韓国メディア『ハンギョレ』に興味深い記事が出ています。
「輸出よりも配当で多く稼ぐようになった韓国」というタイトルで、主旨としては「2022年に韓国は輸出入の貿易よりも配当で稼ぐようになった」というものです。
記事から一部を引用してみると以下のような具合です。
昨年、韓国の対外交易で尋常ならざることが起きた。
輸出で稼いだお金よりも企業や機関・個人の投資家が国外投資の配当で稼いだお金の方が多くなったのだ。こうした逆転現象は1998年以降で初めて起きた。
これを経済学用語で解きなおすと、経常収支項目の中で商品収支より本源所得収支の方が多くなったということだ。
経常収支は国家間の商品・サービスの輸出入と賃金・投資所得などすべての実物部門の取引の結果、稼いだ収入から支出を差し引いた金額をいう。
一国の対外健全性を示す代表的な指標だ。韓国は1990年代初・中盤に大規模な経常収支赤字が累積し、通貨危機勃発の背景になっただけに、今も多くの人々が敏感になっている。
(中略)
韓国は1998年から経常黒字国になったが、黒字の大部分を商品収支が生んできた。
史上最高の経常黒字を達成した2015年(1051億ドル)の場合、商品収支の黒字は1203億ドルだった。
サービス・移転収支で赤字が出たにもかかわらず、商品収支の黒字で経常黒字1千億ドル時代を初めて開いた。
ところが昨年、こうした構造が崩れた。昨年、韓国の経常収支は厳しい環境の中でも298億ドルの黒字を示したが、2011年以降では規模が最も小さかった。
輸出より輸入が急増し、商品収支の黒字が縮小したためだ。商品収支の黒字は151億ドルで、本源所得収支の黒字(229億ドル)よりも少なかった。
本源所得収支は直接投資で118億ドル、証券投資で54億ドルの黒字を記録した。直接投資は企業、証券投資は機関・個人が主に行う。
(後略)
書き手が韓国の国際収支統計の用語になっているので分かりにくいかもしれません。
「商品収支」は、日本では「貿易収支」(Balance of goods)、本源収支は「第1次所得収支」(Balance of primary income)です。
この記事が主張する「韓国は貿易収支よりも配当でもうけるようになった」を検証してみましょう。
『韓国銀行』の公表したデータによると、2022年の国際収支統計は以下のように締まっています。
貿易収支:150億6,090万ドル
サービス収支:-55億4,750万ドル
第1次所得収支:228億8,420万ドル
第2次所得収支:-25億6,670万ドル
経常収支(上記4つの合計):298億3,090万ドル
確かに、貿易収支「150億6,090万ドル」よりも第1次所得収支「228億8,420万ドル」の方が大きく締まりました。
第1次所得収支は基本「外国からの所得」を計上する項目なので、2022年、韓国は「外国からの所得」の方が「貿易黒字」より大きかったのです。
1980~2022年の貿易収支・第1次所得収支の推移を見ると以下のようになります。
韓国がドボン騒動を起こした1997年のアジア通貨危機以来では、第1次所得収支が貿易収支を上回ったのは初めてのことです。
問題は、この傾向が続くのかどうかです。外国からの所得が増加して第1次所得収支が拡大、貿易収支がたとえ赤字だろうがお金が入ってくるからいいもんね――になればいいのですが、そうならなかったら大変なことになります。
証券収支で「54億ドルの黒字を記録した」と誇らしく書いていますが、証券収支は、
です。韓国から外国証券への投資の方が多かったことを示しています。つまり、キャッシュアウトです。資産増ではありますが、その分のお金が出ていったのです。
直接投資も同様で、外国から韓国への投資よりも、韓国から外国への投資の方が大きかったことを示しています。つまり「118億ドルの黒字」は確かに外国の資産増かもしれませんが、その分のキャッシュアウトです。
尹錫悦(ユン・ソギョル)政権(前文在寅政権もそうでしたけれども)は「外国からの投資をもっと呼び込もう」と大声を出しているのですが、起こっているのは真逆の現象なのです。
総じていえば、「韓国が魅力的な投資先ではない」と示しているともいえるわけで、これは喜んでばかりもいられないのではないでしょうか。
(柏ケミカル@dcp)