韓国政府は、約28年ぶりに対中国貿易が赤字に転落したことを非常に重く見ています。
Money1でも以下の記事でご紹介したとおり、企画財政部が慌てて会議を開催するほどです(2022年07月22日)。
中国市場は韓国最大の輸出ターゲットであり、利益がかっぱげる場所でした。
しかし、05月の貿易収支は赤字に転落。06月、07月と3カ月連続で赤字となり、ゲームの流れが変わりつつあることを示しています。
簡単にいえば、中国からの輸入が増えたのです。
なぜ中国からの輸入が増加したのか?
では、輸入が増加した原因はなんでしょうか。2022年08月09日、『大韓商工会議所』が以下のようなリポートを出しています。
↑Googleの自動翻訳なので日本語がヘンなところがありますがご寛恕ください。⇒参照・引用元:『大韓商工会議所』公式サイト「直近の対中貿易赤字の原因と対応策」
『大韓商工会議所』のリポートでは、中国からの輸入が急増した理由として、
②サプライチェーン再編
③RCEPの発効
の3つを挙げています。
まず①ですが、例えば二次電池の原料となる「その他精密化学原料」の輸入が、
2022年上半期:72.5億ドル
とほぼ2倍に増えました。「その他蓄電池」も、
2022年上半期:21.8億ドル
と、こちらもほぼ2倍に増加しています。もともとは韓国で生産して中国へ輸出していたこのような中間財が、技術が追いつかれて中国の方が安く作れるようになりました。
「安いなら輸入しよう」で韓国の中間財メーカーが潰れていくのです。
先に、韓国で唯一残った太陽光発電用シリコンインゴット・ウエハ製造メーカーが破綻確定した件をご紹介しましたが、これなど全く同様の文脈で語ることができます。
つまり、②のサプラチェーンの再編も①に密接に関係しており、中間財などの供給元が韓国から中国に変わり、逆流が起こっているわけです。
その分輸出が減って、輸入が増え、貿易収支が赤字傾向となります。
同リポートの中では「LCD」(液晶ディスプレー)を挙げていますが、これなど韓国綺企業の凋落を象徴付けるものです。
Money1でもご紹介したことがありますが、韓国の『サムスン電子』『LGディスプレー』はLCDから手を引きました。中国企業には価格競争で勝てず、作っても赤字を積み上げるだけになったからです。
どうなったか? 以下をご覧ください。
2021年上半期:4.5億ドル
2022年上半期:12.9億ドル
輸入金額は約3倍になりました。これにより、貿易収支は、
2022年上半期:+8.3億ドル
と激減。まだ貿易収支が赤字になってないだけマシですが、「9.1億ドル」ももうけが減りました。
このように①と②は韓国の対中国貿易黒字を大きく減ずることになっているのです。
RCEPは中国企業が韓国市場を食い荒らすのを助ける
さらに追い打ちをかけているのが「RCEPの発効」だとリポートは指摘しています。
RCEPは、お互いに貿易障壁を下げて自由な交易を行いましょうという、まあ一見いい話ですが、自国産業を保護するために「このアイテムの関税は上げておこう」「中国からの輸入は制限しておこう」などが基本やりにくくなります。
リポートではRCEPで譲許対象となった「水酸化リチウム」を挙げています。
2022年上半期:11.7億ドル
「水酸化リチウム」の輸入量も約2倍になりました。二次電池の素材として必要だからです。
そもそも「自由貿易」などといって有利になるのは中国企業です。
なぜなら、中国企業はそもそも国営企業が多く(WTOに加盟したときの約束「国営企業を減らしましょう」を全く守っていない)、補助金や支援をじゃぶじゃぶ受けているからです。
そのため価格戦闘力があるわけですが、このような「国のドーピング」を受けた企業が外国の私企業の業績を圧迫されてはたまったものではありません。
いわば、ドーピングを受けた中国産のイナゴが韓国の畑を食い荒らしているようなものです。
中国貿易をどうする? どうなる
――といったわけですが、この『大韓商工会議所』のリポートは正鵠を射ています。
中国企業が圧倒的に価格競争力を持ち、韓国が必要とする「半導体や二次電池のための資源・中間財」輸入は、今さら量を減らすことはできません。ないと半導体や二次電池を作れないからです。
このまま進むと、すなわち中国企業が韓国企業の技術力に追いつくと、資源・中間財のみならず完成品すら輸入することになるかもしれません。
その時には、韓国の対中国貿易は真っ赤になっているでしょう。
そうならないためには、まず輸入品の多角化です。中国に依存していると首根っことつかまれているのも同然です。輸入先を多角化してリスクを分散しなければなりません。ただし、これには中韓FTAやRCEPの見直しなどが必要になります。「なんでウチから買わねーんだ」とジャイアンにねじこまれるからです。
中国というのは、自分が国際的な約束を守らないことには無関心で、相手が守らないことには激怒するフェアではない国です。見直しには相当の力がいるでしょう。
また、何よりも中国に追いつかれないように技術力を向上させなければなりません。これはいつまでいっても「追いかけっこ」になりますが、休んだらおしまいですから、走らないわけにはいきません。
韓国にとっては「血を吐きながら続ける悲しいマラソン」ですね。
(吉田ハンチング@dcp)