アメリカ合衆国の「インフレ削減法」によって合衆国市場で韓国産の電気自動車が売れなくなることを恐れ、政府は合衆国政府機関、議員への働きかけを強めています。
2022年09月07日(現地時間)には、韓国の産業通商資源部の安徳根(アン・ドククン)通商交渉本部長が『USTR』(United States Trade Representative:合衆国通商代表部)のキャサリン・タイ代表と会談を行いました。
韓国は勢い込んでねじ込んだ!
以下が産業通商資源部が出したプレスリリースです。
面倒くさい方は、強調文字、赤いアンダーラインの箇所だけご覧ください。
□産業通商資源部の安徳根(アン・ドククン)通商交渉本部長は、ワシントンD.C.でキャサリン・タイ(Katherine Tai)USTR代表と米韓通商大臣会談を開催した。
ㅇ両側は長官級では初めて、合衆国の「インフレ削減法」(IRA)における「電気自動車の税額控除」問題に対する韓国側の懸念について協議し、インド太平洋経済フレームワーク(IPEF)、米韓FTA履行に関する協力案などについても議論した。
□安本部長は、IRAに含まれる差別的な電気自動車税額控除に関連して国会決議案通過(9.1)など国内状況の深刻さを伝え、早期にこの問題解決のために両国が共に協力していかなければならないことを強調した。
ㅇTai代表は韓国側の懸念を聞き、両国は電気自動車税額控除に関する別個の協議チャネルを構築することに合意した。
□両国は、米韓両国の主導的役割の下に、IPEF交渉が急速に進展していることを評価し、今後とも両国間の戦略的パートナーシップを強化していくことにした。
*IPEF長官会議、09月08~09日の間LAで開催予定
□安徳根(アン・ドククン)本部長は今回のワシントン訪問期間(09月05~07日)の間、ホワイトハウス、美上・下院主要議員*、シンクタンク専門家のなどとも会い、IRAに関して多角的に解決策を探そうと努力した。
*Debbie Stabenow ミシガン州上院議員(民)、Adrian Smith ネブラスカ下院議員(共)、貿易委員会幹事、Todd Young インディアナ州上院議員(共)、Buddy Carter ジョージア州下院議員(共)
ㅇブライアン・ディース(Brain Deese)ホワイトハウス国家経済会議(NEC)委員長は、安本部長に会った席でIRAの差別的な電気自動車税額控除の規定に対する私たち側の深刻な懸念を理解しており、ホワイトハウスレベルでも関心を持って体系的な協力方案を模索してみようと言及した。
□産業部は「政府合同対策班」を通じて今回の安本部長の訪美結果を関係省庁と共有し、今後も対米協議を積極的に推進していく予定だ。
⇒参照・引用元:『韓国 産業通商資源部』公式サイト「한미 통상장관회담 개최」
まずご注目いただきたいのは、インフレ削減法による税額控除を「差別的」と表現していることです。
合衆国エンルギー省が公表した「税額控除を受けられる車種」の中には、韓国自動車メーカーのクルマは1台もありませんが、「差別的」と称することができるのかは疑問です。
次にご注目いただきたいのは、「インド太平洋経済フレームワーク」(IPEF)と「米韓FTA」履行が協議内容に挙がってる点です。
そもそも韓国は、インフレ削減法の税額控除規定によって韓国産の電気自動車が恩恵を受けられないのは、FTA(二国間自由貿易協定)に反する――と主張してきました。ですので、米韓FTAについて言及されているのはそのためです。
一方の「IPEF」は、明らかに脅しに使ったものと思われます。
つまり、韓国は合衆国が推進している「インド太平洋経済フレームワーク」に賛同の意を表明しているじゃないか、その韓国に差別的な扱いをするとはなんだ。合衆国の出方によっては賛同しないぞ――というわけです。
もっとも、このような脅しがどこまで合衆国に通用するかは分かりません。
合衆国側のプレスリリースは韓国の提起に冷淡
今回の米韓の会談については、『USTR』側もプレスリリースを出していますので、そちらも確認してみます。
以下です。
キャサリン・タイ、韓国の安徳根(アン・ドククン)通商交渉本部長と会談
2022年9月7日ワシントン-キャサリン・タイ合衆国通商代表は本日、韓国の安徳根(アン・ドククン)通商交渉本部長と会談を行った。
タイ代表は、インド太平洋経済フレームワークに関する韓国の緊密な協力を歓迎し、ロサンゼルスで開催されるインド太平洋経済フレームワーク閣僚会議について議論した。
また、サプライチェーンに関する課題、環境保護を支援する努力、APECやG20 を含む地域・多国間フォーラムにおける協力を強化する方法など、共通の関心 分野においてより強固なパートナーシップを構築する目的で、幅広い貿易問題について議論した。
また、タイ代表は、国際的に認知された労働者の権利の支援について韓国と緊密に協力することを望むと述べた。
タイ代表は、2022年インフレ削減法の電気自動車(EV)条項に関する韓国の懸念に耳を傾け、両者はこれらの問題に関して関与チャネルを開設することを約束した。
また、サプライチェーンと安全保障の脆弱性に対処しつつ、気候危機と戦うためにクリーンエネルギー技術に関する有意義な行動の重要性を強調した。
韓国側のプレスリリースでは、韓国が「韓国産電気自動車に対する差別的扱いを撤廃しろ」とねじ込み、合衆国はそれを聞いた――と受け取れます。
しかし、合衆国側のプレスリリースでは、一番最初に挙がっているのは「インド太平洋経済フレームワーク」です。「韓国の協力に感謝」みたいな書き方です。
また、挙がっているアジェンダとしての順番は以下のとおりです。
②幅広い貿易問題
③国際的に認知された労働者の権利の支援
④電気自動車条項に関する韓国の懸念
⑤クリーンエネルギー技術に関する行動の重要性
韓国にとっては大変に残念な話ですが、電気自動車については4番目で、ワン・オブ・ゼムに過ぎません。とても合衆国側が韓国の提起を重要と考えているとは受け取れない書きようです。
しかも、これについては「別個のチャネルを作ってそっちでやりましょう」と合意しています。
「はいはい、その件はよそでやりましょう」という態度です。もちろん、話し合うチャネルを作ることに合意したのはいいですが、おためごかしな姿勢に見えなくもありません。
――というように、明らかにプレスリリースに温度差があります。
これは体のいい門前払いではないでしょうか。
門前払いではないにしても、合衆国側は韓国の提起を重くは受け止めていない様子ですから、これは韓国側の空回りです。
韓国はこの後、産業通商資源部の第2次官が渡米して交渉を行う予定です。成果が出るのかどうかにご期待ください。
(吉田ハンチング@dcp)