韓国の告げ口外交が失敗した例になるかもしれません。
韓国メディアには、米韓首脳会談前に「韓国は合衆国に対して3つの要求をすべき」という提言が出ていました。
①合衆国の核の傘の保証
②恒久的な米韓通貨スワップ
③日韓関係改善のための役割を果たせ
申珏秀(シン・ガクス)元外交部次官の言葉でしたが、どれもドがつく厚かましい話です。
先にご紹介したとおり、②は完全に失敗。予定どおり通貨スワップという言葉も入りませんでした。
ご注目いただきたいのは③です。
2022年05月21日、『聯合ニュース』に不思議な記事が出ているのです。以下に一部を引用します。
(前略)
バイデン大統領はこの日、龍山大統領室庁舎で開かれた米韓首脳会談後、共同記者会見で日韓関係改善のためにどのような役割を果たすかという質問に「尹大統領とその懸案を一般的に議論し、日本訪問でも議論する予定」と話した。彼は「日米韓が経済、軍事的に非常に緊密な三者関係を維持するために非常に重要だ」と強調した。
それと共に「貿易障壁を解決する方法があるだろうし、私たちはこの問題を現在非常に深く見つめている。一部の貿易障壁は私の前任者が導入した」と話した。
彼はどんな貿易障壁を意味するのか説明しなかった。
日韓関係は日本が韓国最高裁判所の強制徴用賠償判決(原文ママ:筆者注)に反発し、2019年07月韓国に半導体原料輸出を制限し悪化した。
従って、バイデン大統領が日韓関係の文脈で貿易障壁を言及するには、日本の輸出規制を指す必要があるが、彼は前任者が導入した(placed by my predecessor)貿易障壁とした。
ドナルド・トランプ大統領が在任期間、合衆国が日韓に鉄鋼関税などを課すことはしたが、その関税は日韓関係の悪化と関連がない。
彼は「太平洋地域の民主主義国家は軍事だけでなく経済、政治的により緊密に協力する必要を感じている」とし「だから私たちは(日米韓協力を)合衆国、日本、韓国だけでなく太平洋全体と南太平洋、インド太平洋に拡大する必要性についてある程度議論した」と述べた。
(後略)
非常に文脈が分かりにくい記事になっているのですが、つまり、こうです。
この記者(ちなみにワシントンポスト紙のSeung Minさん)は「日韓関係の悪化について合衆国がどのように改善するのか」と聞きました。
真意が那辺にあったのかは分かりませんが、この『聯合ニュース』はこれを「日本の韓国に対する輸出管理強化」と結び付けようという書き様です。
要は、日本の輸出管理強化措置は不当なものであり、合衆国が韓国の側について日本を叱りつけるといった態度を期待してのことと思われます。
ところが、バイデン大統領はそれについて韓国の期待とは全く異なった返答をしています。
「貿易障壁を解決する方法があるだろうし、私たちはこの問題を現在非常に深く見つめている。一部の貿易障壁は私の前任者が導入した」と述べています。
バイデン大統領は、私の前任者が導入した、つまりトランプ大統領が導入した貿易障壁も問題になっていると答えています。つまり、韓国が門前払いされている鉄鋼のクォーター制導入などについてをいっています。
『聯合ニュース』の記事は③の「日韓関係改善のための役割を果たす」ということについてバイデン大統領から言質を取りたかったが失敗したことを示しています。
合衆国・ホワイトハウスからプレスリリースが出ていますが、原文では以下のようになっています。
(前略)
Q.Thank you, Mr. President. You are here in the region to promote the United States economic cooperation with South Korea and Japan. But the two countries have been locked in a trade dispute, on top of their bilateral relationship deteriorating for a number of reasons over in recent years.Q.ありがとうございます大統領。 あなたは、米国と韓国、日本との経済協力を促進するために、この地域を訪問しています。しかし、両国は貿易紛争に巻き込まれ、さらに近年、さまざまな理由で二国間関係が悪化しています。
So, what kind of a role would the United States play here in resolving those and other disputes so that your administration can further your goal of — of bolstering your economic alliance with the region?
そこで、この地域との経済同盟を強化するというあなたの政権の目標を達成するために、そうした紛争やその他の紛争を解決するために、米国はここでどのような役割を果たすのでしょうか?
PRESIDENT BIDEN: I’m protecting him. (Laughter.)
The answer is that we discussed that in generic terms. The fact is that I’ll be going from here to Tokyo and discussing this as well.答えは、一般論として議論したということです。 実際、私はここから東京に行き、この件についても議論する予定です。
I think it’s critically important that we have a very close trilateral relationship, including economically as well as — as militarily. And I think you’ll see that there are ways to deal with some of the trade barriers that were placed — some of which, by the way, were placed by my predecessor, which we’re — we’re looking at very closely right now. So, I think there’s a lot of room to move.
軍事面だけでなく経済面も含め、3国間で非常に緊密な関係を築くことが非常に重要だと思います。 そして、設置された貿易障壁の一部に対処する方法があることもお分かりいただけると思います。
ちなみに、その一部は私の前任者が設置したもので、現在、私たちはそれを非常に注意深く見ています。ですから、まだ動く余地はたくさんあると思います。
In addition to that, if — you know, I think you covered the fact that I spend a lot of time with the ASEAN nations, as well as the Quartet. There’s — there’s a whole range of — things have changed. There is a sense among the democracies in the Pacific that there’s a need to cooperate much more closely — not just militarily, but in terms of economically and politically.
それに加えて、私がASEAN諸国やカルテットと多くの時間を過ごしていることはお分かりいただけたと思います。さまざまなことが変化しています。 太平洋地域の民主主義諸国の間では、軍事的な面だけでなく、経済的、政治的な面でも、より緊密に協力する必要があるという意識があります。
And so, we talked in — at some length about the need for us to make this larger than just the United States, Japan, and — and Korea but to the entire Pacific and the South Pacific and the Indo-Pacific.
そこで私たちは、日米韓だけでなく、太平洋や南太平洋、インド太平洋全体を視野に入れた協力体制を構築する必要性について、かなり長い間話し合ってきました。
And I think this is an opportunity. You know, you’ve heard me say it a hundred times — I’m sorry to the American press to repeat it — but I really do think we’re at an inflection point in world history. Things are changing so rapidly. I think you’re seeing that — what you’re going to see more of is this is going to be competition between democracies and autocracies. And I mean that sincerely. And, unfortunately, I think I’m being proven to be correct — not just here, but around the world.
そして、これはチャンスだと思うのです。
何度も言うようですが、アメリカのマスコミには申し訳ないのですが、私たちは今、世界史の変曲点にいると思うのです。 物事が急速に変化しているのです。 これからは、民主主義国家と独裁国家の間で競争が起こるでしょう。 私は心からそう思っています。 残念ながら、私が正しいことを証明しているようです――ここだけでなく、世界中で。
And again, we talked at length about — this is a — not only just regional, but it’s also a global alliance, in effect, of how we’re going to respond.
これは地域的なものだけでなく、事実上、世界的な同盟であり、私たちがどのように対応していくかということです。
And I don’t mean a formal written alliance. But, for example, if you notice, Korea and Japan have both stepped up in support of Ukraine. You find that in — the Quad is supporting Ukraine.
正式な文書による同盟ということではありません。 例えば、韓国と日本はウクライナへの支援に乗り出しました。 クアッドはウクライナを支援しています。
So, there’s a whole range of things that affect whether or not democracies can be sustained in the midst of this incredible change that is taking place. We both agreed that it could and should be and that, together, we can play a major part in having that done.
このように、起こっている驚くべき変化の中で民主主義を維持できるかどうかには、さまざまなことが影響しているのです。 私たちは、民主主義を維持することは可能であり、またそうすべきであり、そのために私たちは大きな役割を果たすことができる、ということで合意しました。
(後略)
このようにバイデン大統領は、韓国が「日本の不当な輸出規制」と認識しているようなことについては、一切言及しておりません。
むしろトランプ大統領によって日韓が貿易紛争に巻き込まれたことを気にしているように見えますし、またウクライナ戦争によってブロック化が進む世界経済、またサプライチェーンが危機に瀕している貿易について注意を向けているのです。
――というわけですので、この『聯合ニュース』の記事、またホワイトハウスが公表したプレスリリースをもって、合衆国が「韓国に対する日本の輸出管理強化を問題視している」というのには無理があります。バイデン大統領が日本で何を言うかには注目しないといけないでしょうが。
先にご紹介した『ヘリテージ財団』のファウンダーのようにトンチンカンな認識の方もいらっしゃいますので。
(吉田ハンチング@dcp)