2020年07月27日、韓国企業『S&T重工業』は、
「自社で製作した『韓国産』の変速機をK2戦車に装備しても問題はない」
と声明を出しました。
韓国ウォッチャーなら「えっ!」と驚かれるでしょう。一般の方はご存じないかもしれませんが、これがまた……実に、世にもアホらしい話なのです。
少し長くなるかもしれませんが、一席お付き合いのほどを。
何回やっても耐久試験をクリアできない!
韓国軍は純国産と主張する「K2」という戦車を配備しています。
戦車を純国産で造るという志、まあそれはいいでしょう。壮挙というか暴挙というか、微妙な線ですが、問題はそれが本当に実現可能かどうかです。
『S&T重工業』はこの戦車用の「変速機」の製作を2014年に受注したのですが、これがまたひどい出来栄えで、同社の製作したものは政府防衛事業庁の行った耐久試験に合格できませんでした。
しかも6回も試験を重ねて全ボツという結果。
揚げ句、逆ギレして「試験が厳しすぎる」と韓国政府を告訴する姿勢を見せる始末。
まだ当時の記事がネット上に残っていますので以下に引きます。
現在『S&T重工業』は耐久性テストに通過していない段階である。
(中略)
『S&T重工業』は「防衛事業庁は、技術的に満たすことができない耐久性試験を基準としている」
とし
「9,600㎞の耐久性試験中にいかなる欠陥もなく走行を完了させることができる企業などどこにもない」
と主張した。
(後略)
⇒参照・引用元:『毎日経済』「変速機の国産化の議論…K2戦車8カ月『ストップ』」(原文・韓国語/筆者(バカ)意訳)
※赤アンダーライン、強調文字は筆者による(以下同)
韓国の防衛事業庁が無茶な試験を課したかどうか、筆者は軍事についての知識がさほどありませんので判断がつきかねますが、しかし試験にクリアできないのを「試験が難し過ぎるからだ」とするのは、あまりいい態度ではないでしょう。
とにかく同社は韓国軍が要求する水準を満たしたものを造れなかったのです。
エンジンと変速機を組み合わせたユニットは「パワーパック」と呼ばれますが、都度都度「パワーパック不良」として韓国メディアを賑わせてきました。
結局、政府が折れて基準を引き下げるハメに
このような騒動で2016年量産分の戦車には同社の変速機は採用されませんでした。やがて防衛事業庁もしびれを切らせて変速機はドイツ製を使うと宣言。
パワーパックは、韓国企業『斗山インフラコア』の製作したエンジンにドイツ企業『Renk』(トランスミッション・ギアの総合メーカー)製の変速機を組み合わせることになったのです。
しかし、国産化の夢は捨てず、国産の変速機ができたらそれに換えようというわけで、『S&T重工業』は開発を継続してきました。
で――2020年07月29日現在です。
どうなったかといいますと、結局『S&T重工業』は要求性能を満たすことはできませんでした。
2020年07月28日付け『朝鮮日報』の記事を以下に引用します。
韓国政府の防衛事業庁(防事庁)が、16年にわたり開発を進めているK2戦車のパワーパック(エンジンと変速機を結合した動力装置)国産化事業と関連して、『S&T重工業』が開発中の変速機の耐久性基準を70%へ下げる代わりに価格も70%とする案を検討していたことが27日までに分かった。
基準に達しなくとも、その分だけ価格を下げて戦力化したいという意味だ。
厳格な水準が要求される武器事業を、事業者に便宜を図ってやろうとしているのではないか、という疑惑が浮上している。
⇒参照・引用元:『朝鮮日報』「基準に満たない戦車向け部品、韓国防事庁が安価買い入れを検討」(原文・韓国語/筆者(バカ)意訳)
要求基準を70%しか満たしていないので、価格も70%でいいだろう、仕方ないから買ってやらぁという驚愕するような話になっています。
「ひどい目に遭ったのはウチの方だ」といわんばかりの態度(笑)
で……長い旅でしたが、一番上でご紹介した
「自社で製作した『韓国産』の変速機をK2戦車に装備しても問題はない」
という『S&T重工業』の発言につながります。
『韓国経済』の2020年07月27日の記事から以下に引用します。
27日、『S&T重工業』によると、K2戦車用の国産変速機は、過去9年間、険しい研究開発の過程を経て、試験評価に合格した製品で、既に「戦闘用適合」判定を受けたとしている。
(中略)
『S&T重工業』側は、独自の開発費に約270億ウォン、棚卸資産約400億ウォン、機会損失コストは約200億ウォンなど870億ウォンの損失をはじめ、現代ロテムから遅滞罰金(納品が遅延したら支払う契約:筆者注)と連携した前金、契約履行に関する228億ウォンの訴訟を提起された状態であり、過去4年間に180人の従業員が有給休職に入るなどの困難を経験していると付け加えた。
⇒参照・引用元:『韓国経済』「S&T重工業、K2戦車変速機の性能の議論一蹴」
『S&T重工業』は、「ついに要求水準を満たせなかった」のに、「うちの損害は甚大だ」と主張しているのです。
「いや、そもそもあんたが満足なものを造れなかったのが原因でしょ!」と全方位から突っ込まれると思われるのですが……まあ、大したツラの皮の厚さという他はありません。
韓国軍にとっては7掛けでも大損ではないでしょうか。というか、採用するの!?です。
『K2戦車』Photo(C)Simta
(吉田ハンチング@dcp)