『現代ビジネス』に驚くような記事が出ています。以下の記事の一部を引用してみます。
日本経済新聞(1月18日電子版)の「世界の格下げ2割増、22年501社 米金利上昇響く」を興味深く読んだ。
同記事は《世界の企業の信用力回復が鈍ってきた。
2022年に社債の格付けが下がった企業(金融除く)は501社と21年に比べ2割増えた。
米国を中心とした金利上昇で債務不履行(デフォルト)リスクが高まり、低格付け企業の格下げが目立った》に始まり、米格付け会社S&Pグローバル・レーティングによる社債発行企業の格付けリストが紹介されている。
2022年に社債の格付けが下がった企業(金融除く)は501社と21年に比べ2割増えた。米国を中心とした金利上昇で債務不履行(デフォルト)リスクが高まり、低格付け企業の格下げが目立った》に始まり、
米格付け会社S&Pグローバル・レーティングによる社債発行企業の格付けリストが紹介されている。
(中略)
S&P社格付け=
トリプルA:ドイツ、カナダ、
ダブルAプラス:米国、ダブルA:英国、フランス、韓国、
シングルAプラス:日本、中国、ダブルBプラス:ギリシャ、ダブルC:ロシア。ムーディーズ社格付け=
トリプルA:米国、ドイツ、カナダ、ダブル
A2:フランス、韓国、
ダブルA3:英国、シングルA1:日本、中国、アイルランド、
トリプルB1:スペイン、トリプルB3:イタリア、ダブルC:ロシア―である。見落としてはならないのは、我が国が両社格付けランキングで共に韓国を下回っていることだ。
こうして見てみると、「MMT(現代貨幣理論)幻想」の終焉に直面した日本の先行きは一体どうなるのか、心配が募るのは筆者だけではあるまい。
(後略)⇒参照・引用元:『現代ビジネス』「日本の格付けランキングが「韓国より下」に…「MMT幻想」の終焉に直面した日本の不安な先行き」
信用格付会社のレーティングが下がっており、企業が大変だという話と、日本の格付けが下がっている話が同列に扱われ「日本が心配なのは私だけではあるまい」という結論になっています。
いや、あなただけでは?と思わざるを得ません。
まず、「企業の格付けが下がっているという件」と「日本政府のソブリン債(国債です)の格付け低下」を同等に扱っているのが大きな間違いです。
信用格付け会社のレーティングはアテにならない
書き手の歳川隆雄先生が全く知らないで書いているのか、わざと書いていのか分かりませんが、そもそもMMT的な視点からすれば「政府の借金と企業・家計の借金を同等に考えるな」というのが第一義です。
なぜなら、通貨主権を持っている政府はいくらでもお金を作ることができるからです(政府と中央銀行は一体であると考えます/中央銀行は独立していますが政府の政策に逆らって存在できるわけではありません)。
この点を考慮してレーティングを行わない格付け会社がおかしいのですが、格付け会社がいくら日本国債の格付けを下げようが、それで実体としての日本政府が飛ぶなんてことはありません。
また、日本国債の格付けが韓国債より下であることをことさらに書いていらっしゃいますが、それは今に始まった話ではありません。だからといって、日本が韓国より脆弱などと考える投資家がいるでしょうか?
いません。
事実、CDS(Credit Default Swap:クレジット・デフォルト・スワップ)は韓国の方が上です。以下をご覧ください。
日本国債のCDSは「17.28」。以下が韓国です。
韓国債のCDSは「25」。日本より上です。
これはつまり、格付け会社のレーティンがどうであろうが、市場は「日本国債より韓国債の方が危ないと見ている」ことを示しています。
つまり「格付け会社のレーティングがおかしい」と考えるべきなのです。
財務省の反撃に対する回答はなかった!
なぜこんなことになるかというと、上記のとおり「企業・家計の借金と政府の借金を同列に考える」のが間違っているからです。
格付け会社のレーティングに対して、日本の財務省が公開質問状を出したことがあるのをご存じでしょうか? 2002年05月02日、日本の財務省は「外国格付け会社宛意見要旨」を出し、レーティングの信頼性について公的に疑義を呈しました。
上掲は財務省のホームページですが、2002年05月02日、2002年05月23日、2002年05月31日、2002年07月25日、2003年07月28日と5回に渡って文書を公開しています。
05月23日版では『Moody’s(ムーディーズ)』『Fitch(フィッチ)』あてに分かれており、05月31日版は『S&P(エス・アンド・ピー)』あてですので、世界三大格付け会社相手に戦ったことになります。
以下に「外国格付け会社宛意見書要旨について(2002年5月2日)」を引用します。
外国格付け会社宛意見書要旨
1.貴社による日本国債の格付けについては、当方としては日本経済の強固なファンダメンタルズを考えると既に低過ぎ、更なる格下げは根拠を欠くと考えている。貴社の格付け判定は、従来より定性的な説明が大宗である一方、客観的な基準を欠き、これは、格付けの信頼性にも関わる大きな問題と考えている。
従って、以下の諸点に関し、貴社の考え方を具体的・定量的に明らかにされたい。
(1)日・米など先進国の自国通貨建て国債のデフォルトは考えられない。デフォルトとして如何なる事態を想定しているのか。(2)格付けは財政状態のみならず、広い経済全体の文脈、特に経済のファンダメンタルズを考慮し、総合的に判断されるべきである。
例えば、以下の要素をどのように評価しているのか。
・マクロ的に見れば、日本は世界最大の貯蓄超過国
・その結果、国債はほとんど国内で極めて低金利で安定的に消化されている
・日本は世界最大の経常黒字国、債権国であり、外貨準備も世界最高
(3)各国間の格付けの整合性に疑問。次のような例はどのように説明されるのか。
・一人当たりのGDPが日本の1/3でかつ大きな経常赤字国でも、日本より格付けが高い国がある。
・1976年のポンド危機とIMF借入れの僅か2年後(1978年)に発行された英国の外債や双子の赤字の持続性が疑問視された1980年代半ばの米国債はAAA格を維持した。
・日本国債がシングルAに格下げされれば、日本より経済のファンダメンタルズではるかに格差のある新興市場国と同格付けとなる。
2.以上の疑問の提示は、日本政府が改革について真剣ではないということでは全くない。政府は実際、財政構造改革をはじめとする各般の構造改革を真摯に遂行している。同時に、格付けについて、市場はより客観性・透明性の高い方法論や基準を必要としている。
⇒参照・引用元:『日本国 財務省』公式サイト「外国格付け会社宛意見書要旨」
このような財務省からの公開質問状に対して、信用格付会社からの回答はありませんでした。
逃げたのです。
このような質問状を突きつけたのは、初めて日本政府の貸借対照表を作った高橋洋一先生です。日本は最初にそれを誰が発案したのか、誰が実行に移したのかをすっかり忘れる傾向にありますが、高橋先生の功績は記録に残されるべきでしょう。
そもそも日本政府はMMT的であったことすらない
歳川先生は「MMTの終焉」と書いていらっしゃいますが、これも間違っています。
そもそも日本の財政が「MMT的」であったことはありません。もし安倍首相時代のことを指しているなら全くのお門違いです。なぜなら、「金融緩和」であっても、基盤にある考え方が「MMT的」ではありません。手段は合致していても、なぜそうしなければならないのかが異なるのです。
※ケルトン先生の言葉を借りれば、MMTというのは形容詞として使われるべき言葉です。
MMTに対して懐疑的で、皮肉屋のクルーグマン先生もまた安倍首相(そして日銀総裁)を「よく判断した」と絶賛していたくらいです、
結論からいえば、安倍首相-黒田総裁のコンビは正しかったのです(クルーグマン先生も正しかった)。
失業率をかつてないほど下げ、ほとんど完全雇用を実現したことが証明しています。
消費増税は大失敗ですし、「増税を2回行ってもなお持っている内閣なんだぜ」という麻生太郎閣下の言葉は、増税を肯定しているという意味で間違っています。金融緩和の基本路線が正しく、経済が復調したので許容されただけです。
今、増税しようとしている岸田文雄首相はアンポンタンの極みです。確実に経済にブレーキがかかります。
岸田増税の無能は置くとしても、歳川先生に申し上げたいのは、「MMT幻想の終焉」という言葉は間違っている――ということです。上記のとおり、日本はMMT的な財政を行ったことがありません。始まってもいないものは終わりません。
(吉田ハンチング@dcp)