韓国メディア『朝鮮日報』が興味深い記事を出しています。
Douglas Irwin(ダグラス・アーウィン)教授にインタビューした記事で、トランプ大統領の再登板によって韓国経済の先行きに暗雲が垂れ込めていますが、「いかに成すべきか」を聞いています。
このアーウィン教授は『ダートマス大学』経済学教授、ピーターソン国際経済研究所(略称「PIIE」)の上級研究員であり、貿易政策については権威とされています。同意教授の2017年の著書『Clashing Over Commerce: A History of US Trade Policy(商業衝突:アメリカ貿易政策の歴史)』は、『エコノミスト』誌が「今年の書籍」に選出しています。
このインタビューで注目すべきポイントは、韓国が推進してきたFTAがトランプ大統領の関税攻撃には役に立たない――という指摘です。
以下に該当箇所を引きます。
――韓国もトランプの関税ターゲットになる可能性があるが、どのように対応すべきか?
「私は、韓国政府がトランプの最初の任期中に比較的うまく対応したと考えています。
まず、韓国はホワイトハウスの外で支持基盤を確保することに注力しました。州議会や連邦議会の上下両院の議員、さらにアメリカ企業とも協力し、両国の経済関係の価値を強調する努力を行いました。
また、サムスンのような韓国企業が米国内に工場を建設したことも非常に有効でした。
このような対応を取ることで、たとえ関税が引き上げられても、リスクを分散させることができます」
――FTA(自由貿易協定)は防護壁にはならないのか?
「アメリカが、FTAを締結しているカナダやメキシコに対しても関税を課そうとしている状況を見てください。
FTAを結んでいても関税の対象になり得ることが明らかになりました。
もし韓国が米韓FTAを盾に安全だと考えていたのなら、カナダやメキシコのケースがその考えを揺るがすことになるでしょう」
韓国政府は、主要な輸出国である中国やアメリカから貿易圧力を受けながらも、輸出市場の分散に十分な努力をしてこなかったという批判を受けています。
特に、アジア太平洋地域の国々が結成した多国間FTA「包括的・漸進的環太平洋パートナーシップ協定(CPTPP)」への加盟に消極的だったことが代表的な例です。
政府は「CPTPP加盟国の多くとすでにFTAを結んでいる」と説明していましたが、農畜産物の輸入増加を懸念する農家の反発を考慮して加盟を見送ったというのが専門家の見方です。
――では、韓国のような輸出中心の経済はどのように生き残るべきか?
「韓国を含め、複数の国が取るべき最善の方法は、他の国や地域と二国間および多国間FTAを締結し、貿易ネットワークを多角化することです。
例えば、メキシコはアメリカ市場に依存するだけでなく、EUや世界各地とFTAを締結し、さまざまな市場を確保する努力をしています。
「UN Comtrade」(国際貿易統計サイト)によると、2023年のメキシコの輸出の79.6%がアメリカ向けでしたが、この比率を下げようと取り組んでいることが分かります。
※※『CPTPP』はComprehensive and Progressive Agreement for Trans-Pacific Partnershipの略。アジア太平洋地域における経済連携協定。
韓国もCPTPPなどに加盟し、貿易の多角化を図り、自由貿易を尊重する国々と協力すべきです」
(後略)
すでにFTAを締結しているカナダ、メキシコに大して関税を課すとしてトランプ政権ですので、FTAがなんら防壁壁にならないのは明らかです。韓国は二国間FTAを多くの国と締結する――という戦略を取り、「韓国の経済領土が拡大した」といってきました。
例えば、現在弾劾訴追されて職務停止に陥っている韓悳洙(ハン・ドクス)国務総理(首相に相当)は、以下のように語ったことがあります。
「対外開放問題は私たちの全体的な経済領土を増やすこと」
「多くの国が出席する多国間の自由貿易から私たちが落ちると本当に不利になる」
「積極的に参加して私たちが成長する一つの動力を維持しなければならない」
「(CPTPPから)韓国が抜ければ一番得をするのは恐らく日本だろう」
※2022年05月03日に行われた人事聴聞会における発言
「経済領土」って何だよ?――なのですが、多国間の自由貿易協定に参加しそこなうのは韓国にとって不利としています。しかし、一方でCPTPPに韓国が参加しなければ、一番得をするのは「日本」としています。
この点が引っかかるのか、韓国は「CPTPPに参加する」という公式な声明を出してはいません。「日本が得するかどうか」が争点になるというのは、いかにも韓国らしいといえます。
しかし、アーウィン教授は、FTAがバリアーにはならないのだから、韓国は多国間の自由貿易協定に励むべき――としています。
日本が得するかかどうかはともかく、問題は韓国がCPTPPに加盟できる状況なのか――という点ででしょう。
(吉田ハンチング@dcp)