韓国では、政府・企業・家計の三部門で負債が増加しており、これは大きな問題です。
家計負債は文在寅前政権時に異常に増加し、増加速度を抑えろと『IMF』(International Monetary Fundの略:国際通貨基金)から指摘されたほどです。
家計負債の対GDP比率は「93.5%」※です。統計基準年の見直しがあったので、若干下がりましたが、家計負債の規模的には世界最悪クラスです。
※2023年時点。統計基準の見直しがなければ「100.4%」で、韓国の家計負債はGDPを超えていたのです。ちなみに『IIF』によると主要34カ国のうち「家計負債対GDP比率」が最悪なのは韓国です。
家計負債がじゃぶじゃぶ増えるのは、不動産市場と密接に関連しています。韓国の皆さんはいまだに「家の価格はいつまでも右肩上がり」な神話が生きており、すきあらば借金をして(住宅ローンを組んで)不動産にお金を突っ込むのです。
これが韓国人の資産のほとんどが不動産になる理由です(国富のほとんどが不動産になるのも同じ)。
よその国の話なので好きにすればいいのですが、不動産市場が右肩上がりになるとその分負債がどんどん積み上がるという構造で、逆にいえば、調整局面がくると韓国人の多くが大打撃を受けるという脆弱なものになっているのです。
何か良い手はないのか――ですが、『韓国銀行』の李昌鏞(イ・チャンヨン)総裁が面白い提案を行いました。
住宅をターゲットとする韓国版REITを作るのはどうか?
2024年11月05日、李昌鏞(イ・チャンヨン)総裁は「『韓国銀行』-韓国金融学会共同政策シンポジウム」に出席。
「REIT(リート)を活用し、住宅に必要な資金の多くを貸出ではなく民間資本で代替できれば、家計債務問題の緩和に大いに役立つだろう」
と述べました。
「REIT」は日本でもずいぶん一般に知られるようになりました。投資にあまり興味がない方でも「Jリート」という言葉を聞いたことがあるのでないでしょうか。
REITは「Real Estate Investment Trust」の略で、不動産に投資するためのもので、個人投資家が不動産市場に参加しやすくするために作られた投資信託です。
具体的には、商業ビル、住宅、ホテル、物流施設などの不動産を購入し、これらの物件から得られる賃貸収入や物件の売却益を配当として投資家に分配する仕組みです。
普通、REITは証券取引所に上場されているため、株式と同じように売買が可能です。
投資家は個別の物件を所有せず、REIT証券を通じて間接的に不動産投資の利益を得られます。
不動産投資を行おうとすれば、まとまったお金が必要ですが、REITの購入であれば安く行えます。また、REITの場合、収益の多くを配当として投資家に分配する仕組みで、これが高い配当利回りを提供する理由の一つです。
李昌鏞(イ・チャンヨン)総裁が提案するのは――
株式会社(投資会社)がマンションを購入し、そのマンションの居住者がREITの投資者であると同時に賃借人となる
――という仕組みです。
住宅が必要な人が借金をして住宅を購入する必要がなくなり、居住者はREITを通じてアパートの一部持分を間接的に所有することで、退去時にはキャピタルゲイン(資本利益)も期待できるというわけです。
李昌鏞(イ・チャンヨン)総裁は、
「家計が住宅購入やチョンセ資金の準備のために負債に大きく依存した結果、国内総生産(GDP)に対する家計負債比率が100%に近づいている」
「融資規制や金利調整だけではデレバレッジ(借入削減)を進めるのは容易ではない。不動産金融構造の改革が必要だ」
とも述べています。
元『IMF』のアジア太平洋局の局長を務めた李昌鏞(イ・チャンヨン)総裁から見ても、韓国の家計負債の積み上げは、なんとかしなければならない課題なのです。しかし、『韓国銀行』ができることは限られています。
Money1でもかつてご紹介しましたが、李昌鏞(イ・チャンヨン)総裁は「政府がもっと有功な政策を実行してくれ」という旨の発言を行っています。
今回の提案は苦肉の策みたいな話です。韓国の皆さんが行いたいのは「住宅転がし」です。住宅の実需ではなく、資産が上がったら売り払いたいという希望が元になっています。
そのため、実際の物件の所有権がないREITにお金を突っ込むでしょうか?――そこが疑問です。
(吉田ハンチング@dcp)