韓国の首都・ソウルには地下鉄が走っています。
ソウルの地下鉄1号線は日本の技術協力によって造られました。若い世代にはもはや何のことやら分からないと思われますが、かつて「よど号ハイジャック事件」というのがあって、奇しくもそれを契機に造られたのです。
↑共産主義にかぶれた日本人の若者(当時)がハイジャックして北朝鮮に亡命。「われわれは明日のジョーである」と言いました(決行前)。最近では『あしたのジョー』も通用しないと思われますが、今となっては「熱い(面倒くさい)時代だったんだなあ」――と遠い目になってしまうような話です。
1号線(ソウル駅~清涼里7.8㎞)が開通したのは1974年08月15日、朴正煕(パク・チョンヒ)大統領の時代で、2024年08月10日には8号線(岩寺歴史公園~別内、6駅 12.8km:別内線)開通と発展を遂げてきました。
↑ソウル地下鉄8号線のシンボルカラーはピンク色です。
このソウルの地下鉄は、ソウル市の管轄で『ソウル鉄道公社』が運営しています。
しかし、Money1でもしばしば取り上げてきたとおり、『ソウル鉄道公社』は慢性的に財政難です。
理由は、とにかく「運賃安い」のと、福祉施策の一環で「無賃乗車の乗客」が多いことです。インカムが少なくて運営費はそれなりにかかりますから、財政が悪くなって当然です。
ソウル市長の呉世勲(オ・セフン)さん※が「政府が財政支援してくれないと、もう無理だってば」と訴えるほど困っているのです。
※この人は保守寄りで、「優秀な政治家」と目されています。左派・進歩系のアンポンタンにしてセクハラおやじだった朴元淳(パク・ウォンスン)が自死した後、ソウル市長となりました。
年々増加する「無賃乗車」の損失額
2025年01月31日、このソウル地下鉄で「赤字がひどい」という面がまた明らかになりました。
『ソウル交通公社』が『国民の力』のユン・ヨンヒ議員に提出した資料によると、2024年時点(仮決算)での無賃乗車による損失額は「4,135億ウォン」を記録したことが分かりました。
無賃上昇による損失額は以下のように年々増加してます。
呉世勲(オ・セフン)市長が「もう無理だってば」と言うのも無理はありません。損失が出た分はソウル市が穴埋めしないといけないからです。
以前にもご紹介したことがありますが、この「無賃乗車」というのは「法的に無料にしますよ」という制度の下に行われています。法定無賃乗車制度が挙げられる。
そもそも1984年に、「高齢者優遇措置」として高齢者無賃乗車制度が導入されました。
ところが、ベビーブーマーが高齢者層になって赤字金額が急増したのです。
韓国の韓国行政安全部は、2024年12月に「65歳以上の高齢者」の割合が人口の20%を超える「超高齢社会」になった――と公表しました。
もともとの予測では「2025年に20%超える」だったのですが、前倒しで達成しました。何度もご紹介しているとおり、韓国は日本よりも急速に老いていっているのです。
住民登録人口統計によると、2024年末時点で、ソウルの人口933万1,828人のうち、65歳以上の高齢者は19.4%の181万3,648人に達しています。
人口構造の変化によって、若い地下鉄利用者が増えず、無賃乗車のお年寄りが増えていくので――これは財政を悪化させて当然です。
そもそも運賃が安すぎるのが駄目
そもそもソウルの地下鉄の運賃が安すぎるのです。
2024年の結果がまだないので、2023年時点のデータですが――、
1人当たりの輸送コスト:1,760ウォン
1人当たりの平均運賃収入:962ウォン
(コストの約54.7%しか収入がない)
――なので、お客さんを1人輸送するたびに「798ウォン」ずつ赤字を掘る――という信じられない原価構造になっているのです。
このような無茶苦茶な原価構造のままで運営しているので、社債などを発行してキャッシュフローを回すしかなく、その分負債が雪だるま式に積み上がっていっています。
『ソウル交通公社』負債額
2022年:6兆5,570億ウォン
2023年:6兆8,322億ウォン
2024年:7兆3,012億ウォン(暫定)
2028年には負債比率が「140.6%」に達すると見られています(2024年上半期:110%)。
韓国では負債比率は200%で危機的と見られます。そこまではいっていないので「大丈夫」などと考えているのかもしれませんが、赤字構造をそのままにしておけば、いつかは破綻危機が訪れます。
一番簡単なのは、運賃を上げる・無賃乗車制度を変えることですが、地下鉄は公的な移動手段であり、また「福祉施策」もあって、抵抗が大きいのです。政府自体も「上げるな」と圧力を掛けているのが実情です。
韓国の皆さんは「鉄道料金が安い」と胸を張りますが、それはソウル地下鉄のように赤字で運営されているという面があるからです。運営できなくなるときが来たらどうするのか?――を考えて、持続可能なようにシステムをつくり変えないといけないでしょう。
(吉田ハンチング@dcp)