2023年11月16日、韓国では時に死神と呼ばれる『IMF』(International Monetary Fundの略:国際通貨基金)は、韓国当局との年次協議の結果について評価を公表しました。
一応以下に和訳全文を掲載しますが、面倒くさい人は飛ばしていただいても大丈夫です。
IMF理事会、韓国に対する2023年第4次協議を終了
2023年11月16日他の多くの先進国と同様、韓国はインフレと成長鈍化という課題に直面してきた。
世界的な電子機器需要の減退と内需の弱体化により、成長率は2022年半ばから低下したが、最近の四半期では回復し始めている。
インフレ率は2022年半ばにピークに達した後、大幅に低下したが、コアインフレ率はより高い水準で推移している。
金利上昇と住宅価格下落の中で、金融セクターの脆弱性が顕在化した。迅速な政策措置が金融・住宅市場の安定化に役立っており、金融リスクは増加したものの、管理可能な水準にとどまっているようである。
韓国経済は、世界的な半導体需要の緩やかな回復、堅調な国内労働市場、住宅市場の継続的な安定化を背景に、強化されると予想される。
成長率は2023年に1.4%、2024年に2.2%に達すると予測される。
主要貿易相手国の成長鈍化と長期化する世界的な金利上昇が目先の成長の足かせとなる一方、中国経済の成長見通しが従来予想されていたよりも強まることで、韓国の輸出への影響が緩和されると予想される。
ここ数カ月は一時的に回復しているものの、インフレ率は引き続き緩やかになり、2024年末までに当局の目標である2%に近づくと予想される。
経済見通しは不確実性が高く、リスクは下方に傾いている。
目先の成長見通しは、半導体サイクルの回復の強さと、韓国の輸出財・サービスに対する中国の需要に決定的に左右される。
主なリスクには、主要国の成長鈍化と金融引き締め、商品価格変動の高まり、世界的な銀行混乱の再燃、国内ノンバンク金融機関に対する信頼の低下、国内不動産セクターの再下落なども含まれる。
さらに、韓国は地理的経済的分断の激化に対して脆弱である。
成長に対する上方リスクとしては、世界的な半導体需要の回復が強まること、および世界的なインフレ率の低下が加速することが挙げられる。
<<執行委員会の評価>>
理事らは、当局の効果的な政策対応に支えられた韓国経済の回復力を歓迎した。
理事らは、主要貿易相手国の経済見通しの改善に支えられ、成長は徐々に強まると予想されること、インフレは引き続き緩やかであること、金融リスクは引き続き管理可能であることに留意した。
見通しの不確実性が高いことに留意し、理事らは、公的債務の増加を抑制し、ディスインフレを支援するため、当面の政策構成は制限的なままであるべきであることに合意した。
また、長期的な成長を再活性化するための構造改革を求めた。
理事達は、金融政策はかなりの期間制限的であり続けるべきであり、データ志向であり続け、注意深く伝えられるべきであることに合意した。理事らは、外貨準備高が引き続き十分であることに同意し、為替介入は無秩序な市場環境を防ぐために限定的であるべきであると強調した。
理事らは、財政政策の正常化の継続を求め、2024年予算で予定されている緩やかな財政再建と福祉支出への焦点を歓迎した。
2023年の歳入不足を考慮し、理事らは政府預金や資金を利用した予算執行の継続を歓迎した。価格シグナルを伝達し、公益事業の財務の健全性を守るため、国内のエネルギー価格を国際価格とより整合させることを提案した。
理事らは、住宅市場と金融市場の安定化に寄与した政策措置を歓迎した。金融市場の支援は一時的かつ的を絞ったものにとどめるべきであり、住宅関連の措置は、過度の価格下落を防止することと秩序ある調整を可能にすることとの間でバランスをとるべきであると強調した。
家計債務の高止まりと増加に留意し、住宅ローン支援プログラムの規制強化を歓迎した。
理事らは、より強固なバッファ、規制、監督を通じて金融の弾力性を強化することを推奨した。
理事らは、銀行の流動性と損失吸収能力を強化し、信用協同組合に対する規制・監督の枠組みを改善する計画を歓迎した。また、NBFIs(NBFIs)と銀行との間の規制上のギャップを縮小することを含め、ノンバンク金融機関の健全性を強化するイニシアティブを歓迎した。
理事らは、人口動態の逆風に直面する中、生産性成長を押し上げるための構造改革の重要性を強調した。
理事らは、イノベーションを促進し、労働市場の柔軟性を高め、ジェンダー格差を是正するための更なる努力を奨励した。
数名の理事は、潜在的な成長を後押しするために移民を増やすことを提案した。
理事らは、長期的な財政の持続可能性を確保するための年金改革を求め、財政を安定させるためのルールに基づく財政枠組みを支持した。
理事らは、カーボンニュートラルとグリーン成長のための第1次国家枠組み計画の発表を歓迎し、気候目標を達成するための政策強化を提案した。
理事らは、貿易・投資措置は、特定の目的に的を絞ったものであるべきであり、WTOの義務に合致したものであるべきであると強調した。また、開かれた貿易環境と多様化の努力に対する当局の継続的な支援を歓迎した。
⇒参照・引用元:『IMF』公式サイト「IMF Executive Board Concludes 2023 Article IV Consultation with Republic of Korea」
さすがに『IMF』で、韓国の急所を突いています。
最もご注目いただきたいのは――目先の成長見通しは、半導体サイクルの回復の強さと、韓国の輸出財・サービスに対する中国の需要に決定的に左右される。――の部分です。
Money1でもご紹介してきましたが、①半導体輸出の回復、②対中国輸出の回復こそが目先の急務なのです。
直近データによると、(基底効果もありますが)半導体はわずかながら回復を見えています。産業通商資源部が2023年11月14日に公表した「情報通信産業(ICT)10月の輸出状況」によれば、メモリー半導体に限っては以下のように「対前年同期比:+1.0%」。
⇒メモリー半導体:45.1億ドル(+1.0%)
⇒システム半導体:40.6億ドル(-7.4%)
16カ月ぶりにプラスに転換しています。小さな転換ですが、韓国にとっては希望の光です。
次に中国輸出ですが、こちらはいけません。
上掲のとおりずぶずぶと赤字沼に足を踏み入れています。2023年に入ってから対中国は1カ月たりとも黒字になったことがないのです。
というわけで、『IMF』が指摘する焦眉の急の2点について回復するのは困難な事態となっています。
ですから、韓国では「ラーメンと海苔とK-POP」「武器(防衛産業製品)」「原子力発電所」を輸出だ!と大声を出しているのです。何か韓国の輸出を支える輸出品目を見出さないとおしまいだからです。
中国に代わる輸出市場の開拓も急務です。最近、韓国で「中東の夢よもう一度」などと言っているのはこのような背景があるためなのです。
しかし、今回の『IMF』による「韓国は地理的経済的分断の激化に対して脆弱」という指摘にも留意すべきでしょう。米中の対立がさらに深化し、デカップリングが進むと韓国は危ないよ――といっているのです。
というわけで、『IMF』は韓国経済を決して楽観視していないことが分かります。
波は高く、外海は荒れていますが、それでも韓国は進まなければなりません。
(吉田ハンチング@dcp)