2023年10月26日は重要な判決が出た日となりました。
韓国の大法院(最高裁判所)は、日本絡みの裁判において2つの判断を下しました。
対馬から窃盗された観音像は日本に帰属する
例の観音像です。
2012年、韓国の窃盗犯が日本・対馬市の観音寺から長崎県指定文化財『観世音菩薩坐像』を盗み、韓国に持ち込みました。
この観音像について韓国の浮石寺が「倭寇によって盗まれたもの」と所有権を主張していました。
2023年10月26日、大法院はこの所有権が日本にあると第2審の判決を支持する判断を下しました。
大法院は、他人の物であっても一定期間問題なく占有していれば所有権が移ったと見る「取得時効」の法理に基づき、仏像の所有権は日本の寺院側にあると判断しました。第2審どおりです。
この事件に適用された法理は日本の民法「20年間、所有の意思で平穏および公知して他人の物を占有する者は、その所有権を取得する」というものです。
実はこれは鎌倉時代の御成敗式目にまで遡れるもの。このような法理がないと、「オレの10代前の先祖のときはウチのものだった」みたいな訴訟がいくらでも成立しますので、時効があるのは当然です。
韓国の大法院は旧摂外司法(現国際司法)の法理に基づき、取得時効が満了する時点で物が所在する場所の法律を適用するのが正しいと判断しました。
大法院は、「観音寺が法人格を取得した1953年01月26日から2012年10月06日ごろまで、窃盗犯によってこの事件仏像が盗難されるまで、(日本の観音寺が)継続してこの事件仏像を占有した」とし、「観音寺は取得時効が完成した1973年01月26日、当時の日本国民法に基づいてこの事件仏像の所有権を取得した」としました。
たとえ倭寇によって盗まれたのが事実であろうと(全く証明できていません)、所有者は観音寺であったので、そこに返すのが至当と判断したわけです。
『帝国の慰安婦』の著者朴裕河教授の有罪判決を取り消し!
『帝国の慰安婦』を書いた朴裕河(パク・ユハ)教授※が提起した2017年11月15日受理の上告審です。
※『世宗大学』元教授
この著作は、「日本軍慰安婦」強制連行説を否定したもので、2015年12月07日に「日本軍慰安婦強制連行被害者らの名誉を毀損した」という容疑で裁判となりました。
第1審を担当したソウル東部地方裁判所刑事11部(当時裁判長イ・サンユン部長判事)は、朴元教授に無罪を宣告しました。当時の検察は朴元教授に懲役3年を求刑したが、裁判所はこれを否定。
1審では「朴教授が本で開陳した見解に対しては批判と反論が提起され、慰安婦強制動員不正論者に悪用される恐れもあるが、これはあくまで価値判断の問題だ」とし「学問的表現は正しいことだけでなく、間違ったものも保護しなければならない」「朴教授の見解に対する判断は、学問の場や社会の場で専門家と市民が交換し、相互検証する過程でなされなければならない」との判断でした。
ところが、控訴審の判断ではこれが一転有罪となります。
ソウル高等裁判所刑事4部(当時裁判長キム・ムンソク部長判事)は、2017年10月27日、第1審の判決を取り消し、朴元教授に罰金1,000万ウォンを宣告。
第2審では、「朴教授は断定的な表現を使用することにより、朝鮮人慰安婦が自発的に『慰安婦』になって経済的対価を受けて性売買を行い、日本国は朝鮮人慰安婦を強制動員したり強制連行しなかったと読者に受け入れられてしまう」とし、「朴教授は、その表現で摘示な事実が虚偽であることと、その事実が被害者の社会的評価を低下させるだけのものであることを認識しており、名誉毀損の故意が認められる」と判断を披瀝しました。
朴さんはこれを受けて上告。舞台は大法院に移っていたのです。
2023年10月26日、ようやく大法院による判断が出たのですが、大法院は第2審の有罪判決を棄却。「原審が有罪と認めたこの事件各表現は、被告人の学術的主張ないし意見の表明として評価するのが妥当であり、名誉毀損罪で処罰すべき『事実の摘示』と見るのは難しい」とし、高裁に差し戻しとしました。
簡単にいえば、朴さんの主張は名誉毀損罪が成立する「事実の摘示」とはいえないので、名誉毀損罪で処罰することはできない――という判断です。
ちなみに、名誉毀損が成立する要件の一つである「事実の摘示」とは、誹謗中傷や侮辱暴言ではなく、具体的な事実内容を示したこと――をいいます。
例えば「Aさんは財布を盗んだ」といったことです。内容が真実かどうかは問われません。「このような“事実”があったと主張すること」が事実の摘示に当たります。
ともあれ、第2審の朴元教授の有罪は取り消されました。
ソウル高裁に差し戻しとなりますが、大法院が朴元教授の著作を「事実の摘示」に当たらないと判断したので、これを基に再度判断を下さなければなりません。
そのため……朴元教授には無罪判決が出ることが期待される状況となりました。
(吉田ハンチング@dcp)