間もなくロシアが無法にウクライナに侵攻してから1年になります。専門家ですら短期間に制圧されると予想したのですが、ウクライナは持ちこたえています。
自由主義陣営国の軍事専門家からは「なぜロシアはこんな下手くそな戦争をやっているのか」と指摘されています。統一した戦争指揮が行われていないのではないのか、だとしたら、なぜだ?――というわけです。
これに対して、小泉悠先生と高橋杉雄先生が対談の中で、非常に興味深く、面白い指摘をされています。
YouTube『文藝春秋』チャンネルの「『戦争指導者として プーチンは強敵か?』小泉悠と高橋杉雄が〈ロシア軍の現状〉を分析」という動画の中での指摘です。
以下がその動画です。該当箇所を引用します。
(前略)
小泉先生 これは、ロシアのプーチン政権研究などでよくいわれるのは、まあ……あるロシアの政治学者が使った「システマ」っていう言葉があるんですね。「システマ」って要は「システム」ってことですけど。
これは早い話が、僕なりに現代日本語に訳すと「忖度」なんですよ。
よくいわれるのは、プーチンはいろんな連中を抱え込んでいるんだけど、それぞれにはっきりしたタスクを与えることはほとんどない、と。
なんとなく「オレはこんなふうにしたいなあ……」って言うと、部下たちが、ここで成果を上げれば、オレたちが一番大統領からかわいがられて、予算も権限をたくさんもらえる、目障りなあいつらを蹴落とせる、みたいなので頑張る。
まさに2016年のアメリカ大統領選への介入なんですよ。
高橋先生 ああ!
小泉先生 GRU(ロシア連邦軍参謀本部情報総局)とSVR(ロシア対外情報庁)とFSB(ロシア連邦保安庁)が別々に介入していて、アメリカのインターネットセキュリティー企業によると、マルウェアに全く共通性がない。
高橋先生 ははっ(笑)
小泉先生 うふふ(笑)。唯一ある、ちょこちょこある共通部分は、ダークWebにのっかっているものである、と。つまり、別々にソフトウェア部隊を抱えていて、別々に作戦をやってるんですよね。
高橋先生 ああ(笑)……変わらないね、それは。
小泉先生 たぶん、それの物理戦争版が今回の戦争みたいなことで……。
(中略)
これまでどおりに「リシチャンスクが落ちたらオレは喜んじゃうなあ……」みたいな感じで言って(笑)。
高橋先生 それはね、上品な言葉でいうと「暗黙知」って言ったり。「セルフシンクロナイゼーション」(笑)。
小泉先生 それはね上品すぎるでしょう(笑)。
(後略)
専門家同士の話というのは、とても面白いものです。小泉先生が指摘されている、プーチン大統領の希望を叶えるために部隊が個別に作戦をやっているというのは、今回のロシアの戦争が下手くそといわれる理由をとてもうまく説明できているのではないでしょうか。
合衆国大統領選挙への介入も、3つの情報組織が、ダークWebにあるコードをそれぞれ「これは使える」と目をつけ、それぞれで利用してマルウェアを制作、実行していた――というのです。
誰が聞いても効率のいい話ではありませんが、「こうなったらオレは喜んじゃうなあ」ではこうなってもおかしくはありません。そのような指揮(?)が現在の戦争でも行われているとしたら、ロシアがうまくいっていないのも無理はありません。
ウクライナ戦争がどのように決着するのか、現在はまだ分かりませんが、戦後、プーチン大統領がどのような戦争指導を行っていたのかが明らかになるときが来るでしょう。
資料を見て、みんな驚くかもしれません。
(吉田ハンチング@dcp)