必死だな……の続きです。
2025年12月18日、韓国の企画財政部が興味深いプレスリリースを出しました。タイトルは「国内外貨流入を促進するための『外国為替健全性制度の弾力的調整方案』を設ける」です。
国内への外貨流入を促進するための
「外貨健全性制度の弾力的調整方案」を策定1.高度化された外貨流動性ストレステストの監督上の措置を来年6月末まで期限付きで猶予
2.外国系銀行の国内法人に対する先物為替ポジション比率規制を200%に緩和適用
3.輸出企業に対するウォン建て用途の外貨貸出の許容範囲を拡大(設備資金 → 設備・運転資金)
4.外国人の国内株式投資の利便性向上のため、外国人統合口座を活性化
5.海外上場外国企業の専門投資家としての地位を明確化し、外為取引の不便を解消
企画財政部、金融委員会、韓国銀行、金融監督院は、外為市場において構造的な需給不均衡が長期間にわたり累積し、最近ウォン/ドル為替レートの変動性が持続していることを受け、市場状況に合わせて外貨健全性制度を弾力的に調整することとした。
最近の外為市場の状況は、過去の危機とは異なり、金融機関の外貨流動性など対外健全性は非常に良好な水準にあるが、既存の外貨健全性制度が国外からの資本流入を制限することに重点を置いており、内国人の海外投資などによって外貨流出が継続的に拡大している最近の市場状況を十分に反映できていない側面があった。
(後略)⇒参照・引用元:『韓国 企画財政部』公式サイト「国内外貨流入を促進するための「外国為替健全性制度の弾力的調整方案」を設ける」
何を意図しているのか――と見てみましょう。
まず「1」です。
韓国当局は近年、「危機時にドルが何日持つか」を日次で厳しく測り。高度化外貨流動性ストレステストを銀行に課していました。
基準を満たさないと、
・外貨をもっと積め
・流動性改善計画を出せ
という監督措置が入ります。このテストを緩めるということは、余分にドルを抱え込む必要がなくなる・外貨を市場に回しやすくなる――ということです。
すなわち「銀行に『ドルをため込ませない』ためのものです。
「2」です。先物為替ポジション規制というのは、「銀行がどれだけ為替取引でドルを動かしていいか」の上限を示すものです。
これまで
・国内銀行:75%
・外銀支店:375%
・外銀「国内法人」:75%(「なんだこりゃ」というレベル:厳しすぎ)
――でした。75% ⇒ 200%までOKとするわけですから、これは「外銀にもっとドル取引をさせるため」です。外資系の銀行は外貨の調達能力が高いわけで、それを狙った「外銀経由のドル流入を増やすため」の仕組みです。
「3」の「輸出企業に対するウォン建て用途の外貨貸出の許容範囲を拡大(設備資金 → 設備・運転資金)」ですが、外貨をためこんでいる輸出企業に、ドル ⇒ ウォンの両替を促すための措置です。
これまで外貨貸出は「海外用途」が原則で、国内で使うために外貨を借りるのは厳しく制限
すでに設備投資分は解禁していたのですが、今回は「運転資金」まで拡大しました。
輸出企業に「ドルを国内に持ち込ませ」て、市場でのドル売り・ウォン買いを発生させて「ウォン安を阻止するため」の方策です。
面白いのは――1997年アジア通貨危機(韓国側呼称は「IMF危機」)のトラウマがあるため、本来は極力避けてきた手段のはず――という点です。
今回は「背に腹は代えられない」ということでしょう。「やる」ことに踏み切りました。
「外国人の国内株式投資の利便性向上のため、外国人統合口座を活性化」ですが、外国人が韓国の証券会社口座を作らず、自国の証券会社から韓国株を直接売買できる仕組み――の導入です。
海外資金(特に株式投資マネー)を呼び込むのが目的で、株を買ことで「ドルを売ってウォンを買う」ことを行わせようとしています。要は、これも「ウォン売り・ドル買い」に対抗するためのものです。
「海外上場外国企業の専門投資家としての地位を明確化し、外為取引の不便を解消」ですが、海外上場企業(多国籍企業)が韓国で為替ヘッジやデリバティブ取引をする際「一般投資家扱い」されて面倒だったのを解消し――「海外上場企業=自動的に専門投資家」と認定、書類確認・原取引確認を不要にするものです。
早い話が「外資系企業に『韓国で金を回してもらう』ためのもので、これまた外貨を呼び込んで、ウォンに換えさせたい――を意図したものといえます。
狙いは「ウォン安の阻止」
企画財政部が公表した施策の全ては、「韓国にドルを呼び込みたい」ことを狙ったものです。
しかし間違えてはいけないのは、ドルを呼び込みたいのが目的ではなく、その先にある「ドル売り・ウォン買い」をさせたいのが目的だ――という点です。
もちろんウォン安を止めるためです。
しかし、ドル売りを行うにしても「ないものは売れません」。だから、ドル装填のために、ドルを呼び込む措置を行うのです。
つまり――「ウォン安阻止に必死だな」――です。
(吉田ハンチング@dcp)






