ドイツが大きな方針転換を行いました。前政権の対中国融和策から「脱中国」に舵を切ったと見えます。
2023年07月13日、ドイツ連邦政府は「連邦政府の中国戦略」という文書を公開しました。
↑ドイツ連邦政府が公表した文書の表紙。「囲碁」の写真が使われていますが、これには意味があります。「囲碁」は相手を打ち負かすことが目的ではなく、有利なポジションを獲得し、いわゆる『自由』を守ることが目的である」と説明しています。
非常に興味深い文書ですが、例えば「ドイツとEUの強化」には以下のように書かれています。
(前略)
中国との競争と体制的な対立の激化は、ドイツとEUにおいて、経済、競争力、技術主権を強化し、開かれた社会を守り、中国に対する利益を実現するための新たな取り組みを必要としている。中国はドイツやヨーロッパ経済にとって深刻な競争相手である。
幾つかの分野では、中国はすでに市場をリードする地位を獲得している。
これには、中国政府のさまざまな措置と強力に保護された市場が重要な役割を果たしている。
中国の行動は、ビジネス、科学、政治と密接に結び付いている。
戦略(「メイド・イン・チャイナ2025」、「双循環」)や中国指導部の発言(党委員会での習主席の2020年など)は、中国が政治的目標や利益を実現するために経済的・技術的依存関係を作り出そうとしていることを示している。
同時に中国は、安全保障上の利益を理由に、外国からの拠出金や供給への依存度を下げようとしている。
こうした観点から、中国による不公正な慣行は、われわれの安全保障、主権、幸福に悪影響を及ぼしかねない。
私たちは ドイツおよび欧州レベルで、適切な手段を用いてこの危険に対抗しなければならない。
ドイツと欧州の経済的枠組み条件の改善に加え、リスクの軽減が必要である。
つまり、重要な分野での依存度を下げ、地政学的な側面も考慮した上で経済的な決断を下し、レジリエンスを高めることである。
そのためには脱リスクは、以下に説明するさまざまな手段によって支えられている。私たちは、脱リスクは、政治、経済、社会システムの開放性という私たちの本質的な強みを賢く補完するものだと考えている。(後略)
はっきりと「中国の不公正な慣行」はドイツ、EUの危機であり、ドイツおよび欧州レベルで対応する――と書いています。そのために「脱リスクを行う」とも。
この脱リスクはもちろん「脱中国」です。
中国は現在、経済的に危なくなってきたので、「EUは中国に投資するチャンスだ」などという噴飯物の主張を行っているのですが、これに真っ向からNOを突きつけています。
また、中国が求めている「金と先端技術」については、「技術主権」という章に以下のような文書があります。
(前略)
EUは、重要な分野において、基本的価値観を共有しない第三国の技術に依存するようになってはならない。一方では、技術的能力と能力を確保し、拡大することを意味し、他方では、 サプライチェーンと供給源を多様化することを意味する。
さらに、情報技術の重要な分野での依存を避け、デジタル主権を強化することも重要である。
連邦政府は、技術的・デジタル的エコシステム全体の革新力と回復力に注目している。
欧州の技術およびデジタル主権を長期的に確保するため、欧州は研究、開発、イノベーションへの投資を拡大し、戦略的先見性の手法を用いて、新たな主要技術を早期に特定する。
中国もこの分野に力を入れている。
連邦政府は、研究・技術革新への資金提供において、中国とのプロジェクトが、以下のような形で実施されるよう、ガイドラインを設定する。
ドイツとEUの先端知識の流出が予想される場合は、資金提供を行わないか、適切な条件下でのみ資金提供を行う。
プロジェクト終了後の知識や特許の取り扱いについて、既存の資金提供規定をさらに改定する。
(後略)
欧州およびドイツの技術的な優位性を確保するために、中国との資金協力などを見直し、規定を強化し、サプライチェーンの再編(もちろん「脱中国」の意味です)を行うという宣言です。
中国との協力を否定する文書にはなっていませんが、しかし、それは「公正な競争があってのこと」という内容になっています。これは、先にアメリカ合衆国・イエレン長官が述べたことと軌を一にしています。
中国は、自由主義陣営国のルール、約束を守れませんから、ドイツ・欧州から蹴り出されることになると見えます。
中国はアメリカ合衆国との対立が激化する中、「欧州なら」と融和的な顔をして懐柔してきました。さあ、この先もそれでいけるでしょうか。
日本もこれぐらい毅然とした文書を出すべきでしょう。
(吉田ハンチング@dcp)