2023年02月07日、韓国のソウル中央地方裁判所は、ベトナム戦争時、1968年02月1日に韓国軍(青龍部隊第1大大隊第1中隊所属の兵士)が「フォンニィ・フォンニャット村」で70人余りの住民を虐殺した事件について、韓国政府に賠償責任があるという判決を下しました。
この裁判の原告はベトナム人、グエン・ティ・タンさん。
2020年04月、韓国政府を相手どり訴訟を起こしました。
グエン・ティ・タンさんは当時8歳。村に暮らしていましたが、この事件で家族5人を失い、自身も左脇腹に韓国軍による銃撃を受けました。今なお後遺症があるとのこと。
この裁判では、叔父に当たるグエン・ドク・チョイさんも訪韓して証言台に立ちました。
グエン・ドク・チョイさんは、2022年08月09日、証人尋問で「無線機を通じて韓国軍人がフォンニィ村の住民たちを殺しているとの知らせを聞き、フォンニィ村の近所に行った」「望遠鏡を通じて韓国軍人が村の住民たちを殺す姿を見た。韓国語で怒鳴りつける声も聞いた」など、当時見聞きしたことを証言しました。
なぜ韓国語だと分かったかというと、グエン・ドク・チョイさんは「普段から韓国軍人をしばしば見て顔を知っていたし、食堂や店、路上などで韓国軍人と会い韓国語も何度も聞いていた」と証言しています。
また「民間人を殺害した韓国軍が立ち去った後に米軍と共に村に入り、あちこちに積まれていた遺体数十体を発見し、多くの家屋が燃えている様子も見た」とも述べました。
グエン・ドク・チョイさんが証言した時点での韓国メディア『ハンギョレ』の記事(2022年08月09日付け)によれば、韓国政府は責任を否定する立場でした。記事から引用すると以下のような具合です。
(前略)
韓国政府はグエン・ティ・タンさんが韓国軍によって被害を受けた事実が十分に立証されていないとし、責任を否認する立場だ。米軍に対抗したベトナム民族解放戦線が心理戦のために韓国軍に偽装し民間人を攻撃した可能性があり、韓国軍が民間人を殺害したとしても、交戦状態においてフォンニィ・フォンニャット村の住民を敵と誤認した可能性を排除できないとも主張している。
(後略)
原告は、事件発生の1年後に米軍からせっつかれて韓国軍が出した報告書について、どのようなものだったのか提出を求めましたが、被告の韓国政府はそれに応じていません(韓国軍がいやいや作ったものなので非常にずさんな報告書だった可能性があります)。
「フォンニィ・フォンニャット村」の事件は、アメリカ合衆国軍による調査が行われており、1970年01月10日に
「韓国軍部隊による虐殺事件であった」という報告書が出されています。原告のグエン・ティ・タンさんは、この報告書、自身の経験を基に韓国で裁判を起こしました。
本来であれば、ベトナム人が韓国で起こした裁判なので、門前払いしてもおかしくはないのですが、本件を担当したパク・ジンス部長判事は、「ベトナムと韓国、共に内・外国人に同じ権利と義務を保障しているという事情を考慮すれば、この事件に韓国の国家賠償法を適用できる」としました。
政府側は「民法上の時効が過ぎた」と主張していたのですが、「原告にこの訴訟を提起できる時になるまで権利を行使できない事由があった」と一蹴しました。
その上で、「大韓民国海兵隊所属の兵士たちが作戦中に原告の家族と親戚を脅し、彼らに銃撃を加えて射殺した事実が認められる」とし、「これは明らかな違法行為に該当する」と判断。
ソウル地裁のパク部長判事は原告の勝訴、慰謝料4,000万ウォンとしました(ただし原告が3,000万100ウォンの支払いを求めているので実際に支払われるのはこの金額になる模様)。
敗訴した政府側が上告するかどうかの情報はまだありません。
(吉田ハンチング@dcp)