「キミと僕は一緒になるべきだ」と言ってくるヤツがいたとして……皆さんならどういう反応をするでしょうか。普通は「うわっ、気持ちワル!」ではないでしょうか。
EUは「中国産の電気自動車」の調査に乗り出し、ドイツは「脱リスクを行う」という主旨の「戦略文書」を公表しています。
中国は欧州との関係が塞がれつつあります。欧州の基本姿勢は「フェアな環境下での競争はする。でも協力や支援はしない」になってきているのです。
「中国と欧州は共存共栄できる」果たしてそうかな?
2023年10月13日、秦剛さんが行方不明になって外相に復帰した王毅さんが「欧州のとの関係」について、大変面白い声明を出しました。以下が全文和訳です。
面倒くさい方は、強調文字などの部分だけ見ていただければ大丈夫です。
2023年10月13日、中国共産党中央委員会政治局委員である王毅外相は、ジャン=ピエール・ボレリ欧州連合(EU)外務・安全保障政策上級代表と中国・EUハイレベル戦略対話(HLSD)を行った後、記者団にブリーフィングを行った。
王毅外相は、第12回中国・EUハイレベル戦略対話は幅広いコンセンサスに達したと述べた。
双方は対話と協力を強化し、陣営対立に反対することで合意した。
20年の歴史は、中国とEUの間に根本的な利害の対立はなく、相違をはるかに凌駕するコンセンサスで結ばれた第一のパートナーであることを示している。
中国とEUの関係は世界的な戦略的意義を持つものであり、第三者に依存するものでもなければ、第三者に邪魔されるべきものでもない。
中国と欧州は、2大文明、2大勢力として、相互尊重とWin-Winの協力に基づき、ハイレベルの対話と協力を行う知恵と能力を有しており、文明間交流の新たなパラダイムを創造するものである。
双方は、首脳会談に向けて積極的に準備し、ハイレベルの主導的役割を果たすことで合意した。
戦略、貿易・経済、グリーン・デジタルに関するハイレベル対話メカニズムの成果の実施を加速し、あらゆるレベルのオフラインでの接触を全面的に再開し、各分野での互恵協力を活性化し、外交政策協議と地域問題に関する対話を実施する。
双方は、中国とEU間の航空便および人的交流の加速的な再開を積極的に推進し、双方の青年、企業、シンクタンク間のより多くの対面交流を支援する意向である。
双方は、開放とWin-Winの理念を堅持し、互恵協力を深めることで合意した。
中国と欧州は互いに重要な経済・貿易パートナーであり、中国と欧州の協力の本質は相互補完的な優位性とWin-Winの協力である。
中国と欧州は双方向の開放性を維持し、産業チェーンのサプライチェーンの安定性を守り、公正な競争を促進すべきである。
グリーン、デジタル、科学技術、金融その他の分野における協力の可能性を探り、オープンな態度で「一帯一路」イニシアティブとEUの「グローバル・ゲートウェイ」プログラムとの接点と協力を探る。
中国は、改革開放をさらに深化させ、EU企業が中国で活動するためのより有利な環境を作ることを望んでいる。
中国は、EUの「リスク回避」、特に中国の電気自動車に関する相殺調査について懸念を表明し、EUに対し、保護主義的な慣行を避け、貿易救済措置を慎重に用いるよう促した。
双方は、多国間主義を守り、協力してグローバルな課題に取り組むことで合意した。
中国とEUは、気候変動に取り組み、生物多様性を保護し、世界的なグリーン開発を先導し、世界的な公衆衛生の課題に精力的に取り組むために協力すべきである。
中国とEUは、国連、20カ国・地域(G20)、世界貿易機関(WTO)などの多国間枠組みにおける協調と協力を強化し、グローバル化のプロセスを共同で推進し、開発途上国の発展をよりよく支援すべきである。
双方は、イスラエル・パレスチナ紛争やウクライナ危機など、共通の関心事である国際問題や地域問題について踏み込んだ意見交換を行い、国際的なホットスポットの政治的解決を模索すべきであり、「新冷戦」は不人気であり、両陣営の対立をあおることは全世界を傷つけることになるとの認識で一致した。
王毅外相は、戦略的対話は率直で、深く、実り多いものだったと述べた。
双方は引き続き中国・EU関係の前向きな勢いを維持し、今年の中国・EU首脳会議の準備を進め、中国・EU関係の健全で安定した発展を促進し、混沌とした国際情勢のさらなる安定を志向していく。
「なんだか友好ムードだな」と思われるかもしれませんが、関係がなんら進行していない様子の声明です。「対話と協力を強化し、陣営対立に反対することで合意」となっていますが、これは会談以前からこうです。
EUもドイツも「陣営対立を望んでいるわけではない」と明言しています。問題なのは、中国の不公正な商習慣であり、制度であり、貿易の不均衡などだとはっきり指摘しているのです。
つまり、中国がそれらを変えないと(変えられませんが)、欧州の脱リスク(脱中国の言い換えに過ぎません)の方向は変わらないのです。
「開放とWin-Winの理念を堅持し、互恵協力を深めることにした」などは合意して当然のこと。ドイツの戦略文書内にもありますが、現在の中国-欧州の関係は全くWin-Winではありません。
だからこそ、「開放とWin-Winの理念を堅持し、互恵協力を深め」なければならないという認識なのです。ドイツ戦略文書の中には「対中国貿易でドイツは大きな赤字を被っている」と書いてあります。
どこがWin-Winなのでしょうか。
今回の声明は、決して欧州と中国の和解などではありません。中国の懐柔で、欧州は原則論を述べたに過ぎないのです。
「中国もいれてくれ」と厚顔無恥な提案を行った!
ご注目いただきたいのは、「『一帯一路』イニシアティブとEUの『グローバル・ゲートウェイ』プログラムとの接点と協力を探る」の部分です。
もはや加盟国からもブーイングが出ている「一帯一路」構想と、EU側の「グローバル・ゲートウェイ」プログラムがなんとかリンクできないか――と提案を行った模様です。
こういうのを厚顔無恥といいます。
日本ではあまり知られていませんが、「グローバル・ゲートウェイ(Global Gateway)」というのは、欧州委員会が2021年12月に公表した「発展途上国のインフラなどへの投資を増強するための戦略プラン」です。
エネルギーなどのハード面から、保健・教育などのソフト面まで、さまざまな分野に対して2027年までに計約3,000億ユーロを投資するというプランです。
この欧州の戦略プランに「かませてくれ」というのです。
ド厚かましいとしか評せません。
↑「Global Gateway」構想を発表する『欧州委員会』のフォン・デア・ライエン委員長。この人は女傑です(2021年12月01日)
「キミと僕は一緒になるべきだ」と言ってくるヤツとなんら変わりません。
ジョセップ・ボレルEU外務・安全保障政策上級代表兼欧州委員会副委員長は、この構想について、
「世界におけるより強い欧州とは、私たちの基本原則に根ざしたパートナーとの強固な関係を意味する。
『グローバル・ゲートウェイ』戦略は、国際的に受け入れられた基準、ルールおよび規制に基づいてつながり合うネットワークを広げて公平な競争の場を提供するというEUの構想をあらためて確認するものだ」
と述べているのです。安倍晋三首相が構想した「価値観を同じくする者の同盟」と全く同じです。
中国は、「国際的に受け入れられた基準、ルールおよび規制に基づいて」などいませんから論外です。
「Global Gatewayにいっちょ噛みしたい」などと言い出すことが、そもそも「中国が自分を分かっていない」ことの証明です。本当にすごい国です。
合衆国から攻められ、孤立しつつある中国は「せめて欧州とは連携せねば」と焦っていますが、そうはいきません。
無法者の中国をとことん追い込んで経済的に瓦解させる必要があります。
(吉田ハンチング@dcp)