Money1では何度もご紹介していますが、韓国は「低負担・低福祉」の国です。
社会保障制度の掛け金が少なくて済む代わりに保障も少ないという制度設計になっています。人口が増え続け、右肩上がりの経済であれば、それでも良かったのかもしれませんが……。
「低福祉」すらも維持できなくなってきた
韓国の経済成長は鈍化しています。
10年期ごとの韓国の平均GDP成長率を見てみると以下のように明らかに右肩下がりで、次の10年期(2020~2029年)にはとうとうゼロ%台の成長に突入するのではないか、と見られています。
韓国メディアでは「日本の失われた30年を韓国も追いかけることになる」なんて記事が散見されますが、日本と比較してそんなことを言っている場合ではないのです。上掲のとおりもう韓国の「夏」は終わったのです。
また、2020年には出生数と死亡数がデッドクロスし、人口の自然減少フェーズに入りました。(北朝鮮との合併でもない限り)生産人口は以降減っていくばかりです。
つまり、社会保障費(掛け金)を負担する人口は減少していきます。しかも合計特殊出生率※が「0.81」と世界最低ですので急速に減少します。
ですので、韓国はそもそも「低負担・低福祉」の国なのに、その「低福祉」すら維持するのが困難になっているのです。
Money1でも何度かご紹介したとおり、老齢年金を給付する「国民年金基金」のお金が枯渇する危機が懸念されています。
間もなく終了する文在寅政権では、結局「国民年金改革」は手つかずのママでした。国民に負担像を強いるものになるので、人気が落ちると断行しなかったのでしょうが(こういうところも姑息な政権でした)、しかしこのままでは韓国の国民年金のシステムが破綻することは明らかなのです。
次の尹錫悦(ユン・ソギョル)政権は、文政権が放り投げた国民年金改革を行わなければなりません。待ったなしです。
ここまでが前振りです。
赤字が1京7,000億ウォンになるぞ!
「国民年金改革」は国民の生活に直結しますので、大変に重要な政治課題です。
2022年04月29日、大統領職引き継ぎ委員会の安哲秀(アン・チョルス)委員長はブリーフィングを開催し、「尹錫悦政府の福祉国家改革の方向性」を開陳しました。
それはいいのですが、衝撃の発言がありました。以下に引きます。
「国民年金は2055年に枯渇する。
2088年には累積赤字がなんと1京7,000兆ウォンに達する」
イヤなことをきっぱり述べたものですが、このデータは「国会予算政策処」(略称:NABO)が算出したものを基にしており信用できます。この1京7,000兆ウォンという数字は、給付金額および経費から基金にあるお金を引いたものです。
安哲秀(アン・チョルス)さんは以下のようにも述べています。
「合計特殊出産率0.8人を勘案すれば、枯渇速度はより速くなり得る。公的年金改革は必須」
全く的を射た指摘ではありますが、問題は「どうするのか」です。
4大公的年金(国民・公務員・軍人・私学年金)を統合することを目標に、支給率・所得代替率調整などのパラメータを改革する――としていますが、保険料の引き上げは避けられません。
日本よりずっと速く老いていく韓国がどのようにし、また結果がどのようになるのかは日本にとっても参考になるでしょう。韓国の年金改革にご注目ください。
※※合計特殊出生率は「女性一人が15歳から49歳までに出産する子供の数の平均」です。
(吉田ハンチング@dcp)