かつて、日本の麻生太郎財務相が「約束が守られないならお金を貸しても返ってこなくなるかもしれない。通貨スワップの議論も難しくなります」と述べたことがあります。
韓国からは「通貨スワップについて理解しているのか」「通貨スワップの締結は日本にもメリットがある」といった反発の声が上がりました。
しかし、この反発こそヘンな話で、日韓通貨スワップを締結しても日本にはメリットはありません。麻生財務相は十分に理解した上で「お金が返ってこないかもしれない」と述べたのです。
日韓の通貨スワップ締結は、日本にとっては「韓国に何かあった際に日本の輸出企業が代金を取りはぐれないための保険」程度の話で、それ以外の役に立つとはあまり思えません。日韓通貨スワップは日本にとってリスクの高い片務的なもので、締結する必要がないのです。
しかし、韓国は「日本にも役立つ」と主張してやみません。
アメリカ合衆国に対しても、この論理が通用すると考えているのでしょう、韓国メディア『ハンギョレ』に「ウォンとドルの通貨スワップ、米国にとっても利益」というタイトルの記事が出ています。
以下に、「合衆国の利益がいかなるものか」を説明した部分を引用してみます。
(前略)
当時もFRBの思惑はグローバル金融危機当時とあまり変わらなかった。ドル資金市場環境の悪化を放置すれば、結局米国にも危機が転移しかねないという認識だった。
2020年4月に開かれたFRBの連邦公開市場委員会の議事録によると、委員らは「(韓国など9カ国と結んだ通貨スワップ協定により)グローバルドル資金市場の困難が緩和されるだろう」とし、「これにより(今回の危機が)米国の家計と企業に対する信用供給に及ぼす影響も減るだろう」と判断した。
(後略)
上掲は2020年03月に『FRB』(Federal Reserve Boardの略:連邦準備制度理事会)が急きょ9カ国の中央銀行にドル流動性スワップ(韓国側呼称「通貨スワップ」)を締結しました。
これは世界的にドルの流動性が枯渇し、ドル調達のコストも急騰。このままでは合衆国内にも悪影響を及ぼすと踏んだのでスワップラインの提供に踏み切ったのです。
確かに『韓国銀行』ともドル流動性スワップを締結しましたが、one of themであって、あくまでも世界的なドル流動性不足への対応が目的でした。
この件をもって「ウォンとドルの通貨スワップ、米国にとっても利益」とするのは強弁というものです。
以前にもご紹介しましたが、韓国はこのとき証券会社が海外からドル建てのマージンコールがかかって大変なことになっていました。自業自得もいいところですが、もしこの時『FRB』がドル流動性スワップを提供しなければ、証券会社がバタバタと倒れたかもしれません。
ともあれ、『FRB』がドル流動性スワップをハードカレンシー保有国以外と締結するときは、合衆国の利益と合致していることが求められます。
合衆国は自国に利益のないことはしない、のです。
ですから――2020年03月に締結した臨時のドル流動性スワップを終了させたということ自体が、合衆国は韓国とスワップラインを結ぶことにメリットを見出してはいない――と証明しています。
「ウォンとドルの通貨スワップ、米国にとっても利益」という言説は、世界的なドル流動性の危機にあり、それが合衆国内にも悪影響を及ぼす場合には――といった前提があれば成立します。
そのため、この『ハンギョレ』の記事は、米韓通貨スワップの締結が合衆国にどんな利益をもたらすのか説明できないのです。
(吉田ハンチング@dcp)