韓国メディア『ソウル経済』に面白い記事が出ています。同記事から一部を以下に引用します。
(前略)
国内企業が外資系金融機関と締結した「為替(FX)トリガー」契約が、数億ドル規模に達することが明らかになった。これらのFX契約の多くは、ドルウォンの為替レートが1,490ウォンを超えると発動するように設計されており、韓国企業が相当な損失を被る可能性があるとの懸念の声が上がっている。
『ソウル経済』が12月02日に『共に民主党』のイ・イニョン議員室を通じて入手した金融監督院の資料によると、外資系銀行2行が国内企業と締結したFXトリガー契約は計28件、総額4,480万ドルに上ると集計された。
FXトリガーとは、輸出企業が為替ヘッジのために金融機関と結ぶ一種のデリバティブ(金融派生商品)である。
ドルウォン為替レートが事前に取り決めた一定水準を下回って維持されれば、銀行は企業に有利なレートで両替を行う。
しかし、一度その水準を超えると(ノックイン=Knock in)、企業が市場レートよりも低いレートでドルを銀行に売却しなければならない条件が発動される。
これは、2008年の金融危機当時に韓国を揺るがせた「KIKO(キコ)」商品と構造が類似している。
例えば、トリガー条件が「1ドル=1,490ウォン」と設定された1,000万ドルの契約がある場合、為替レートが1,490ウォンを超えた瞬間、企業は事前に定めた売却価格で1,000万ドルを銀行に売却しなければならない。
(後略)
「ノックイン・ノックアウト」オプションって何?
「KIKO」とは懐かしい言葉が登場しました。大昔にご紹介したことがありますが、これは、
「Knock-In(ノックイン)オプション」と「Knock-Out(ノックアウト)オプション」
――を縮めたものです。
「Knock-Inオプション」および「Knock-Outオプション」は、Barrier Option(バリア・オプション)と呼ばれるデリバティブ(金融派生商品)の一種です。
あらかじめ定めた「バリア価格」に達するかどうかによって、オプションの効力が「発生するか」「消滅するか」が決まる――という特殊なデリバティブです。
例えば、「1ドル=1,490ウォン」がバリア価格だとすると、この価格に達したらあかかじめ定められた条件が発動するのが「Knock-Inオプション」、バリア価格に達したらあらかじめ定められた条件から外れるのが「Knock-Outオプション」です。
⇒バリア価格に達すると初めて効力が発生するオプション
Knock-Out
⇒バリア価格に達すると効力を失う(失効する)オプション
韓国を阿鼻叫喚の地獄絵図に陥らせた「KIKO事態」
2008~2009年の韓国通貨危機時には「KIKO事態」がありました。
「Knock‑In/Knock‑Out」を組み合わせた為替デリバティブ商品を多くの輸出企業が、為替変動リスクのヘッジ手段として利用していました。
KIKOオプションは、一見コストが低く、為替が一定の範囲で推移する場合には有利だとされたからです。ところが、このオプションの構造には「為替変動が想定外に大きくなった場合、大きな不利益を被る可能性がある」というリスクがあったのです。
読者のみなさまもご存じのとおり、リーマン・ショックが世界を襲いましたが、このときの衝撃は韓国に資本流出・ドル不足をもたらしました。これによってウォン安が急激に進行。
ウォンが大幅に下落したので、KIKO契約を結んでいた多くの輸出中小企業が甚大な損失を被りました。
韓国メディアの総括によれば「KIKOを利用していた国内約770社が、総額で約2兆2,000億ウォンの損失を被った」となっています。
これがいわゆる「KIKO事態」です。
規模が問題
――で、今回の記事ですが、ウォン安の急進にうろたえた内容です。「FXトリガー契約は計28件、総額4,480万ドル」となっていますが、この集計だけでは、なんともいえません。
この数字だけなら「1ドル=1,490ウォン」になったとしても、そこまで破滅的な事態にはならないと思われますが、あくまでも「外資系銀行2行との契約のみ」を集計したもの――という点が問題です。
中小の企業の場合には、バリア価格に達したときに、そのままキャッシュフローが破綻して経営危機に陥る――といった事態はあり得ますけれども
(吉田ハンチング@dcp)






