韓国は非常な不景気です。
韓国政府が「輸出が回復し、緩やかに景気は回復傾向」と述べていますが、国民はそれを実感できていません。
Money1でもご紹介しているとおり、輸出が回復しているといってもそれは半導体については当てはまるものに、これまで回復したといってきた自動車やスマホについては低迷が見え始めました。
これで、トランプ大統領が再登場し、追加関税を賦課し始めると、輸出が再低迷する可能性があり、そうなると韓国経済はさらに低迷を極めることになるでしょう。
2024年はもうすぐ終わりますが、「2025年は今年よりさらに悪いことになるのでは?」と不安が高まっています。
2024年11月22日、『韓国経済人協会』が「緊急声明)」を出しました。
韓国主要企業の社長団による「悲鳴」の合唱!
↑Googleの自動翻訳なので日本語がヘンなところがありますがご寛恕ください/スクリーンショット<韓国経済再跳躍のための主要企業社長団緊急声明発表>
『韓国経済人協会』は11月21日(木)、08:50小公洞ロッテホテルで、『サムスングループ』、『SKグループ』、『現代自動車グループ』、『LGグループ』など、主要企業社長16人が参加した中で「韓国経済再跳躍のための主要企業社長団緊急声明」を発表した。
キム・チャンボム『韓国経済人協会』常勤副会長は、
「最近、韓国経済は成長エンジンが弱まり、低成長が続いており、経済の柱となっていた輸出さえも主力業種の競争力弱化、保護貿易主義の拡散などで将来を保証することが難しくなっている」とし、
「韓国経済の不確実性を緩和し、成長エンジンを復活させるために企業が先に動く必要がある」と緊急声明の趣旨を説明した。
イベントに参加した主要企業社長団は声明を通じ、
「現在のような困難が続く場合、韓国経済は抜け出せない沼に陥る可能性がある」
と懸念を表明し、「経済界が韓国経済の再跳躍のために新事業の発掘と雇用創出に努力する」と約束した。
続いて「新市場開拓と技術革新で輸出競争力を高め、中小企業の技術支援、国内需要促進など民生経済を活かすことができる方案を積極的に推進し、内需活性化に先立ち」と明らかにした。
また、「革新を通じた企業成長性の改善、株主価値の向上とコミュニケーション強化で韓国証券市場の魅力度を高める」とし、国内証券市場の活力付与の意志も力を入れた。
社長団は経済心理回復のための国会、政府、国民の支持と支援も促した。
国会については、規制の立法より経済を生かすための法案に取り組むよう要請した。
特に、取締役の充実義務の拡大などが含まれた商法改正案は、訴訟南発と海外投機資本の攻撃で理事会の正常な経営活動を困難にし、新成長動力発掘を阻害することで企業と国内証券市場のバリューダウンに帰結することになり、関連法案の議論を中断するよう要求した。
政府に対しては、経済活性化のために果敢な規制改革を推進し、各国が先端産業支援に総力戦を展開しているため、AI、半導体、二次電池、モビリティー、バイオ、エネルギー、産業用素材などに支援を惜しまないよう要請した。
産業構造の大転換時代に韓国経済が再び飛躍の足場を築くことができるよう、企業は国民と共に歩んでいくことを誓った。
(後略)
社長団からは「このままだと韓国経済は底なし沼にはまり込む」と悲鳴のような声明が出ました。
もう片足以上ははまり込んでいるのですが、それはともかく、今回の緊急声明は「『共に民主党』のばか議員が進行しようとしている商法改正」についての「やめろ、バカなことをするな」というアピールです。
国会で圧倒的過半数を占める『共に民主党』が何をしようとしているかというと、まさに「バカなこと」です。
なぜバカなことといえるのか、またなぜ経済界が商法改正に猛反発しているのか――を理解していただくためには、「金融投資所得税」についての説明がいります。
今回は基本的な説明がいる話なので、かなり長い旅になりますが、お付き合いのほどをお願い申し上げます。
※もし面倒くさい方は最後の段落まで飛ばしてください。
金融投資所得税の撤廃と引き換えに……という話
これまで面倒くさいので触れずにきましたが、政府与党『国民の力』は「金融投資所得税の廃止」を推進しています。
そもそも「金融投資所得税」(略称「金投税」)というのは、株式や債券、ファンドなどの金融商品から得られた所得に対して課される税金です。
この税制は文政権政権下の2020年に導入が決定され、2025年01月からの施行が予定されていました。
一般投資家は「証券取引税0.15%」だけしか税金は掛からない!
まず、証券取引における現在の韓国の税制がどうなっているのかをご紹介します。
現在、韓国国内株式の取引に課される税金には、大きく分けて
●株式譲渡所得税
●証券取引税
の2つがあります。
「株式譲渡所得税」は、個人投資家の中でも大株主(基準金額50億ウォン、持分率基準KOSPI1%、KOSDAQ2%)にのみ課されます。
一方、「証券取引税」はすべての投資家に課されます。その意味では、より影響力が大きい税金といえます。
証券取引税は、株式を売却する際に課される税金。損をしょうが、得をしようが、保有していた株式を売却したら、その売却額に対して税率が適用されて、掛かる税金です。
ちなみに日本やアメリカ合衆国にはこのような税金はありません。
投資家にしてみれば「損をしているのに税金まで払わなければならないのか」という話で、所得を得たらそこに掛けるが当然だろ※――というわけで、韓国政府もこの証券取引税を段階的に下げています。
※この「所得を得たら税金払え」という考え方が「金融投資所得税(金投税)」につながります(後述)。
2022年にはKOSDAQ市場で「0.23%」だった証券取引税率が2023年には0.2%に引き下げられました。
2024年は「0.18%」で、2025年には0.15%になります。
例えば、100万ウォン(ざっくり1/10計算で10万円:以下同)相当の株式を売却した場合、利益があろうがなかろうが、問答無用で「1,800ウォン(約180円)」の税金が課されるわけです。
Money1でも連日ご紹介しているKOSPI市場の方はどうなっているかというと――証券時税の税率は2023年には「0.05%」で、2024年には「0.03%」まで引き下げられています(2025年には0%になる)※。
現行の韓国の税制では、特定大株主以外の一般個人投資家は上場株式の売買で得た譲渡益に対する税負担はなしですから――KOSPI、KOSDAQ市場ともに、証券取引税の0.15%だけが課せられるという――(まあ考え方によりますが)ちょっといい仕組みだったのです。
「金融投資所得税」は儲けたらかかる税金!
――で、「金融投資所得税(金投税)」の場合は、文字どおり金融投資で所得を得たら税金を払ってもらうよ――というもので、儲け※に対して税率が設定されています。
※「投資利益と損失を合算して残った純利益」が課税対象。
税率は、金融投資所得が3億ウォン以下であれば22%、3億ウォンを超えると27.5%を払わなければなりません。
※ただし控除額があるので、KOSPI、KOSDAQ市場での株式投資・売買については「5,000万ウォン(約500万円)」が控除されます。つまり、株式投資の儲けが5,000万ウォンまでは無税です。
「金融投資で儲けた奴には税金をしっかり払ってもらうよ」という、実に文在寅政権らしい話ではあるのですが、この金融投資所得税が2025年01月から導入される予定で進行してきました。
金投税導入をやめる代わりに「商法改正しよう」
――ところが、尹錫悦(ユン・ソギョル)政権は、この金融投資所得税の導入を撤廃しようとして動いてきました。
金融投資によって得た所得に課税するのをやめようよ――というものですから、韓国の国民にとっては「投資の後押し」になる良い話です。
なぜ尹錫悦(ユン・ソギョル)政権が金融投資所得税をやめようとしているかというと、市場にお金が入りにくくなるからです。税金が重くなるなら投資しないよ――という投資家が増加されたら困ります(ただでさえ脆弱な市場なので)。
また、文在寅政権下で推進して通した税制ですので、現在の最大野党『共に民主党』がなかなか賛成しません。
しかし、ここにきて『共に民主党』側も「金融投資職税の導入をやめてもいいかもね」と態度を軟化させまています。
――ですが、「その代わりに」と出してきたのが「商法改正」です。
『共に民主党』の商法改正の内容とは?
この『共に民主党』の商法改正案というのが、経済界が「ふざけんな!」という内容なのです。
具体的には、『共に民主党』は以下のような改正を目論でいます。
2.上場企業における独立取締役の割合を取締役総数の3分の1以上に引き上げること
3.資産総額2兆ウォン以上の上場企業に対しては、集中投票制の義務化
まず「1」です。
「忠実義務」は、要は「誰の顔を見て仕事をするか」です。
「忠実義務」とは、会社法や商法の概念の一つで、取締役や執行役がその職務を遂行するに当たって会社の利益を最優先し、誠実に職務を遂行する義務を指します。
普通は「会社」のためにという忠実義務があるのですが※、これを株主、総株主にまで拡大しようというのです。
「総株主」というのは、会社のすべての株主を指します。法律や経済の文脈で使われる場合には、特定の大株主や少数株主と区別して、会社の株式を保有しているすべての株主の集合を意味します。
『共に民主党』の商法改正が行われると、何が起こるかといえば、一株しか保有しない株式でもその会社の取締役に対して「オレの希望を聞かなかった。忠実義務違反だ」と訴訟を起こせる可能性が開かれます。
一株の株主でも株式総会で発言できたりしますが、会社のためにならない提案は多数決で否決されます。ところが、忠実義務を拡大すると、総株主に対していちいち忠実義務を負うことになるのです。そんなバカなカバナンスはありません。
「大企業は人民の敵だ」などと考えている左派・進歩系議員の提案しそうなことですが、ただでさえ訴訟リスクの高い、しかも詐欺行為が多発する国でこんな改正を行ったら、一体いかなることになるでしょうね。
次に「2」です。
現在でも社外取締役を置くことはありますが、「独立取締役」を1/3以上ボードに入れろ――というのです。独立取締役(independent director)は、会社の経営陣や主要な株主と直接的な利害関係を持たない外部の取締役を指します。
独立取締役の人数が増えることは、経営の監視を強化し、透明性を高めることにつながるかもしれませんが、逆に言えば、その会社に関わる取締役たちの力を想定的に弱めることです。
同族経営の色濃い韓国大手企業の経営スタイルを弱めることであり、左派・進歩系議員の考えそうなことではありますが、現在の企業経営陣が忌避する提案です。
最後に「3」です。
「集中投票制」(Cumulative Voting)というのは、会社の取締役を選出する際に株主が持つ議決権を1人の候補者に集中して投票できる仕組み※を指します。この制度は、少数株主が取締役選任に影響を与えることを可能にするためのものです。
つまり、これまた少数の株主でも経営に影響を与えることができるように導入しろ――といっているのです。
通常の議決権行使では、株主は各候補者に対して平等に議決権を行使します。例えば、取締役が5人選出される場合、株主は自分が持つ議決権を候補者ごとに均等に行使することが一般的です。
一方、集中投票制では、株主が持つ議決権を1人または少数の候補者に集中して投票できるため、少数株主でも取締役を選出する可能性が高くなります。
仮に株主が10票分の議決権を持っており、取締役が3人選出される場合には――、
通常の投票方式
株主は各候補者に対して、1票ずつ投票するのが基本です。
集中投票制
株主は3人分の候補に割り当てられる10票分の議決権を、1人の候補者に集中して投票することができます(例:1人に10票投じる)。
――総じていえば、『共に民主党』の商法改正案は、少数の人間でも大企業の経営を揺さぶれるようにする――ことを意図しているものと考えられるのです。
「企業経営にもっと透明性を」などといっていますが、これらがそのまま通ると、現在の韓国の特に大企業の経営陣は大きな掣肘を受けることになるでしょう。
だから韓国の社長団は反対する!
やっと本線に戻ります。
――というような、韓国の特に大企業の経営が制限されるような商法改正案が国会で話し合われているため、一番上でご紹介した「韓国経済再跳躍のための主要企業社長団緊急声明発表」というものが、突如出てきたのです。
これは上記のとおり経済界からの悲鳴です。
『共に民主党』は、左派・進歩系のアンポンタン議員ばかりなので、大企業の経営を揺さぶりたくて仕方がないのです。韓国では昔から財閥系企業は目の敵にされてきました。
現在でも「グループ企業」というのは、「総帥」などと呼ばれる人が仕切っているとされます。
『共に民主党』議員は、この揺さぶり、すなわち「大企業の経営を一部の人間が仕切っていることに対する掣肘」を「平等化」と呼ぶかもしれませんが、果たして、いまだに同族経営の色濃い韓国企業にそれがハマるでしょうか。
例えば、『サムスン電子』の李在鎔(イ・ジェヨン)会長の経営権が掣肘されるようになったら、同社の経営は安定するでしょうか。『SKグループ』の崔泰源(チェ・テウォン)会長の経営権が制限されたら、これまでのように素早い意思決定と実行が可能でしょうか?
韓国はよくも悪くも財閥系企業の独裁的な指導者によってこれまで発展してきました。
『共に民主党』議員の考えも分からなくはないですが、韓国企業の良い点をもオミットしてしまう一手にも見えます。
(吉田ハンチング@dcp)