2025年04月03日、世界的格付け会社『Fitch(フィッチ)』は中国の格付けを引き下げた――と公表しました。
引き下げたのは「IDR」(Issuer Default Ratingの略:発行体デフォルト格付け)です。IDRは、債券を発行してお金を借りた側(国や企業など)が、借金を返せなくなるリスクがどれだけあるか――を格付けしたものです。
中国政府が発行する外貨建て債券を購入する際には、この格付けを見て参考にしましょう――というものです。
これが下げられました。『Fitch(フィッチ)』のプレスリリースは以下ですが、「なぜ下げたのか」――の(主な)理由が書いてあるところを以下に引いてみます。
長いので面倒くさい方は強調文字などのカ所だけ見て飛ばしてください。
『Fitch(フィッチ)』、中国の格付けを「A」に引き下げ、見通しは「安定的」
2025年04月03日(木)8:30 ET/フィッチ・レーティングス(香港)フィッチ・レーティングスは2025年04月03日、中国の外貨建て長期発行体デフォルト格付け(IDR)を「A+」から「A」に引き下げました。
見通しは「安定的(Stable)」とされています。
格付けに関するすべてのアクションの一覧は、本稿の末尾に記載されています。
主な格付け理由
格下げの要因:
今回の格下げは、中国が経済構造を転換する中で、財政の悪化と急速な政府債務の増加が続くと予想されることを反映したものです。内需の低迷、関税の上昇、デフレ圧力の中、成長支援のための財政刺激策が継続されると見られ、同時に税収基盤の構造的な減少もあり、財政赤字が高止まりする可能性が高いです。
これにより、政府債務の対GDP比は今後数年間で急速に上昇すると予測されます。
基本的な格付けの裏付け:
中国は以下のような強みを有しており、これが財政の課題をある程度相殺します:大規模かつ多様な経済構造
他国と比較して安定した成長見通し
世界貿易における中心的な役割
健全な対外収支と豊富な外貨準備なお、中国政府は不動産依存型の成長から製造業や消費主導の経済への移行を支援するため、短期的な財政支出を強化しており、これは中期的な経済成長の下支えとなる可能性もあります。
拡大する財政赤字:
2025年の中国の一般政府財政赤字はGDP比8.4%に達すると予想され、これは2024年の6.5%から拡大。これは「A」格付け国の中央値(2.7%)を大きく上回っています。
2020年以降の平均赤字率は6.5%で、2015~2019年の3%の2倍以上。
地方政府の財政余力が限られる中、中央政府の役割が拡大しており、地方への移転支出が増えています。
財政健全化の難しさ:
構造的な税収の減少により、財政赤字の縮小は困難。2025年の政府歳入はGDP比21.3%に落ち込むと見込まれており、2018年の29.0%から大きく減少。
主因は地方政府の土地関連収入の減少と減税政策です。
2024年07月に発表された改革は、地方政府への歳入再配分が主眼であり、抜本的な歳入改革は不十分との評価です。
高水準の支出ニーズ:
国内需要の回復が緩やかと予測される中、先進産業への投資や消費拡大のための社会保障強化などで、政府支出は依然として高水準になると見込まれます。地方政府融資プラットフォーム(LGFV)の債務問題:
地方政府が抱える「隠れ債務」リスクへの対策が進められています。2024年11月の計画により、2024~2028年にCNY10兆元(GDPの7.4%)相当の再融資債を発行し、LGFV債務とスワップ(借換)を行います。これにより透明性の向上と資金調達コストの低減は期待されるものの、総債務の負担軽減にはつながらないと評価されています。
政府債務の急増:
政府債務の対GDP比は、2024年04月時点の『Fitch(フィッチ)』の予測よりも悪化。2025年には68.3%、2026年には74.2%に上昇と予測(2024年は60.9%、2019年は37.9%)。
「A」格付け国の中央値はおよそ57%。
2029年末にはGDP比80%に達すると予想しており、これは前回予測よりも10ポイント高い水準です。
債務上昇への耐性:
中国は外貨建て債務の割合が低く、国内貯蓄率が高いため、
⇒債務の持続可能性や資金調達の柔軟性は維持されています。これらの点が、今後の財政悪化に対する一定のバッファーとして機能するとフィッチは見ています。
(後略)⇒参照・引用元:『Fitch(フィッチ)』公式サイト「Rating Action Commentary Fitch Downgrades China to ‘A’; Outlook Stable」
要するに――政府負債がどんどん増加していて、増え方も異常なほどである、税収も減少しているので政府財政は火の車。

その上、地方融資平台の隠れ債務もあって、その全貌も明らかになっていない――などによって、中国政府の持続可能性についてリスクが高まっています。
「持続可能性のリスクが高まっている政府」が発行する債券を買う人がいますか?――という話です。
そりゃ格下げになっても当然でしょう。
格下げに反発する中国政府!
当然ですが、この格下げに対して中国政府は猛反発しています。格下げになると、債券を発行する際に利率を上げるなどしてプレミアムを付けないといけなくなるからです。
2025年04月03日、中国の財政部は記者からの質問に答えるちという体で、ブチブチ文句を述べています。以下に引いてみますが、要するに「(格下げは)認められない」というのです。
認められないも何も、格付けは「こっちで決めるわ!」なので、『Fitch(フィッチ)』からすれば失笑ものの言説をしています。以下をご覧ください。
記者の質問:
04月03日、『Fitch(フィッチ)』が報告書を発表し、中国の主権信用格付けを「A+」から「A」に引き下げました。これについて財政部の見解をお聞かせください。回答:
「今回の格付け見直しにあたり、私たちは『Fitch(フィッチ)』の評価チームと数多くの深い対話を行いました。『Fitch(フィッチ)』側は、中国が同等格付けの他国と比べてより安定した経済成長の見通しと世界貿易における重要な地位を有していることを認めていましたが、従来の格付け手法に固執した結果、今回の引き下げ判断は偏ったものであり、中国の実情や国際・国内市場における「中国経済の回復と好転」に対する共通認識を十分に反映していないと考えています。
これに対し、深く遺憾の意を表し、受け入れることはできません。
中国経済の基礎は堅固で、多くの強みがあり、回復力・潜在力ともに非常に高いです。
中国経済が長期的に好転するという支えとなる条件や基本的なトレンドは変わっていません。高品質な成長という大きな流れも揺るぎないものです。
2024年、中国の国内総生産(GDP)は134.9兆元に達し、5.0%成長を記録し、世界主要国の中で最も高い水準となりました。
(中略)
総じて見れば、中国経済は、内発的な成長力、活発な市場の力、政策の効果、そして発展の柔軟性が全面的に向上しており、回復の流れが定着・強化され、新たな成長の空間が広がりつつあります。
今後、中国は引き続きより積極的な財政政策と適度に緩和的な金融政策を実施し、政策の総合効果(ポリシーミックス)を重視します。
財政政策は、金融政策、雇用政策、産業政策、地域政策、貿易政策、改革開放の取り組みとの協調をさらに強め、政策の一体化と実効性を高めることで、中国経済の持続的成長にエネルギーを供給していきます。
中国政府はまた、十分な政策余地を確保しており、状況に応じて政策の見直し・調整を柔軟に行い、中国経済の健全で持続的な発展を確保するとともに、世界経済にもさらなるチャンスをもたらす考えです。
『Fitch(フィッチ)』はGDP対比で債務が◯%に……と数字を根拠に語り、格下げしたわけですが、この財政部の反論なるものに、数字は「2024年のGDPは134.9兆元」「5.0%成長した」しか挙げていません。
うん、あんたらが発表しているその数字がウソだということはみんな知っているよ――なので、こんなものは反論ではありません。
中国の財政部は現実を見てないのだ!
傑作なのは――、
中国経済は、内発的な成長力、活発な市場の力、政策の効果、そして発展の柔軟性が全面的に向上しており、回復の流れが定着・強化され、新たな成長の空間が広がりつつあります
――です。国民の皆さんがめそめそと悲嘆に暮れている、阿鼻叫喚の地獄絵図と化した現在の「中国」のどこに、
内発的な成長力
活発な市場の力
政策の効果
発展の柔軟性
があるのでしょう。そんなもの、どこにもありません。
中国の財政部は時空の歪みにでもいるのでしょうか。それとも違った時間軸にある中国を見ているのでしょうか。
こういうふうに司令部が「夢みたいなこと」を言い出すと、戦争は負けです。以下に至言を引いてみます。
虐殺の現場から遠ざかると、楽観主義が現実にとってかわる。
最高の意思決定レベルでは、往々にして現実が無視される。
戦争に負けているときには、特にその傾向が強い。
⇒参照・引用元:『新・戦争のテクノロジー』著:ジェイムズ・F・ダニガン,翻訳:岡芳輝,『河出書房新社』,1992年07月10日 初版発行,p353
中国の財政部は、もはや経済がボロ負け状態なので、現実を見ていないのかもしれません。楽観視したとしても、現実の経済戦争で勝つことはできません。妄想ではリアルな戦争には勝てないのです。
(吉田ハンチング@dcp)