↑広州・台山原子力発電所。PHOTO(C)『EDFEnergy』
読者の皆さまもすでにご存じでしょうが、中国広東省にある「台山原子力発電所」で放射線漏れがあったのではないか、とCNNが報じ、注目されています。
場所は香港・マカオのすぐ隣り
まず場所です。大きな地図で見ると以下。
下掲のとおりの香港、マカオのすぐ西に当たります。
あまりにも近いですが、どのくらい離れているというと……。
マカオから原子力発電所まで直線距離で約61km。東京都心から61kmといえば、茨木県つくば市・埼玉県熊谷市・神奈川県茅野市・千葉県成田市がそのくらいです。PHOTO(C)GoogleMap
香港から原子力発電所まで直線距離で約126km。PHOTO(C)GoogleMap
以下はGoogleMapで見た台山原子力発電所です。
そもそもこの台山原子力発電所は、『フランス電力』(略称「EDF」)が30%、『中国広核集団』が70%を持つ合弁会社『広東台山核電合営有限公司』によって建造、運営されています。4基(1,700MW級)の原発が建設される予定ですが、先に完成した2基が2018年から運転を開始しています。
フランスから合衆国に書簡
2021年06月14日、アメリカ合衆国メディア『CNN』が同原子力発電所で放射線漏れなどが起こった可能性があると報道しました。『CNN』が入手した文書によれば、
その文書内には、原発の運転を止めないために放射線検出の許容範囲を引き上げているという中国側運営に対する非難の言葉も入っていた。
⇒参照・引用元:『CNN』「Exclusive: US assessing reported leak at Chinese nuclear power facility」(独占:合衆国は中国の原子力発電施設で報告された漏出を評価している)
というのです。この報告を受け、合衆国では先週放射能漏れ事案についての評価を行っていたとのこと。
バイデン政権は『フラマトム』からの警告にもかかわらず重大なインシデントとは見ていないと報じられていますが、表面上の動きとは裏腹に政権内部の動きはそれどころではなかったとのこと。
『CNN』の調べでは、以下のようになっています。
・副長官レベルの会議が2回
・06月11日には次官補レベルの会議を開催
・フランス政府やエネルギー省の専門家と状況を話し合った
・中国政府とも連絡を取っているが詳細は不明
フランス電力と子会社のプレスリリース
以下は『フラマトム』が2021年06月14日に出したプレスリリースです。
入手可能なデータによると、同発電所は安全指標の範囲内で稼働しています。
当社のチームは、関連する専門家と協力して状況を評価し、潜在的な問題に対処するためのソリューションを提案しています。
⇒参照・引用元:『フラマトム』公式サイト「Information related to Taishan’s reactor number 1」(台山原子力発電所1号機に関する情報)
「入手可能なデータ」という言い方が気になりますが、『フラマトム』の親会社である『EDF』では以下のような声明を出しています。
『EDF』は、『CGN』(中国広核集団:70%)と『EDF』(30%)の合弁会社である『TNPJVC』(広東台山核電合営有限公司)が所有・運営する台山原子力発電所1号機の1次回路において、特定の希ガス濃度が上昇しているとの情報を得ました。
一次系回路内に特定の希ガスが存在することは既知の現象であり、原子炉の運転手順の中で研究、規定されています。
『EDF』は『TNPJVC』のチームと連絡を取り合い、その専門知識を提供しています。
『EDF』は『TNPJVC』の株主として、『TNPJVC』の臨時取締役会を開催し、経営陣は全てのデータと必要な決定事項を提示するよう要請しました。
臨時取締役会を開いて「全てのデータを出せ」としたようです。CNNの報道ではこれだけではなく、『EDF』の報道官が以下のように述べたことになっています。
『EDF』の広報担当者は、放射線量の増加は「燃料棒のハウジングの劣化」が原因であると述べた。
(後略)
CNNの報道は、この希ガスの発生について専門家の意見を以下のように引いています。
しかし、元核科学者のローファー氏は、ガス漏れがより大きな問題を示唆している可能性があると警告する。
「ガスが漏れているということは、格納容器の一部が壊れているということです。また、燃料の一部が破損している可能性もあり、これはより深刻な問題となります」
(後略)
中国『国家核安全局』は動きなし!
では、中国側に何か動きがないのかを確認してみますと……。
中国『国家核安全局』の公式サイトに動きはありません。プレスリリースは特に出していません。
同サイトで台山原子力発電所のステータスを確認すると以下のように、2基とも商業運転中となっています。
2021年06月15日17:50確認:PHOTO(C)『国家核安全局』
同局の全国放射線環境データ評価システムで最も近い場所のデータを確認すると以下のようになっています。
↑広東省のデータ。これをクリックするとさらに細かなポイントで見られる(ステータスの日付けは2021年06月14日)
「nGy/h」(ナノグレイ毎時)は1時間あたりの放射線量を示しています(ナノは10億分の1:1nGy/h=0.8nSv/h(ナノシーベルト毎時))。
このデータが信用できるのであれば、『フラマトム』のリリースどおり安全指標内とはいえそうです。
中国側から全く公表がないので詳細が分かりませんが、(程度も分かりませんが)なんらかのインシデントがあったのは確かではないでしょうか。
(吉田ハンチング@dcp)