「カタールからLNG(液化天然ガス)運搬船を100隻受注した!」と誇らしく喧伝したのに大失敗――という話の続きです。
安値受注の報いがきています。
100隻受注ジャックポットの裏側
2020年06月01日、カタールの国営エネルギー会社『カタール・ペトロリアム』(「QP」と略します)は、韓国の造船大手『大宇造船海洋』『韓国造船海洋』『サムスン重工』3社と「LNG運搬船100隻を発注する」契約を締結した――と発表しました。
この件はすぐに韓国メディアの記事となり、「ジャックポット受注」という惹句が踊りました。
しかし、この契約は「スロット契約」と呼ばれるもので「造船のためのドックを確保しておいてね」というものでした。本発注はその後で、という契約だったのです。
そうであっても、この100隻受注は韓国の造船業界を大いに賑わせました。
Money1でもしつこくご紹介してきましたが、韓国の大手3社は業績が悪化して赤字続きだったからです。本発注がくる前に会社が飛びそうな状況に陥っていました。
ですから、韓国造船3社は不利な条件でも「かまうものか」と飛びついた可能性が高いのです。100隻受注はすごいことですが、これは韓国企業にありがちな受注劇だったのです。
『亜州経済(韓国語版)』の記事によれば、このときの契約では、LNG運搬船1隻当たり「約1億8,600万ドル」と定めたことが分かりました。
2020年当時の価格は約1億9,000万ドルとのことなので、約400万ドル安く受注したことになります。
また、この契約では「原材料価格の引き上げ、船舶金融費用の増加などを考慮した船価の変動条項」が外されていました。
つまり、後で何か原価上昇につながるようなことが起こっても1隻当たり「約1億8,600万ドル」で造れ――という契約です。
しかしその後、船を造るための材料、鋼板の価格が異常なほど上昇しました。
(韓国内の)鋼板価格は2020年当時60万ウォン台から110万ウォン台まで、ほぼ2倍といっていいほど上昇したのです。
これでは1隻当たりの単価が守れるわけはありません。先にご紹介したとおり、現在ではLNG運搬船は1隻平均「2億2,500万ドル」まで高騰しているのです。
1隻造る毎に赤字が出るので、とてもではありませんが、赤字を100隻分積み上げる事業など行えません。
そのため、韓国造船大手3社は『QP』と交渉を行っています。しかし、そもそもの契約に「船価の変動条項」がないので、この交渉は無理スジです。
安値受注を押し通したツケが回ってきたわけで、まさに自業自得。交渉というよりも「泣きつき」という他ありません。
韓国の造船業界からは「最終交渉ができる」という条項を入れて安全装置にした――との主張が出ているのですが、これが本当かどうかは分かりません。
ともかく、韓国造船大手3社は『QP』との交渉を続けています。
仕方がないので政府が乗り出す
この泣きつきの結果がどうなるかですが、『亜州経済(韓国語版)』の記事によれば「予期せぬ対外環境のの急変(資源価格の急騰:筆者注)により、遅れて交渉を試みているが、カタールエネルギーは造船3社の要求を受け入れるつもりはないようだ」となっています。
そもそも契約になかった部分を後から交渉しているわけで、『QP』が門前払いの構えでも非難することはできません。
韓国との話でよくある「契約書を交わしだろう! なんで守らないんだよ!」です。
しかし、『QP』としても予定どおりにLNG運搬船が完成しないことには国家戦略に関わります。
先にご紹介したとおり、カタールからすれば、LNGの生産を拡大し、大船団を保有して世界へLNGを運搬しようというビッグプロジェクトなのです。
「韓国に発注したけどできませんでした」では困るのです。そのため、すでにカタールは一部のLNG船舶の本発注を中国に回し始めています。
仕方がないので政府がアップを始めました。
韓国メディアよれば、「産業通商資源部はこの契約件と関連して、最近カタール側と交渉の席を主催し、造船3社にも持続的な共助を要請したことが確認された」とのこと。
しかし、韓国政府からしても困った事態になっています。韓国が輸入しているLNGの25%はカタール産。カタールの機嫌を損ねたらエネルギー危機があり得ます。
また、韓国政府としてはLNG船舶の価格上昇を望みません。なぜなら、船舶価格の上昇は運賃の上昇につながり、輸入するLNG価格の上昇を引き起こすからです。
つまり、造船大手3社は「納品するLNG運搬船の価格を上げてくれ」という泣きつきを行っているのですが、政府としては「値上げ」をあまり進めたくはないのです。
ややこしい話ですが、そもそも安値で受注、よく考えていない契約書を結んだのは造船3社なので(しかも政府もしっかり関わっています)、何度も言いますが「身から出た錆」です。
この世にもあほらしい話がどのように決着するのかにご注目ください。
(吉田ハンチング@dcp)