韓国経済が少しずつ確実に泥沼に足を取られつつあります。この泥沼はお金が回らなくなるという流動性の危機です。
2020年03月26日、『ソウル経済』に「『満期PF』」借り換え発行が失敗…証券会社数百億ずつ抱える」という興味深い記事が出ました。少し引用いたします(専門用語が頻出しますので面倒くさい人は斜め読みで十分です)。
証券会社が保証した大規模な「不動産プロジェクトファイナンシング(PF)流動化証券」が、「海外株価連携証券(ELS)」のマージンコールに続いて短期資金市場の新しい火薬庫として浮上している。
今月末、来月末で12兆ウォンを超える「短期PF流動化証券」が満期を迎える中、新型コロナウイルス感染症の騒動と四半期末まで重なり、資金市場が硬直化を起こし証券会社が借り換え(ロールオーバー)に苦労しているからだ。
一部の証券会社は、ただでさえ資金が不足している状況で、借り換え発行に失敗した企業手形(CP)を、独自の資金で泣く泣く抱えている。
(後略)⇒参照・引用元:『ソウル経済』「『満期PF』」借り換え発行が失敗…証券会社数百億ずつ抱える」(原文・韓国語/筆者(バカ)意訳)
たぶん、読んでそのまま理解できるのは金融関係の仕事をされている方だけでしょう。今回は「マージンコール」は置いておいて「PF」の方が本題です。
まず、「不動産プロジェクトファイナンシング(PF)流動化証券」というのは、不動産開発を行う際に発行する債券。なにせ不動産開発にはお金がかかりますから、その資金を債券化して集めようとして発行されます。
債券なので、定められた利息を支払い、償還日があって満期を迎えたら元本を債券を購入した投資家に元本が払い戻されます(上掲はイメージ図)。
この資金を集める債券の償還期間を短く「3カ月未満」にして、細かく切り売りするようにしたものを「PF流動化証券」と呼んでいるのです。
償還期間を短くすることで利率を抑えることができますので、資金の調達コストが安くなります。
例えば国債でも、10年ものよりは5年もの、5年ものよりは1年ものと、利率が下がりますね。これは償還期間が長いと、将来何が起こるか分からないので、そのリスク分の利率を上げないと誰も買ってくれないからです。
債券の発行側からすれば利率を抑えて発行できるのは大きなメリットです。
また投資家側から見ても、償還期間が短い方が「すぐに元本が返ってくる」ので、リスクを小さくできるメリットがあります。
というわけで、韓国ではこの「PF流動化証券」は不動産開発の資金集めの手段として非常に大量に発行されてきました。かつてMoney1でもご紹介したことがありますが、なにせ韓国の人は不動産に投資するのが大好きです。PF流動化証券が流行るのも無理はありません。
どのくらい大量発行されているかというと、同記事内に、
証券会社の場合、毎日償還を迎えるPF関連流動化証券の規模は数百億~数千億ウォン台に達する。
とあります。ざっくり1/10で日本円に換算しても毎日数十億~数百億円ですからその規模は巨大です。
「PF流動化証券」の償還をロールオーバーでかわそうとするも……
ところが、「PF流動化証券」の償還ができなくなるような事態に陥っているというのです。同記事は以下のように伝えています。
資金市場が硬直化しており、高金利の借り換え発行でやっと凌ぐというのを続けている状況である。
つまり、資金難なのでロールオーバー(借り換え)のためのCP※1(コマーシャル・ペーパー)などを発行して凌いでおり、それも高利でしか発行できない状況になっている、といっています。
CPは約束手形の一種ですが、面倒くさい方は「企業が資金を集めるために発行するもの(つまり借金の手段の一つ)」とだけ考えてくださればOKです。
以前からご紹介していますが、償還日の前に次の借金をして、この新しい借金で前の借金を返してしまう、これがロールオーバーです。いわば借金の繰り延べ手段なわけです。
「PF流動化証券」の償還日が来る前に、CPを発行してお金を集め、それで償還日が来た分のお金を手当するわけです。
ところが、その新しいCPの発行が容易ではない状況になっています。
「投資需要が消え、証券会社が保証する3か月のCP金利(信用格付けA1)は、通常1.8~1.9%水準だったが、今月中旬2.4~2.5%まで上がった最近では、3%まで出ている」
と同記事内に金融投資業界関係者の声が引かれています。
また以下のようなロールオーバー失敗の実例が掲載されています。
26日金融投資業界によると、前日も償還期限が迫った300億ウォン規模の「インベストエッチ第一次(ホンイン都市開発PF)」は、借り換えのため「資産担保流動化企業手形(ABCP※2)」を発行したが、それは50億ウォンだけにとどまった。
残りの250億ウォンは買入約定保証を付けた「ハンファ投資証券」が独自資金でまかなった。借り換え発行された50億ウォンも証券会社の信用補強があり、信用格付けがA1だったにもかかわらず、3カ月物が4.2%に達する高い金利を付けることでやっと投資家を求めることができた。
※2ABCPは「Asset-Backed Commercial Paper」の略で日本語では「資産担保コマーシャル・ペーパー」などと訳されます。面倒くさいので「CPの一種」と考えてください。
つまり高い利率を保証しないと、投資家がCPを買ってくれないのです。そもそも利率が低いことが「PF流動化証券」の売りだったのに、そのお金を償還するために高い利率を付けたCPを発行しなければならない、という極めてバカバカしい、しかし恐ろしい事態になっているのです。
証券会社は約12.6兆ウォンの償還に耐えられるのか?
高利でもCPが発行できてお金の手当がついた場合はまだましで、それが無理な場合には、証券会社自身がそのお金を被らないとならなかったりします(同記事内では「買入約定保証」「最終償還保証」と記載しています)。
さらにマズイことに、同記事によると、2020年03月には「PF流動化証券」と「資産担保流動化企業手形(ABCP)」などを足して3兆1,612億ウォンが満期を迎え、翌04月には計9兆4,758億ウォンが満期を迎えます。
合計して「約12兆6,370ウォン」。日本円で「1兆1,375億円」※3です。この巨額の償還が果たして可能でしょうか?
というわけで韓国の証券会社は今、未曾有の危機にさらされています。
ずいぶんな長文になってしまいましたが、最後までお付き合いを賜わり誠にありがとうございました。
追記
この記事で積み残した「ELS(株価連携証券)のせいで韓国の証券会社が大変な目に遭っている」という件をご紹介する以下の記事を制作しました。本記事と併せてお読み頂ければ幸いです。
※3
2020年03月26日のレートで換算
※1の追記
CP(コマーシャル・ペーパー)については以下の記事内でご紹介しています。
(柏ケミカル@dcp)