2022年05月10日、韓国に第20代大統領が誕生します。韓国史に残る超接戦の大統領選挙を制した尹錫悦(ユン・ソギョル)さんですが、この人は親米的な姿勢を示しています。
親米派ですので、必然的に日本ともめるわけにはいきません。そのため日本には融和的に臨むものと見られています。当選直後にアメリカ合衆国・バイデン大統領、次いで日本国・岸田首相と電話会談を行ったのはその現れです。
しかし、韓国の進歩派勢力が衰退したわけではありませんし、尹大統領が望んだとしても日本と友好的にやっていけるとは限りません。「親日派」のレッテルを貼られて政策が遂行できない可能性が高いからです。
日韓関係がどうなるのかは韓国メディアでも関心が持たれています。
識者の意見ですらこの程度
『中央日報』に尹時代の日韓関係について識者に聞いた記事が出ていますので、この各位がどのように述べているのかを以下に引用してみます。
●申珏秀(シン・ガクス)元駐日大使
最近の日韓関係は春がやってきたが春らしくない「春来不思春」(春來不似春)の状態だ。新政府発足と共に注目すべき部分は、尹当選人が就任時、日本で祝賀使節で誰が来るかだ。続く05月、東京で開かれるクワッド(Quad、アメリカ合衆国・日本・オーストラリア・インドの4カ国協議体)首脳会議に韓国大統領が招待を受けるか、招待を受けるなら日韓首脳会談も開かなければならない。
強制動員(原文ママ)問題の場合、完全な解決策を見つけるのは容易ではないので、現金化から止めるのが急務だ。唯一の方法は両国政府が代位弁済に合意することで、結局被害者の説得が重要だ。
⇒参照・引用元:『中央日報』「『尹錫悦・岸田合意』期待、日韓の正常化を突破する」
日韓関係に春がやってきただろうかという疑問がありますし、「両国政府が代位弁済に同意する」のが解決策としています。韓国政府にボールがあることを理解していません。当然ですが、現金化を止めるのは韓国政府の仕事です。
●柳明桓元(ユ・ミョンファン)外交部長官
文在寅政府は後半期に入って日本との関係改善を試みたが、昨年07月、東京夏期オリンピックきっかけのspan class=”bold”>文大統領の訪日が霧散するなど、結局真正性を見せることに失敗した。日本の反応は冷たくなるばかりだ。
強制徴用(原文ママ)問題関連の最善の案は与野党合意を土台とした基金助成と代位弁済だ。
日韓企業と国民の自発的な寄付などで基金を作る「文喜相(ムン・ヒサン)案」を復活するのも合理的だ。ただ、次期政府は与党の協力を引き出すことが課題だ。
⇒参照・引用元:『中央日報』「『尹錫悦・岸田合意』期待、日韓の正常化を突破する」
文在寅大統領の訪日が霧散したのは、韓国側が無理な見返りを求めたためです。「日本の反応は冷たくなるばかりだ」という認識は正しいですが、すでに否定された「文喜相案」を「復活させるのが合理的」などと述べています。
●シン・ヒョンホ弁護士
日韓関係は水平的に変わったが、日本の法曹界と疎通してみれば、まだ韓国の地位の変化を受け入れていないと感じる。日本も韓国に対する認識を再確立し、関係改善の「宿題」をしなければならない。
慰安婦・強制徴用(原文ママ)など過去史問題は、法的手段が究極の解決策になることはできない。結局、人類普遍的な人権問題という点を浮き彫りにして戦略的に日本を圧迫しなければならない。
⇒参照・引用元:『中央日報』「『尹錫悦・岸田合意』期待、日韓の正常化を突破する」
「日韓は対等の関係になったのに、日本の法曹界はそれを認めていない」などという所感を述べています。
韓国が国際法を守らないというのは、韓国の地位が日本と対等になったのとなんの関係があるのでしょうか。いや対等になったればこそ法を守って初めて国と国の関係が正常、健全に保たれるはずです。
また、人権という美名の下に日本を圧迫するのが正しいなどと主張しています。この方はいわゆる「人権派」の弁護士でなのでしょう。
●李根寛(イ・グングァン)『ソウル大学』教授
韓国の新政府発足後、日韓関係が良くなると展望する世論は、言い換えれば「関係がすでにあまりにも悪化してこれ以上悪くなる余地がない」という意味でも解釈できる。「文喜相(ムン・ヒサン)案」は、2018年最高裁判所の判決をそのままにしても、現実的な解決策を講じたという点で意味がある。
新政府は、過去の金大中・小渕宣言を新しい合意導出の出発点としなければならない。
⇒参照・引用元:『中央日報』「『尹錫悦・岸田合意』期待、日韓の正常化を突破する」
この方も「文喜相案」を持ち出しています。韓国の最高裁の判決がおかしい、と考えるべきなのに「そのままにして」などと述べている点がおかしいです。「現実的な解決策」などではありません。
●キム・ユン『三養ホールディングス』会長
日韓経済協会長を務めながら切実に感じたことは、両国間の政治的関係が安定を見つけられなければ経済交流も打撃を受けるという点だ。特に2019年の日本の輸出規制(原文ママ)措置以後、かなり大変だった。
韓国内の日本企業の集会である『ソウルジャパンクラブ(SJC)』の会員数もますます減っている。日韓経済規模が急速に格差を狭めているが、両国間の技術水準は依然として差が大きい。
したがって、今後の両国協力が復元されれば、韓国が得る点がはるかに大きいと予想する。
⇒参照・引用元:『中央日報』「『尹錫悦・岸田合意』期待、日韓の正常化を突破する」
日韓の技術格差はいまだ大きいという認識の下、日韓の関係が正常化(?)されれば韓国の方が得るものが大きいなどと述べています。こういうのを「用日」論者というのでしょうが、要は日本の持つ技術をよこせと言っているに他なりません。
●金顕哲(キム・ヒョンチョル)『ソウル大学 国際大学院』教授
韓国は民間共同機構を活用して被害者を説得することがカギであり、日本は強硬な世論を克服するのが課題だ。いずれも構造的問題で解決が容易ではない。
韓国の新政府発足後、少数与党の局面で被害者団体が野党と意見を合わせ、政府・与党の解決策を容易に受け入れない恐れもある。
日本も国民の約半分が両国関係の改善の可能性を懐疑的に展望するが、その背後には自民党の安倍派など右傾化された政界がある。
⇒参照・引用元:『中央日報』「『尹錫悦・岸田合意』期待、日韓の正常化を突破する」
「国際大学院」の教授にしてこの程度の認識です。「日本は強硬な世論を克服するのが課題」などと述べていますが、日本の対韓世論がどのように形成されたのか理解していません。
韓国のことを知り、理解したからこそ韓国に対して強い姿勢を取るようになったのです。日本の世論は、今までのように「日本に甘えた態度」を韓国が取ることを許さないのです。
またこの韓国を普通に扱うという日本の態度の裏には「自民党の安倍派など右傾化された政界がある」などと述べています。よくこんな理解で「国際大学院」の教授が務まるものです。
●朴鴻圭(パク・ホンギュ)『高麗大学』教授
強制徴用(原文ママ)の解法として代位弁済やYSフォーミュラに従う場合、被害者と反対世論を説得するための論理を適切に用意しなければならない。尹当選人は日本の謝罪と未来志向的な関係改善を骨子とする金大中・小渕宣言の新しいバージョンを作ると言ったが、尹錫悦政府は保守政府だけの哲学を盛り込んだ新しい宣言あるいは協約を講じることが望ましい。
⇒参照・引用元:『中央日報』「『尹錫悦・岸田合意』期待、日韓の正常化を突破する」
韓国では識者が「金大中・小渕宣言」に言及することが多いですが、これがそもそもの誤りだったともいえます。日本も「金大中・小渕宣言」に再考する必要があるでしょう。金大中時代の「韓国を甘やかしてくれる日本に戻せ」と言っているに等しいからです。
●鄭在貞(チョン・ジェジョン)『ソウル市立大学』名誉教授
結局、誰が猫の首に鈴をつけるのか。日韓関係のマイルストーンのような金大中・小渕宣言で、私たちはこれ以上日本の「痛烈な反省と謝罪」にのみ執着してはならない。
代わりに当時、日韓が国交正常化以後、国家建設過程を互いに肯定的に評価し、両国交流協力が相互に役立つと評価したという点に注目しなければならない。
強制徴用(原文ママ)問題は、被害者との十分なコミュニケーションで彼らの真意を確認し、慰安婦(原文ママ)問題と共に、学界における関連研究および教育に対して検討もしなければならない。
⇒参照・引用元:『中央日報』「『尹錫悦・岸田合意』期待、日韓の正常化を突破する」
諸所の問題に「学界における関連研究および教育に対して検討もしなければならない」と述べていますが、これがどういう意味なのかはこの発言だけでは分かりません。
●権泰煥(クォン・テファン)元駐日武官
尹錫悦政府は日韓関係改善のために段階的アプローチをしなければならない。大統領職引き継ぎ委員会の活動期間中に、日本に特使を派遣して意見を交換することができる。
続く05月の尹錫悦就任式、同月東京で行われるクワッド首脳会議、来る07月の参議院選挙後の推進が可能な日韓首脳会談などの機会を活用しなければならない。
異常な状態であるGSOMIAも正常に戻す必要がある。
⇒参照・引用元:『中央日報』「『尹錫悦・岸田合意』期待、日韓の正常化を突破する」
元武官だけあって「GSOMIAが異常な状態」という認識はお持ちのようです。韓国は機密情報を中国に漏らしており、これについては合衆国も知っています(本当です)。韓国は日本にとって安全保障上有益な相手たり得るのかは甚だ疑問で、そのため異常な状態であることは確かです。
●洪錫ヒョン(ホン・ソクヒョン)『朝鮮半島平和づくり』理事長
日本では、尹錫悦政府の発足を日韓関係改善の青信号とみなす。新しい政府が過去10年間の関係悪化局面を反転させるだろうという期待感がある。
その手続きは、今後の与野党共同委員会でも官民委員会でも、与野党の協力を通じてなされなければならない。
関係を改善するための詳細な解決策はすでに示されている。
結局、重要なのは葛藤を政治的に解決しようとする尹錫悦本人の意志だ。
日本政府の真の謝罪と遺憾表明に加え、未来志向の両国間プロジェクトが設けられれば、金大中・小渕宣言のアップグレード版である尹錫悦・岸田合意を期待することができるだろう。
⇒参照・引用元:『中央日報』「『尹錫悦・岸田合意』期待、日韓の正常化を突破する」
「日本政府の真の謝罪と遺憾表明」が必要などと述べている時点で、この方も何も分かっていないといえるでしょう。また、金大中・小渕宣言のアップグレード版と述べている点にも要注目です。金大中時代よりもさらに韓国を甘やかしくれ、と望んでいるように聞こえます。
「韓国が日本からどう見られているか」を理解できない
――というわけで、どの識者も「日本がどのように韓国を見るようになったのか」「日本の世論がもはや金大中・小渕時代には戻らないこと」が理解できていません。
総じていえば「自分たちがどう見られたいのか」だけを理解して、「自分たちが実際にはどう見られてるのか」が理解できていません。
つまり、相対的に自分たちを見ることができないのです。
このような方々が識者なのですから、尹大統領の時代になっても日韓関係は大して変わらないでしょう。
日本としては岸田首相が日和らないかを注視しなければなりません。この人は脇が甘く、韓国につけ込まれる可能性があります。
(吉田ハンチング@dcp)