1997年のアジア通貨危機で事実上破綻し、財閥が解体されるなどのひどい目に遭ったので、韓国メディアは時に『IMF』(International Monetary Fundの略:国際通貨基金)のことを「死神」と呼びます。
「死神との話し合い」というのは毎年のことですが、2022年の大統領交代までは現在『韓国銀行』の総裁になっている李昌鏞(イ・チャンヨン)さんがアジア太平洋局長としてよく韓国政府と会っていました。
死神は「財政の健全化に取り組まないと危ないよ」
2023年02月16日、Vítor Gaspar(ビクター・ガスパー)財政局長が企画財政部第2次官と面談を行いました。以下が企画財政部が出したプレスリリースです。注目ポイントを和訳します。
企画財政部第2次官は2月16日(木)14:30、政府ソウル庁舎でIMFのビクター・ガスパー(Vítor Gaspar)財政局長と面会し、韓国の財政健全性の現状と健全財政調整の必要性、財政準則の導入方向などについて議論した。
➊ 韓国の財政健全性の現状と健全財政調整について
チェ次官は、最近の急速な国家債務の増加速度と少子高齢化など中長期的な財政状況を考慮し、財政基調を見直す必要があると述べた。低出生率・高齢化など中長期的な財政状況を考慮し、財政基調を健全財政に転換したことを明らかにした。ガスパー局長は、主要国の予算案を調べた結果、徐々に財政赤字を減らしながら財政健全性を回復しようとする試みが共通していると述べた、
ㅇ韓国は今後、債務増加速度が最も速い国の一つである。特に、人口構造の変化に対応するために先制的な財政健全性管理が必要である。そのため、健全財政への転換は合理的な判断だと評価した。
(中略)
ガスパー局長は、財政準則導入国において財政収支の改善が観測され、 国家債務がより早く安定化する様子が見られたという研究結果※に言及、 財政準則の導入は韓国の財政健全性向上に貢献すると述べた。
※’70~’18年55ヵ国を分析した結果、準則導入国で財政収支が改善され、危機後、債務水準が急速に安定化する様子を観測(IMF、’21年10月Fiscal Monitor)
ㅇまた、高物価・高金利・景気減速などの厳しい状況にもかかわらず、財政の持続可能性のために財政準則を導入しようとする韓国政府の努力を高く評価するとし、財政準則の導入は先送りしてはならない課題だと強調した。
ㅇ特に、財政準則の実効性を担保するためには、財政準則が必ず国会で法制化されなければならないと強調し、韓国の財政準則法制化の動向に持続的な関心を持って見守りたいと付け加えた。
最後にガスパー局長は、今回の面談を通じて韓国の財政基調がグローバルスタンダードに適合していることを確認し、韓国の財政準則の導入方向についてIMFも支持を送ることができる機会であったと答え、面談を終えた。
「うちは財政健全化に取り組んでいます」果たしてそうかな?
このプレスリリースからすると、企画財政部の次官は「(前文在寅政権とは異なり)財政の健全化にとりくんでいる」と強くアピールした模様です。
これは、『IMF』が前文在寅政権が支出を600兆ウォンまで膨らませて、結果債務が異常に増加したことを注視してきたからです。
その上で、韓国を「債務増加速度が最も速い国の一つ」であると指摘。人口減少が極端で、最も速く消滅する国といわれていることも念頭に、健全財政へ転換するようにと警告しました。
この場合の健全財政というのは、収入と支出が均衡するように――という、日本でも指摘されているものです。MMT的にはそんなもの無視すればいいのですが、通貨主権がどこまで強いのか分からない韓国は『IMF』の言いように従うのが身のためです。
『IMF』は一応「財政準則(守らなければならに財政上のルール)を制定しようとしている韓国は合理的」としましたが、完全にリップ・サービスです。
なぜなら「財政準則が必ず国会で法制化されなければならない」と釘を刺すことを忘れていません。
支出を膨らませ過ぎて政府債務を異常に増やした前文在寅政権は、末期に「2022年までは拡大財政で、2023年からは財政準則どおりにする」と、驚くべき次期政権への丸投げを示唆。「財政準則を法制化する」と一応いいましたが守りませんでした。
何もしなかった前政権の無責任さを、今回『IMF』は突いているのです。
もし法制化できなければ、恐らく『IMF』は韓国について厳しいリポートを出すでしょう。
そうなると、これが韓国が恐れる「信用格付け会社による格付け低下」につながる可能性が高まります。そのため、韓国はとりあえず死神の言うことを聞くしかないのです。
ガスパー局長は「韓国の財政準則法制化の動向に持続的な関心を持って見守りたい」と述べていますが、これも脅しに他なりません。「やらないなら……分かってるよね」です。
「ほら、消えるよ……消えるよ……」
韓国経済は難しいところにきていますが、尹錫悦(ユン・ソギョル)政権が全てを正すことはできません。また、先にご紹介したとおり、韓国の場合にはMMT的財政の実験場になっても良かったでしょう。左派・進歩系政権なら「後先考えずに」突っ走れたかもしれません。
仮に李在明(イ・ジェミョン)さんが大統領になっていたら、公約だった「利払いなしの永久債」を発行していたかもしれません。これなど、大きな経済学的実験になったはずです。
日本からすれば、それで韓国が失敗しても「他山の石」で知ったことではありませんし、通貨主権が日本よりはるかに弱い韓国がそれで成功するなら大いに参考になるはずでした。その李在明(イ・ジェミョン)さんの政治生命も、もはや「風前の灯」なわけですけれども。
落語「死神」のサゲみたいです。「ほら、消えるよ……消えるよ……」
(吉田ハンチング@dcp)