2023年06月05日、韓国の企画財政部が大胆なプランを発表しました。
今後5年間で64兆ウォンを投資して「サービス収支」を黒字化するというのです。この時点で失笑する方は、韓国の経済をよくご存じの方でしょう。
サービス収支は経常収支を構成する大項目です
まず経常収支について簡単にご紹介しますが、ご存じの方は飛ばして、次の次の小見出しまで進んでください。
経常収支は以下の4つの合計です。
①貿易収支
②サービス収支
③第1次所得収支
④第2次所得収支
韓国の場合には、①の貿易収支が大きな黒字でなければ経常収支が黒字になりません。そのため、貿易収支が赤字になると決まって国が傾くという結果になります。
1997年アジア通貨危機時、2008~2009年の韓国通貨危機も同様で、貿易収支が赤字になって経常収支の赤字トレンドが見え、これが危機のトリガーになりました。
経常収支が赤転して外貨が積めなくなり、不足分を外国からの融資で補っていたのですが、償還できない事態になってドボン騒動――というパターンです。
直近の2022年の経常収支を見てみると以下のように締まっています。
①貿易収支:150億6,090万ドル
②サービス収支:-55億4,750万ドル
③第1次所得収支:228億8,420万ドル
④第2次所得収支:-25億6,670万ドル
経常収支(上掲①~④の合計):298億3,090万ドル
⇒データ出典:『韓国銀行』公式サイト「ECOS」
上掲からも分かるとおり、2022年は貿易収支が150.6億ドルしかなく、そのため経常収支も2010年(279.5億ドル)」以来の「298.3億ドル」という低水準に沈みました。
韓国にとって救いだったのは、外国からの所得を計上する第1次所得収支が「228.8億ドル」まで拡大したことです。これは、韓国が外国に投資してきた成果が実を結んだからです。
ちなみにこの「228.8億ドル」は韓国史上最高額です。
ともあれ、貿易収支が回復しそうにありませんので、②のサービス収支を黒字化してやろうというのが、産業通商資源部が出したビッグな企画というわけです。
サービス収支は黒字化できるのか?
では、サービス収支を黒字にできるのか?ですが、韓国のサービス収支の1980~2022年の推移を見てみましょう。以下をご覧ください。
↑上掲のとおり韓国のサービス収支はそのほとんどが「ゼロ」の下にあります。つまり赤字です
韓国のサービス収支は、そのほとんが赤字です。
サービス収支は1980~1990年の11年間、1998・1999年の2年間だけです。特に2000年から2022年まで23年間赤字を続けています。
これは、当然のことでサービス収支はその名前のとおり、外国とのサービスの輸出入による収支です。外国からサービスを購入する金額が多いほど収支が赤字に傾きます。
Money1でもよく取り上げる、旅行収支、知的財産権等使用収支はサービス収支の中にありますが、韓国の場合はこれがいつも赤字です。
つまり、外国に買ってもらえるサービスがないとサービス収支は黒字にはなりません。
上掲記事でもご紹介したとおり、特許使用などが計上される知的財産権等使用収支では韓国は一度も年次で黒字になったことがないという酷さなのです。
例えば、LNGタンカーをいくら売ろうが大本の特許を押さえているフランスがウハウハという、いわば「鵜」状態であること――などがその典型的なケースです。
ですから「サービス収支を黒字にする!」というのは、韓国にとってはかなり野心的なプランといえるのです。
本当にそんな手でサービス収支を黒転できるのか?
ここまでを踏まえて、韓国の企画財政部はいかにしてサービス収支を黒転しようというのか?です。
以下が企画財政部が出したプレスリリースです。面倒くさい方は強調文字の部分だけ読んでいただければOkです。
↑Googleの自動翻訳なので日本語がヘンなところがありますがご寛恕ください/スクリーンショットサービス輸出を活性化するために2027年まで
輸出支援50%以上拡大、輸出金融64兆ウォン供給(中略)
分野別輸出の活性化主な課題
コンテンツ・観光
●K-コンテンツファンドの組成
◇グローバルIP保有コンテンツ企業育成(IPファンド)、輸出企業支援(輸出特化ファンド)などのために5,000億ウォンレベルの「K-コンテンツファンド」を組成●Kカルチャーユニコーン企業育成
◇グローバル進出を目指すコンテンツスタートアップ対象パッケージサポート
*技術、進出戦略検証→R&DサポートとAC/VC投資並行→グローバル事業化支援特化路地組成
◇観光特区内に日本、中国、東南アジアなど主要観光局を特化しサポート(自治体対象1カ所あたり最大1億ウォンをサポート)高級観光の拡大
◇’28年まで仁川空港内専用機(Private Jet) 専用端末 構築
◇グローバル高級観光博覧会国内開催を通じて国内観光業界-海外高級観光客マッチング機会を提供(中略)
免税ショッピング
利便性の向上
◇事後免税可能な最小取引額の下方(3万ウォン → 1.5万ウォン)、事後免税都心還付1回購入限度上向き(500 → 600万ウォン)
◇ホテルの外国人宿泊客の対象免税品注文代行許可
観光宿泊先の対象 E-9ビザを許可
◇観光宿泊業 対象人材需給実態調査年内実施を通じてE-9 ビザ段階的許可の見直し健康・医療
大病院に外国人患者の誘致促進
◇300病床異常大型総合病院の患者誘致ビザ手続きの簡素化を 危険医療観光優秀誘致機関(法務省)選定時の加点付与
◇重症・高齢者 などが保護者なしで入国、診療を受けることができるように外国人患者専担介護者(Caregiver)養成 推進海外進出機関 認知度の向上
◇地元の認知度を高めるために毎年海外進出優秀医療機関を選定、 K-ヘルスケアのマーク付与(’24~)海外進出機関統合支援ポータル運営
◇グローバル市場動向、国別法・制度関連 情報提供と進出申告など可能統合支援ポータル運営デジタル
SW・AIサービス特化支援強化
◇グローバルSW企業育成のためにR&Dから海外進出まで支援する ‘SW Frontier’プロジェクトの推進
*民間・融資を受けた企業などを選定、研究開発、商品化・ローカライズなどの連携支援
◇企画段階から海外市場を目指すグローバルAIサービス全課程支援公共・民間デジタル輸出拠点の新設
◇公共拠点(中東ITサポートセンター)新規構築、現地企業のインフラなど活用する 民間協力拠点 新設(UAE、サウジアラビア、クウェート、ヨルダン、アルゼンチン、コロンビアなど)
*地元企業・機関が私たちの企業のための事務空間、テストベッド、ネットワークなどのサポートデジタルイノベーション企業の海外進出支援
◇国内デジタル革新企業へ シリコンバレーアクセラレーターの教育、技術支援、メンタリングなど現地事業化・成長プログラム提供⇒参照・引用元:『韓国 企画財政部』公式サイト「サービス輸出活性化のために’27年までに輸出支援50%以上拡大、輸出金融64兆ウォン供給」
上掲のとおり、コンテンツや観光、医療サービス、ITサービスに注力して支援し、今後5年間で64兆ウォンの輸出金融を投資するとしています。
K-Popの延長上で、5,000億ウォンレベルの「K-コンテンツファンド」を組成するなどと書いています。
もう何度だっていいますが、韓国というのは何かというと「◯◯◯基金」「なんとかファンド」を組成する国ですが、うまくいことはほとんどありません。
また、地方で外国人観光客を引き付けるような観光名所を作れば「一箇所につき1億ウォンまで出す」としています。
「ふるさと創生で1億円まきます」みたいな話です。1億ウォンなので、ざっくり1/10の1,000万円。桁が全然足らないのではないでしょうか。
閉口するしかありませんが、日本・中国・東南アジアが観光客の誘致元で、注力するそうです。
秋慶鎬(チュ・ギョンホ)副首相兼企画財政部長官は、
「サービス産業は内需産業に成長し、韓国経済で占める比重が50%台から60%台に拡大したが、輸出比重は30年間で15%内外で停滞した状況」
「付加価値と雇用創出効果が大きなサービス産業を内需中心から輸出産業として育成する」
と述べています。
製造業に偏重していた輸出支援政策の重心をサービス業の方に移し、『中小ベンチャー企業振興公団』『大韓貿易投資振興公社』(KOTRA)のような主要輸出機関のサービス業支援規模を2025年までに50%以上増やす、とのこと。
上掲のとおり、l2023年から2027年までの5年間で64兆ウォン規模で輸出金融を支援。
秋慶鎬(チュ・ギョンホ)副首相兼企画財政部長官は「昨年1,300億ドルだったサービス輸出を2027年には2,000億ドルまで拡大し、世界の順位も15位から10位に跳躍するため、サービス業輸出競争力確保を積極的に支持する計画」と明らかにしました。
「2030年にサービス収支を黒字にする」という目標も提示しているのです。
貿易収支が赤字になってきたので、苦し紛れにこんなことを言い出した――と見えて仕方がないのですが、まあお手並み拝見です。
たとえ黒字にならなくても、サービス収支が改善すれば経常収支は助かることになりますので。
ただ、その64兆ウォンはどこから出すのですか?という疑問は残ります。韓国政府の負債がその分増えることになるのではないでしょうか。
そのお金を使って失敗したらどうするのでしょうか。次の政権に丸投げするのでしょうが。
(吉田ハンチング@dcp)