行政を現代化し、国際基準に合わせて司法システムを変え、国際的コミュニケーションを円滑にするため、アメリカ合衆国の弁護士でもあり、英語が堪能だから抜擢した。捜査と裁判経験の多い韓検事長が法務部長官を務めるのが最も適していると判断した」と述べています。
↑内閣人選を発表する尹錫悦(ユン・ソギョル)次期大統領/YouTube『聯合ニュース』
(吉田ハンチング@dcp)