2025年04月04日、憲法裁判所は尹錫悦(ユン・ソギョル)大統領に対する弾劾訴追を合憲と判断。尹錫悦(ユン・ソギョル)さんの大統領職からの罷免を宣告しました。
憲法裁判所の宣告の全文和訳が以下です。
大統領尹錫悦 弾劾事件に対する宣告を今から開始します。
▣ まず、適法要件について検討します。
➀ 本件戒厳令の発令が司法審査の対象となるかどうかについて
高位公職者の憲法および法律違反から憲法秩序を守るという弾劾審判の趣旨を考慮すれば、本件戒厳令の発令が高度な政治的決断を要する行為であるとしても、その憲法および法律違反の有無は審査の対象となります。
➁ 国会法制司法委員会の調査なしに弾劾訴追案が議決された点について
憲法は国会の訴追手続きを立法に委ねており、国会法は法制司法委員会の調査を国会の裁量としています。したがって、調査がなかったからといって弾劾訴追議決が違法とはいえません。
➂ 弾劾訴追案の議決が「一事不再理の原則」に違反するかどうかについて
国会法は、否決された案件を同一会期中に再提出できないと規定しています。第418回定期会において尹氏への第1次弾劾訴追案は投票不成立でしたが、本件弾劾訴追案は第419回臨時会で提出されたため、一事不再議の原則には反しません。
※ただし、これに関しては他会期でも弾劾訴追案の提出回数を制限すべきという裁判官チョン・ヒョンシクの補足意見があります。
➃ 本件戒厳が短時間で解除され、被害が発生しなかったため、保護利益が欠けているかについて
本件戒厳が解除されたとしても、戒厳の発令により弾劾理由は既に発生しているため、審判の利益が否定されるとはいえません。
➄ 訴追議決書では内乱罪等の刑法違反行為として構成していたものを、審判請求後に憲法違反行為に包括して主張した点について
基本的事実関係を維持しつつ、適用法条を撤回・変更することは、訴追理由の撤回・変更には該当せず、特別な手続きを経ずとも許容されます。
また、被請求人は内乱罪に関する部分がなければ議決定足数を満たさなかったと主張しますが、それは仮定に過ぎず、客観的根拠もありません。
➅ 大統領の地位を奪う目的で弾劾訴追権を乱用したとの主張について
本件弾劾訴追案の議決過程が適法であり、被訴追者の憲法または法律違反が一定水準以上証明されたため、弾劾訴追権が乱用されたとはいえません。
したがって、本件弾劾審判請求は適法です。
また、証拠法則に関連し、弾劾審判手続においては刑事訴訟法上の伝聞法則を緩やかに適用すべきという裁判官イ・ミソン、キム・ヒョンドゥの補足意見と、将来的にはより厳格に適用すべきという裁判官キム・ボクヒョン、チョ・ハンチャンの補足意見があります。
▣ 次に、被請求人が職務遂行において憲法または法律を違反したかどうか、そしてその違反行為が罷免に値するほど重大かについて検討します。
① 本件戒厳令の発令について
憲法および戒厳法によると、非常戒厳の実体的要件の一つは「戦時・事変またはこれに準ずる国家非常事態において、敵と交戦状態にあるか、社会秩序が極度に混乱し、行政および司法機能の遂行が著しく困難である状況が現実に発生していること」です。被請求人は、野党による多数議席を背景とした異例の弾劾訴追、単独での立法・予算削減行為などが深刻な危機状況を引き起こしたと主張しました。
しかし、戒厳発令時には検察官1名と放送通信委員長に対する弾劾手続きのみが進行中でした。
被請求人が問題視する法案は、再議要求や公布の保留により効力が生じておらず、予算案も予算決算特別委員会での可決のみで、本会議での可決はありませんでした。
→ よって、国会の行為が現実に重大な危機を引き起こしたとはいえません。
→ たとえ国会の行為が違法・不当であったとしても、通常の憲法的対応手段(再議要求や弾劾審判など)によって対応可能であり、国家緊急権の行使を正当化することはできません。
→ 被請求人は不正選挙の疑惑を払拭するための発令だと主張していますが、単なる疑惑では戒厳の要件にはなりません。
→ 中央選管は技術的なセキュリティ対策を実施済みで、CCTVや再集計制度の導入などもしていたため、正当化できません。
→ よって、客観的に戒厳発令を正当化できるほどの危機状況は存在していませんでした。
次に、手続的要件について
戒厳の発令および戒厳司令官の任命は国務会議の審議を経なければなりません。被請求人が発令直前に首相および9名の閣僚に趣旨を簡略に説明した事実はありますが、具体的内容は説明せず、意見表明の機会も与えませんでした。
また、首相および関連閣僚の署名もなく、実施日時・地域・司令官も公告せず、国会への即時通報も行わなかったため、手続的要件も満たしていません。
② 国会への軍・警察の投入について
被請求人は国防部長官に対し、国会に軍隊を投入するよう指示しました。これを受けて、軍人たちはヘリコプターなどを使用して国会構内に進入し、一部は窓ガラスを破って本館内部に侵入しました。
被請求人は陸軍特殊戦司令官などに対して「定足数を満たしていないようなので、ドアを壊して中にいる者たちを引きずり出せ」といった指示を行いました。
また、被請求人は警察庁長に対して戒厳司令官を通じて本件布告令の内容を伝えるよう指示し、自らも6回にわたって電話をかけました。これにより警察庁長は、国会への出入りを全面的に遮断するよう命令しました。
このため、国会に向かっていた国会議員の中には塀を越えて入る必要があった者や、まったく入れなかった者もいました。
一方で、国防部長官は必要時の逮捕を目的として、国軍防諜司令官に対し、国会議長、各政党の代表など14名の所在を確認するよう指示しました。
被請求人は国家情報院第1次長に電話をかけ、国軍防諜司令部を支援するよう依頼しました。国軍防諜司令官は国家情報院第1次長に、上記人物の所在確認を要請しました。
このように、被請求人は軍・警察を投入して国会議員の国会出入りを制限し、彼らを引きずり出すよう指示することで、国会の権限行使を妨害しました。これは、国会に戒厳解除要求権を付与している憲法条項に違反し、国会議員の審議・表決権および不逮捕特権を侵害したものです。
また、各政党の代表などの所在確認を試みたことで、政党活動の自由も侵害しました。
被請求人は、国会の権限行使を阻止するなど政治的目的のために兵力を投入し、国家安全保障および国土防衛を使命とする軍人たちが一般市民と対峙する状況を生じさせました。
これにより、被請求人は国軍の政治的中立性を侵害し、憲法に定められた国軍統帥の義務に違反しました。
③ 本件布告令の発令について
被請求人は、本件布告令を通じて国会、地方議会、政党の活動を禁止しました。これにより、国会に戒厳解除要求権を付与した憲法条項、政党制度を規定した憲法条項、代議制民主主義、権力分立の原則などに違反しました。非常戒厳下で基本権を制限するための要件を定めた憲法および戒厳法の条項、令状主義に違反し、国民の政治的基本権、団体行動権、職業の自由などを侵害しました。
④ 中央選挙管理委員会に対する押収・捜索について
被請求人は、国防部長官に対して兵力を動員し、選挙管理委員会の電算システムを点検するよう指示しました。これにより、中央選管の庁舎に投入された兵力は出入りを制限しながら当直職員の携帯電話を押収し、電算システムを撮影しました。これは、選挙管理委員会に対して令状なしで押収・捜索を行わせたものであり、令状主義に違反し、選挙管理委員会の独立性を侵害したものです。
⑤ 法曹関係者に対する所在確認の試みについて
前述のように、被請求人は必要時の逮捕を目的として行われた所在確認の試みに関与しましたが、その対象には退任から間もない元大法院長および元大法院判事も含まれていました。これは、現職の裁判官たちに対して「いつでも行政によって逮捕されうる」という圧力を与えるものであり、司法権の独立を侵害したものです。
▣ 最後に、以上の被請求人による法違反行為が、罷免されるほど重大なものかについて見ていきます。
被請求人は、国会との対立状況を打開する目的で本件戒厳を発令し、軍・警察を投入して国会の憲法上の権限行使を妨害し、国民主権主義および民主主義を否定しました。
また、中央選管に対する押収・捜索を指示し、憲法に定められた統治構造を無視し、本件布告令の発令を通じて国民の基本権を広範囲に侵害しました。
これらの行為は、法治国家の原則および民主国家原則の基本原則に反し、それ自体が憲法秩序を侵害し、民主共和国としての安定性に深刻な脅威をもたらしました。
一方、国会が迅速に非常戒厳解除決議を出すことができたのは、市民の抵抗および軍・警察の消極的任務遂行によるものであり、これは被請求人の法違反の重大性判断には影響を与えません。
大統領の権限は、あくまで憲法によって与えられたものです。被請求人は、最も慎重に行使されるべき国家緊急権を、憲法の定める限界を越えて行使したことで、大統領としての権限行使に対する不信を招きました。
被請求人が就任して以来、野党主導による異例に多い弾劾訴追により、多くの高位公職者の権限行使が弾劾審判中に停止されました。
2025年度予算案においては、憲政史上初めて、国会予算決算特別委員会で増額なしに減額部分のみを野党単独で議決しました。
被請求人が策定した主要政策は野党の反対によって実施できず、野党は政府が反対する法案を一方的に通過させ、被請求人による再議要求と国会での法案可決が繰り返されることとなりました。
こうした過程の中で、被請求人は、野党の専横によって国政が麻痺し、国益が著しく損なわれていると認識し、これを何としても打開しなければならないという重い責任感を抱いていたものと見受けられます。
被請求人が、国会の権限行使を権力乱用であるとか、国政麻痺を招く行為であると判断したこと自体は、政治的には尊重されるべき意見です。
しかし、被請求人と国会との間に生じた対立は、どちらか一方の責任とは断定できず、これは民主主義の原理に基づいて解決されるべき政治の問題です。
このような政治的見解の表明や公的意思決定は、憲法で保障される民主主義と調和する範囲内で行われなければなりません。
国会は、少数意見を尊重し、政府との関係において寛容と自制を前提とし、対話と妥協を通じて結論を導き出す努力をすべきでした。
被請求人もまた、国民の代表である国会を協治の対象として尊重すべきでした。
それにもかかわらず、被請求人は国会を排除の対象とみなし、これは民主政治の前提を破壊するものであり、民主主義と調和すると見ることはできません。
被請求人が、国会の権限行使を多数の専横と判断したとしても、憲法が予定する自救策を通じて牽制と均衡が実現されるようにすべきでした。
被請求人は、就任から約2年後に実施された国会議員選挙において、自らが国政を主導するよう国民を説得する機会がありました。
その結果が被請求人の意図に沿わなかったとしても、野党を支持した国民の意思を排除しようとする試みはあってはなりません。
にもかかわらず、被請求人は憲法と法律に違反して本件戒厳を発令し、国家緊急権濫用の歴史を再現して国民を衝撃に陥れ、社会・経済・政治・外交のあらゆる分野に混乱を引き起こしました。
国民すべての大統領として、被請求人は自身を支持する国民を超えて社会共同体を統合すべき義務がありましたが、それを果たしませんでした。
軍・警察を動員して国会など憲法機関の権限を毀損し、国民の基本的な人権を侵害したことにより、被請求人は憲法守護の義務を放棄し、民主共和国の主権者である大韓国民の信任を重大に裏切りました。
最終的に、被請求人の憲法違反・法律違反行為は、国民の信任を裏切ったものであり、憲法守護の観点から容認できない重大な法違反行為に該当します。
被請求人の法違反行為が憲法秩序に与えた否定的影響および波及効果は非常に大きく、被請求人を罷免することによって得られる憲法守護の利益は、大統領罷免による国家的損失をはるかに上回ると認められます。
よって、裁判官全員一致の意見により以下の通り宣告します。
この事件は弾劾事件であるため、宣告時刻を確認します。現在の時刻は午前11時22分です。
■主文:
被請求人 大統領 尹錫悦を罷免する。これをもって宣告を終了します。
――という判断を憲法裁判所は示しました。読者の皆さんはこの宣告文をどのように見られますか?
(吉田ハンチング@dcp)