2025年04月15日(現地時間)、アメリカ合衆国・ホワイトハウスは、145%だとしていた対中国関税をさらに積み上げて「最大245%の関税を課せられる」と言及しました。
合衆国と中国の関税賦課合戦は、これで245% vs 125%まできました。トランプ大統領は世界経済を恐慌に落とすつもりなのか?といわれたりしますが――焦点は世界恐慌などではありません。
今回の関税攻勢は「中国を絶対殺すマン」の所業なのです。
三つ首竜の「首を全部落とす!」ため
そもそもなぜ、関税攻勢を選択したのかというと――、
これまでの中国の経済成長は、
❶不動産市場
❷内需
❸輸出
の3つがドライブしてきた――という認識によります。
何度もご紹介していますが、いわば三つ首の竜だったわけです。
ところが、❶不動産市場はもはや壊滅状態ですし、❷内需市場も阿鼻叫喚の地獄絵図になっております。
3つの首のうち2つは死んだも同然ですから、あと一つ、残った❸「輸出」を斬り落としてしまえば、中国の経済成長を完全に殺すことができます。
そうして選択されたのが「高関税の賦課」戦術です。
ですから、これは「中国を絶対殺す」という作戦であって、中国が完全にギブアップする(合衆国と覇権を争うなんて考えを持たなくなる)までやめるつもりはない――と見なければならないのです。
トランプ大統領は、「戦争はしないよ」とうそぶいていますが、これはホット・ウォーをしないというだけであって(その割に爆撃はする)、経済的にひどい目に遭わさない――ことを意味してはいません。
いや、むしろ「戦争をしないで中国を屈服させることを目指している」ので、より経済的に苛烈なことを行うことになる――と見なければいけないのです。
いっそ「ぶん殴られた方がマシ」という状況は、現実の人間関係でも普通にあります。
適用関税率のいろいろ
トランプ政権が2025年04月に導入した「相互関税(reciprocal tariff)政策」に基づき、基本関税 + 追加関税が合計適用関税率になります。
例えば、日本の場合は計「24%」とされました。
中国に対しては「145%」とし、04月15日には「245%」となりました。中国以外の75カ国については90日間のモラトリアム期間が設けられています。
一応、各国が科せられた関税率を以下に挙げてみます(すでに旧聞に属する話なのでご存じの方は次の小見出しまで進んでください)。
中国 | 245% |
日本 | 24% |
欧州連合(EU) | 20% |
ベトナム | 46% |
台湾 | 32% |
インド | 26% |
韓国 | 25% |
タイ | 36% |
スイス | 31% |
インドネシア | 32% |
マレーシア | 24% |
カンボジア | 49% |
イギリス | 10% |
南アフリカ | 30% |
ブラジル | 10% |
バングラデシュ | 37% |
シンガポール | 10% |
イスラエル | 17% |
フィリピン | 17% |
チリ | 10% |
オーストラリア | 10% |
パキスタン | 29% |
トルコ | 10% |
スリランカ | 44% |
コロンビア | 10% |
ペルー | 10% |
ニカラグア | 18% |
ノルウェー | 15% |
コスタリカ | 10% |
ヨルダン | 20% |
ドミニカ共和国 | 10% |
アラブ首長国連邦 | 10% |
ニュージーランド | 10% |
アルゼンチン | 10% |
エクアドル | 10% |
グアテマラ | 10% |
ホンジュラス | 10% |
マダガスカル | 47% |
ミャンマー | 44% |
チュニジア | 28% |
カザフスタン | 27% |
セルビア | 37% |
エジプト | 10% |
サウジアラビア | 10% |
エルサルバドル | 10% |
コートジボワール | 21% |
ラオス | 48% |
ボツワナ | 37% |
トリニダード・トバゴ | 10% |
モロッコ | 10% |
アルジェリア | 30% |
オマーン | 10% |
ウルグアイ | 10% |
バハマ | 10% |
レソト | 50% |
ウクライナ | 10% |
バーレーン | 10% |
カタール | 10% |
モーリシャス | 40% |
フィジー | 32% |
アイスランド | 10% |
ケニア | 10% |
リヒテンシュタイン | 37% |
ガイアナ | 38% |
ハイチ | 10% |
ボスニア・ヘルツェゴビナ | 35% |
ナイジェリア | 14% |
ナミビア | 21% |
ブルネイ | 24% |
ボリビア | 10% |
パナマ | 10% |
ベネズエラ | 15% |
北マケドニア | 33% |
エチオピア | 10% |
ガーナ | 10% |
モルドバ | 31% |
迂回路を潰すための高関税が科される東南アジア
中国が145%になったのは合衆国に反抗的な態度を示して、合衆国に報復関税を科したためですが、「中国を絶対殺すマン」な姿勢を明らかにしたものです。
今回のトランプ関税で興味深いのは、中国と仲の良い東南アジア諸国にも高い税率が賦課されていることです。例えば、以下のような国々です。
カンボジア……49%
ラオス……48%
ベトナム……46%
ミャンマー……44%
バングラデシュ……37%
タイ……36%
インドネシア……32%
狙いは明らかで、中国の迂回輸出を封じるためです。
中国から直接合衆国市場に輸出すると145%なので、いったんベトナムへ出して、それから合衆国に輸出すれば……が今回は通用しません。合衆国はベトナムに46%の関税を科しました。
カンボジアやラオス、ミャンマーは40%超えの関税率が設定されています。
もちろんこれは、中国による迂回輸出を避けるためであり、トランプ政権からの「中国の迂回輸出に協力すんじゃねーよ」というメッセージです。
ベトナム政府からすれば、合衆国への輸出は行いたいですから、中国企業による迂回輸出に手を貸してはいません――と合衆国に証明しなければならないでしょう。「中国を絶対殺すマン」であって、ベトナムも絶対殺すマンではないからです。
ベトナムからすると、「中国の迂回輸出とは、このようにして手を切ります」と証明することが、合衆国との税率を下げてもらうためにの交渉になるでしょう。
迂回輸出という面では、日本と韓国は中国に狙われる可能性があります。145%と比べたら、日本「24%」、韓国「25%」ははるかにマシだからです。
実際、Money1でも少しだけご紹介したことがありますが、すでに韓国は「生産地のタグ付け替え」のための場所として利用されています。
日本も十分に気を付けないと、合衆国から難癖を付けられる可能性があります。
越境型ECの支える「抜け穴」も塞がれるので……
中国がこれまで推進してきた、越境型EC、すなわち『Temu』や『SHEIN』といった商売もおしまいになっていきます。
Money1でもご紹介した、米国通商法における「低価格免除(de minimis Provision:デ・ミニミス プロビジョン)」条項に見直しが入ったからです。

越境型ECが儲からなくなれば、そのイナゴような過剰生産性は中国内で発揮するしかなくなります。
結果がどうなるかといえば、内需の取り合いで過剰競争を引き起こし、さらに雇用が失われることになります。つまり、中国はさらに二進も三進もいかなくなるのです。
中国共産党は「人民のことなど考えてはいない」
ただし、合衆国政府もトランプ大統領もひとつだけ誤算があります。
相手が「中国共産党」だという点です。
普通の自由民主主義国なら、国民の生活がたちゆかなくなり、餓死しかねない状況になれば、敵とだって妥協したり、あるいは膝を屈したりといった何らかの手――を打つでしょう。
しかし、中国共産党はそんなことはしません。中国人が何人死のうが、中国企業が何社飛ぼうが、そんなことに心動かされたりしないからです。「なぜ、あいつらは音を上げないのか」と合衆国の方が焦っているかもしれません。
(吉田ハンチング@dcp)