↑広州・台山原子力発電所。PHOTO(C)『EDFEnergy』
去る06月15日にMoney1でもご紹介した「中国・台山原子力発電所所の放射線漏れ疑惑」の件です。ここにきてフランスから驚きの情報が出ました。
台山原発で何があったのか
まず、台山原発に何があったのかを振り返ってみます。ご存じの方は以下の文章を飛ばして次の小見出しまで移動してください。
世界が本件を知ったのはアメリカ合衆国メディア『CNN』のスクープ報道によってでした。
2021年06月14日、中国・広東省にある台山原子力発電所で放射線漏れがあったと『CNN』が報じました。
台山原子力発電所は、下掲のとおり香港、マカオのすぐ西に位置し、2基の原発を有し、稼働中でした(最終的には4基体制になる予定)。
この原発の建設・技術協力・運営にはフランスが大きく関与しています。
『フランス電力』(略称「EDF」)が30%、『中国広核集団』が70%を持つ合弁会社『広東台山核電合営有限公司』(略称「TNPJVC」)によって建造、運営されています。
また『広東台山核電合営有限公司』に協力して、フランス企業『Framatome(フラマトム)』も運営に関わっています。
さらに、原子炉自体も欧州加圧水型炉(EPR)という新たに設計・開発したもので(『アレバ』『フランス電力』『シーメンス』などが開発に参加)、このタイプの原子炉は台山原発で初めて商業運転となりました。
『CNN』によれば、台山原発でインシデントがあり、以下のような推移となりました。
フランス企業『フラマトム』がアメリカ合衆国エネルギー省に書簡を送り、「差し迫った放射性物質の脅威」を警告しました。
しかし、『フラマトム』は合衆国からの協力を得られませんでした。フランス側はインシデントを公表するように交渉しましたが、中国はこれを拒否。
『CNN』が報道した時点では、中国はインシデントがあったことを認めていませんでしたが、07月30日になって『広東台山核電合営有限公司』は「1号機の原子炉を停止することを決定した」というプレスリリースを出しました。
また、中国は「複数の燃料棒のシール(被覆材)が破れ、そのために蒸気に放射性物資が拡散し、それが漏れた。しかし、漏れたとされる放射線は規定値以下だったので特に影響はない」としました。
以降、台山原発についての情報が出てこなくなりました。
そもそもなぜ燃料棒のシールが破れたのか?
問題は、なぜ燃料棒の被覆材が破れたのか、です。その原因についても全く明らかにされないまま現在に至り、中国は「よくあること」などとプレスリリースに書いていたのです。
以下をご覧ください。
⇒参照・引用元:『Figaro』「Incident au sein de la centrale EPR de Taishan, en Chine」
燃料棒はジルコニウム合金のケースになっていて、中には燃料となる濃縮ウランペレットがまるでラムネのように詰め込まれています。この燃料棒256本を束にして1アセンブリという単位になります。
格納容器内には241のアセンブリを燃料として使います。つまり256本×241アセンブリで、燃料棒は計6万1,696本あるわけです。燃料を水につけて沸騰させ、発生した蒸気でタービンを回して発電するのが原子力発電の基本的な仕組みです。
よく「まずお湯を沸かします。って……」と原子力発電を揶揄する言葉がありますが、蒸気を発生させてそれでタービンを回し……という点は、火力発電所となんら変わらないのです。
しかし、もし燃料棒の被覆材が破れて、燃料が格納容器内の水に直接触れたらどうなるでしょうか――なのです。
※詳細は以下の記事を参照してください。
そもそもの設計ミスがインシデントの原因か?
――で、今回フランスで驚きの告発がありました。
2021年11月28日、『放射能に関する独立調査・情報委員会』(CRIIRAD)が「内部告発」から情報を得た、として「台山原子力発電所の1号機が停止に至ったのは原子炉容器の設計上の欠陥が原因だ」と公表したのです(以下がプレスリリース)。
<<以下重要ポイントの和訳>>
(前略)
実際、収集された証拠によると、放射性燃料棒被覆材の破損は、特にERP容器の設計上の欠陥に起因していると考えられます。これにより、水流の分散が悪くなり、その結果、燃料棒の集合体に非常に大きな振動が発生し、被覆材の破損、ロッドを保持するグリッドの異常な摩耗が発生し、原子炉の炉心に放射性物質を含む破片が拡散します。
これが作業員や地域住民の安全と放射線防護の観点から深刻な影響を及ぼすことになります。
(後略)⇒参照・引用元:『CRIIRAD』公式サイト
このリリースによると原子炉圧力容器の設計に不備があって、容器内の水流がうまく分散されずにアセンブリに非常に大きな振動が発生し、それによって燃料棒のシールが破損するのだ――としています。
これが本当なら大問題です。
現在、世界でこのEPR(欧州加圧水型炉)の商業運転を行っているのは中国、台山原子力発電所だけです。しかし、フランスのフラマンビル、フィンランドのオルキルオトでも同型の原発を建設中なのです。
それだけでなく、この設計上の不備がさらなるインシデントを引き起こさないとも限りません。もし、台山原発で何か大きな事故でも起こったら、約61kmしか離れていないマカオ、約126kmしか離れていない香港がただでは済みません。
そうなったら中国は外国に開いた南方の経済上の要衝を失うことになるでしょう。被害がすぐ対岸といってもいい台湾に及ぶ可能性も否定できません。
この『CRIIRAD』の告発が正しいのかどうか、またこの先、台山原子力発電所がどうなるのか、フランス、中国がどのように対処するのかにご注目ください。
(吉田ハンチング@dcp)