Money1でも何度かご紹介しているとおり、韓国の社会的セーフティーネットは「低負担・低福祉」です。健康保険も老齢年金も負担が少ない代わりに福祉も薄いというバーターでした。
経済が成長している国の青年期はそれでも良かったのですが、読者の皆さんもご存じのとおり韓国は急速に人口の増加が止まり、2020年には出生数と死亡数がデッドクロス。急速に国が老いていきます。
年金基金の積立金が枯渇する
経済成長も問答無用でゼロ成長時代へと進行中です。高齢者も増えて「低負担・低福祉」では国がもたないのは明白です。年金基金はこれまでの予測よりずっと早く枯渇することが分かっています。
「国会予算政策処」がいつ枯渇するのかの計算をしているのですが、2013年時点では以下のようでした。
2044年:収支が赤字に転落
2060年:積立金が枯渇
2018年には以下のようになります。
2042年:収支が赤字に転落
2057年:積立金が枯渇
2018年の計算では、2013年より枯渇の時期が2060年から2057年へ、3年早まりました。2022年の計算ではこれがさらに2年早くなって2055年と推定しています。
2055年といえば、あと33年しかありません。合計特殊出生率※のさらなる低下、早まる人口減少が効いているのです。何度もしつこくご紹介しているとおり、韓国は日本よりもずっと早く老い、社会的なセーフティーネットも破断界を迎えると見込まれているのです。
例えば、年金制度の専門家である韓国『順天郷大学』IT金融経済学部の金龍夏(キム·ヨンハ)教授は、「基金に資金がなくなると、現行『所得の9%』を出す国民年金保険料率を『30%レベル』まで上げなければならない状況があり得る」と警告していました(以下2022年08月15日付記事)。
⇒参照・引用元:『毎日経済』「”2030이 국민연금 받으려면 2배 더 내야”」
尹錫悦(ユン・ソギョル)政権は危機感を持っており、前文在寅政権が何もしなかったせいもあり、早急に改革を行う――としています。
「どう改革するのか?」という難題
尹錫悦(ユン・ソギョル)政権は年金改革プランを2023年10月までにまとめる、としました。また、当初の予定を1カ月早め、国民年金基金の予想枯渇時点を盛り込んで「財政推計」と公表することにしました。
民間の諮問委員会からは、中間報告として、国民年金の保険料率(現行:9%)と所得代替率(40%)を調整する方式である変数改革を提示しています。
つまり、毎月の保険料率を上げる、所得代替率を下げる、というパラメーターをいじることでシステムを維持するプランです。ただ、こうなると「低負担・低福祉」が「高負担・低福祉」に一転した、と国民から非難される可能性が高いです。
年金受給開始年齢を現行に63歳(2023年)から65歳、あるいは67歳に引き上げるという意見も出ています。
さらには、現行「59歳までは義務加入」(59歳までは保険料を支払い続けなければならない)となっている期限を拡大する、という案もあります。
いずれにしても国民に負担を強いることになり、不人気な改革となるのは明らかです。前文在寅政権が5年間何もしなかったのが痛いです。時間だけは取り返しがつきません。
尹錫悦(ユン・ソギョル)政権がいかなる改革案を選択するのか、人口減少によって最も先になくなる国といわれる韓国の年金改革にもご注目ください。
※合計特殊出生率は「女性一人が15歳から49歳までに出産する子供の数の平均」です。この数字が2.2ないと人口は増えていかないといわれます。
(吉田ハンチング@dcp)