韓国経済が危なくなってきたのではないか、といわれます。先にご紹介したとおり、貿易のもうけが減少してくるとそのサインです。
①貿易のもうけの減少
②経常収支の赤字/国内資金の減少
③外国からの資金調達
④なんらかの原因で資金の返済不可
⑤外国に助けを求める
がざっくりなシナリオです。
で、③の資金調達です。先にご紹介したとおり、韓国通貨危機前には、②の国内資金の減少を、外国からの短期融資によってファイナンスし、これがとだえて二進も三進もいかなくなりました。
もしもうすでに国内資金の減少トレンドが現れているなら、なんらかの形でファイナンスが始まっているのではないでしょうか。先日『韓国銀行』が公表した国際収支統計に非常に興味深い点があるので、ご紹介します。
少し面倒な用語が出てきますが、できるだけ簡単にやっつけますので一席お付き合いのほどをお願い申し上げます。
金融収支の証券投資を見てみよう
国際収支統計は、外国との取引を記録したものですが、その中に「金融収支」という大項目があります。これは文字どおり、金融面での取引の記録です。
「直接投資」「証券投資」「デリバティブ」「その他投資」と投資のタイプによって4つに分類されているのですが、今回ご紹介したいのは、株式・債券の取引記録である「証券投資」です。
2020年コロナ禍に沈んだ韓国ではにわかに株式投資ブームとなりました。韓国内の株式市場はもとより、資金は外国にも向かい、韓国では国内に資金を投じる投資家を「東学アリ」、外国に資金を投じる投資家を「西学アリ」という言葉ができたほどです。
では、2021年韓国の「証券投資」を見てみましょう。以下です。
証券投資の収支は「+196億ドル」です。
金融収支は対外資産・対外負債の増減、その収支を表しています。
※分からない場合は飛ばして進んでください/具体例を見ながらの方が分かりやすいです。
証券投資は、外国の株式・債券に投資した金額(対外資産の増加)、外国から韓国の株式・債券に投資した金額(対外負債の増加)の収支を表しています。
例えば韓国からアメリカ合衆国の株式に100億ドル投資すると、対外資産がその分増えます。
逆にアメリカ合衆国から韓国の株式に50億ドル投資されると、その分対外負債が増えます。
以下のような感じです。
アメリカ合衆国 ⇒ 韓国:50億ドル
だった場合、
韓国の対外負債が+50億ドル
です。これの収支ですから「100億ドル – 50億ドル」で「+50億ドル」。
つまり「韓国の対外資産は50億ドル増えたよ」になります。
しかし、お金を外国に投じたから資産が増えたわけですので、「+」の符合になっていますが、韓国からアメリカ合衆国へ50億ドル出ていった――つまり資金流出の金額を示しています。
対外資産が196億ドル増えたがその裏側は……
で、2021年の韓国の証券投資の収支。「+196億ドル」ということは、
だったわけで、株式・債券で196億ドル分の対外資産が増えました(その分のお金が出ていきました)という意味です。
しかし、この証券投資の収支は以下のように2021年にガクッと下がったのです。
上掲の縦長の赤い枠を見ていただいてもいいのですが、上に戻るのが面倒でしょうから下のグラフをご覧ください。
上掲のとおり、2020年には証券投資の収支は「417.4億ドル」あったのに、2021年には「196.1億ドル」と半分未満に激減しました。
くどいですが、これは収支ですので「対外資産 – 対外負債」の結果です。
「じゃあ、韓国から外国の株式・債券への投資金額が減ったのか?」と思われるかもしれませんが、答えはNOです。
上掲の表組に注釈を入れたとおり、対外資産の部は「+784億ドル」というべらぼうな金額となっています。
2021年、韓国は外国の株式・債券に784億ドルも資金を投じました。以下が2015年からの「証券投資の資産の部」の推移です。
この784億ドルは、1988年証券投資の統計が取られて以降で最高額です。2021年に韓国はこれまでで最高金額を外国の株式・債券に投じて資産を増やしたのです。
では、なぜ証券投資の収支が2020年から2021年に半分未満になったのでしょう?
対外負債も異常に増加した
もうお分かりですね。
対外負債も巨額に増えたからです。以下の証券投資の負債の部の金額をご覧ください。
2021年の証券投資の負債の部は「+588億ドル」にも上ります。外国人投資家が韓国の株式・債券に588億ドルも突っ込んだことを意味しています。
ちなみにこの金額も(証券投資において)史上最高です。そのため、韓国は2021年に証券投資で史上最高に負債を増やしたとも言えます。
つまり、韓国には巨額の外国資金が流入しているわけですが、実は面白いのはここからなのです。
外国人投資家は株式から手を引いて……
負債の部の内訳を見てみましょう。
債券による負債:+738億ドル
証券投資負債計:+588億ドル
※四捨五入しているので合算しても合いません
なんと株式は「-149億ドル」とマイナスです。
マイナスは「負債がその分減った」ということを意味していますので、つまり外国人投資家が149億ドル分の株式を売却して脱出したのです。
で、債券には738億ドルも投じています。
取引をされない方でもご存じでしょうが、株式の場合、市況によって価格が下落してもそれは自己責任です。
しかし、債券はそうはいきません。定期的に利子を支払い、償還期限がきたら元本も返済しなければなりません。
これが株式と債券の大きな違いで、だからこそ同じSecurities(証券類)でも、資本になる株式は「Equity securities(エクイティ・セキュリティーズ)」、負債になる債券は「Debt securities(デット・セキュリティーズ)」と区別されるのです。
外国人投資家は株式からは手を引いて、韓国が元利返済しなければならない債券にばかり巨額を投じたのです。
つまり、738億ドルは全部債務です。利子を付けて返さないといけない借金なのです。資金を投じてくれるのはいいことですが、返さなければならない点を忘れてはいけません。
韓国の資産の部は……
証券投資の資産の部、つまり韓国がどんなSecurities(証券類)に資金を投じたのかを見るとさらに面白くなりなります。
上掲のとおり、外国人投資家とはまるで逆です。
債券による資産: +98億ドル
証券投資資産計:+784億ドル
株式へは686億ドルも投じているのに、債券は一桁少ない98億ドルです。
株式の調整局面がきたらどうなるでしょうか。「自己責任」――ですね。
それはともかく、韓国は債券を介して外国から巨額の資金を注入されています。これが償還できなくなる、あるいはロールオーバーできなくなる事態が起こらないといいですね。
(柏ケミカル@dcp)