G7を前に中国・王毅外相が韓国・鄭義溶外相と電話で話し、中国側に立つように釘を刺しました。
このことはすでに韓国メディアのみならず、日本メディアでも報じられています。
韓国では「上から目線で大きなお世話だ」的な反応で、日本では韓国の二股外交を皮肉るような報道が多いようです。
しかし、中国が公表した声明原文に当たってみると、韓国・鄭外相が中国におもねった発言を行った節があります。
この点は韓国メディアでは全く取り上げられていませんが、非常に重要なポイントかと思われますので、ご紹介します。
「G7」で立場表明をさせないように釘を刺す
2021年06月11日、G7開幕の日となりました。
韓国の文大統領が「G7」に参加することになりましたが、G7各国はアメリカ合衆国を筆頭に反中国の姿勢を強めています。今回のG7の共同声明ではなんらかの中国の対する強い態度表明がされるかもしれません。
参加している韓国もその中に入れられるかもしれず、中国は韓国の反中陣営参加をなんとしても防がないといけません。味方が(勝ち馬に乗りかえることがうまい)ロシアしかいないからです。
そこで、2021年06月09日、中国の王毅外相は韓国・鄭義溶(チョン・ウィヨン)外交部長官に電話をかけました。あからさまな牽制であり、本件は韓国メディア・日本メディアで報じられています。
では、中国外交部が公表した文書ではどのように書かれているでしょうか。
【和訳全文】王外相が鄭外相と電話で話す
以下が中国外交部が公表した文書です。
↑2021年06月09日、王毅外相がチョン・ウィヨン外相と電話で話したというタイトルです。
全文を以下に引用します。
2021年6月9日、王毅国務委員兼外相は、韓国の鄭外相と電話会談を行った。
王毅外相は「両首脳のコンセンサスのもと、中韓関係はおおむね順調に発展している」と述べた。
昨今の国際・地域情勢は急速に変化しており、中国と韓国は戦略的パートナーとして、タイムリーにコミュニケーションを強化していく必要がある。
来年は中韓の外交関係樹立30周年であり、双方は協力の苦労して得た成果を共同で大切にし、両国の関係が引き続き安定的に発展するための良い雰囲気と必要な条件を整えなければならない。
アメリカ合衆国が推進する「インド太平洋戦略」は、冷戦思想に満ちており、グループ間の対立を誘発し、地域の平和と安定した発展の全体的状況に資するものではなく、中国は断固として反対する。
中国と韓国は、友好的な隣国、戦略的パートナーとして、善悪を把握し、正しい立場を堅持し、政治的コンセンサスを遵守し、リズムを崩さないようにすべきである。
王外相は、国境を越えた疫病の蔓延を防ぐために、共同予防・制御メカニズムと「ファストトラック」を引き続き有効に活用し、必要な人の移動を守るべきだと述べた。
双方は、中韓自由貿易協定の第2段階の交渉を加速させ、ハイテク・新興産業における協力を強化し、両国の高品質な統合的発展を継続的に推進し、深めていくべきである。
鄭義溶外相は、「韓国は中国の近隣国として、韓中戦略パートナーシップの発展を非常に重視しており、一つの中国の原則を堅持し、両岸関係の繊細さを十分に認識している」と述べた。
中国との政治的相互信頼を深め、さまざまな分野での協力を強化し、韓中関係に一層の実体と勢いを与え、両国の外交関係樹立30周年に向けてより積極的なメッセージを発信していきたいと考えている。
鄭義溶外相は、南北関係の改善と半島の平和プロセスの進展に対する韓国の強い意志を表明し、中国が半島で重要かつ建設的な役割を果たし続けることを期待した。
王毅外相は「中国は南北関係の改善と、半島の状況を緩和するための努力を支持する」と述べた。
国連安全保障理事会に対し、北朝鮮関連決議の可逆条項を発動し、人民の生活分野における北朝鮮への制裁を緩和することを求めた。合衆国側には、米朝シンガポール共同声明を具体的に実施するための実践的な行動が求められる。
⇒参照・引用元:『中国外交部』公式サイト「王毅同韩国外长郑义溶通电话」
※赤アンダーライン、強調文字は筆者による
中国共産党の主張を認める言質を取られる
外交部の公式文書で「韓国の外相が『一つの中国』の原則を堅持する」と述べた」と公表されてしまいました。
公式文書ですので根も葉もないこととは考えられません。「一つの中国原則を守る」と言質をとられたのです。つまり、韓国は「台湾独立を認めない」と言ったことになります。
二股外交の限界
自由主義陣営からすれば「韓国は中国共産党の主張に屈した」と問題になりますし、もしG7の共同声明が台湾に言及したら、今度は韓国は中国から「一つの中国の原則を守ると言ったじゃないか」と非難されるでしょう。
韓国はアメリカ合衆国と中国の間にバランスが取れないものかと四苦八苦していますが、中国は韓国を東方の自由主義陣営の中で最も取り込みやすい国と見ています。
韓国が中国との貿易に依存しているという経済的な要因、また北朝鮮を挟んで隣接しているという地政学的な要因によりますが、韓国を弱い環として時に恫喝、時に懐柔して中国側に取り込むつもりです。
韓国はどうするつもりなのでしょうか。
(吉田ハンチング@dcp)