Money1でも連日のように韓国経済の流動性危機(要はお金が回らないってことです)についてご紹介していますが、この危機への対応策として2020年03月26日韓国銀行は「無制限の金融緩和」という方針を打ち出しました。
「無制限の金融緩和」とは
この韓国銀行の「無制限の金融緩和」は、発表時には「韓国史上初のことで勇断」みたいな取り上げられ方をしました。
一般人からすると、「金融緩和」がナニかよく分かりませんし、「で、具体的にナニをするわけ」と思うのではないでしょうか。まず「金融緩和」は、市中にお金を回すために行います。具体的には国内の金融機関にお金を流すためのものです。銀行などの金融機関はお金という経済の血液を巡らせるための心臓ですから、ここに資金を入れて国にお金を循環させようと考えているわけです。
で、韓国の「無制限の金融緩和」の施策ですが、日本語でうまくまとまとめられている『JETRO』による説明を引きますと(面倒くさい人は斜め読みで十分です)、
韓国銀行は3月26日、金融市場の安定を図るため4月から6月までの3カ月間、金融機関に無制限に流動性を供給することを金融通貨委員会で決定した。
政府の「国民生活・金融安定パッケージ・プログラム」の一環として、「買い戻し条件付債券(RP)買い入れ制度」を改正し、毎週1回、基準金利(0.75%)に0.1ポイントを上乗せした0.85%を上限金利とし、市場の全需要に対し無制限に流動性を供給する。
※赤アンダーラインは筆者による(以下同)
となります。
途端に専門用語ばかりの説明になっていますが、「金融機関に無制限に流動性を供給すること」というのが「金融機関に上限なしでお金を供給するよ」ということです。その方法として「買い戻し条件付債券(RP)※買い入れ制度」を(改正して)実施する、といっています。
この「買い戻し条件付債券(RP)買い入れ制度」というのは、簡単にいえば「金融機関の持っている債権を買い入れますよ」ということです。韓国銀行が銀行から債券を買ってあげれば、その代金が銀行に入りますね。このような形で金融機関にお金を融通しますよ、というのが建付です。
ただし、「買い入れ」という言葉が使われていますが、金利(上限0.85%)が示されていることからも分かるとおり、これは「あなたたちが保有している債券でお金を貸しましょう」ということです。
「買い入れ」というと「買い取ってくれるんだ!」と思いますが、そんな虫のいい話はこの世にはなく、後で金利を付けてお金を返す(これと引き換えに債券が戻される)わけで、つまりこれは借金の一種です。
韓国銀行からすれば、企業が保有する「債券」を担保にしてお金を貸しているわけです。
このような債券買い入れ(担保に受け入れる行為)を上限額なしでどんどん行う――これを「無制限の金融緩和」と呼んでいるのです。
具体的にどんな債券が買い入れ対象となっているかというと、現在のところ「国債」「公共債」「銀行債」などの、いわゆる「適格担保」(安全性が高いと考えられる債券のこと)です。つまり発行元が国などの公共機関、銀行などの公的性格を持つ企業の債券しか認められていません。
⇒参照元:『中央日報(日本語版)』「『大砲』を取り出した韓銀総裁…証券会社への直接貸出を示唆」
無制限に買い入れるということですので、確かにお金をじゃぶじゃぶ供給することには違いありません。事実、第一回目の入札では「5兆2,500億ウォン」もの買い入れを行いました。
「社債」「CP」はどうするのか?
しかし、先にご紹介したとおり「四月危機」で発火点とされているのは証券会社の「社債」であり、企業が社債をロールオーバー(借り換え)するための「CP(コマーシャル・ペーパー)」を発行できないといった事態です。
上掲の『中央日報(日本語版)』の記事にもありますが、現在の建付では社債は買い入れ対象外ですし、CPは債券ではないので俎上に上っていません(面倒くさい人は飛ばしていただいてOKですが、CPは約束手形の一種で債券ではありません)。
なぜ社債が買い入れ対象外かというと、「どうしてその企業だけ救済するんだ」といった不満が出るので「買い入れ対象・対象外」の線引きが難しいからで、また不良債権を抱えて韓国銀行自身が危機に陥ることを防ぐためです。
上掲のとおり、現在買い入れているのは「国債」などの適格担保で、これがトぶのは国がトぶ、銀行などもトぶという非常事態であって、つまり韓国銀行は特にリスクを犯しているわけでもないのです。
証券会社、企業の連鎖破綻を止めるためには「償還できそうにない社債」「CPが発行できなくて資金調達できない件」をどうするのかが焦眉の急であって、その対策が十分でなければ韓国の「四月危機」を克服することは難しいと考えられます。
ここにきて「韓国銀行、『社債』の買い入れについて考慮中」といった見出しが韓国メディアで見られるのは、このような理由によるのです。
※RP自体は「Repurchase Agreemet」の略で「アールピー」とはいわず、「レポ」「レポ取引」といいます。「債券の賃借(あるいは売買)を伴った資金の取り引き」を「レポ」「レポ取引」と呼びます。厳密には、レポ取引は「現金を担保にして債券の貸し借りをすること」で、「債券を担保にして現金を貸し借りすること」は「現先取引」といいます。
(柏ケミカル@dcp)