「お前がそう思うんならそうなんだろう お前ん中ではな」という話です。
韓国メディア『東亜日報』が、「世界が絶賛する韓国」に連なる記事を出しました。
韓国が独自開発と喧伝している次期主力戦闘機「KF-21」に、フィリピンがラブコールを送った――と書いているのですが――そんな大層な話ではありません。
結論からいえば「資料くれないか」と要請があっただけです。
2024年07月下旬、フィリピンは『韓国航空宇宙産業』(略称「KAI」)に情報提供要請書(RFI)を送りました。RFIというのは、入札前におおよその情報を送信するようにサプライヤーに依頼するための書類です。
実績がない試作機が6機あり、試験飛行を行っている最中※の韓国製戦闘機など、聞くだけ時間の無駄だと思われますが、フィリピンには事情があります。
※レーダーの試験結果もまだ不明、対地攻撃は(まだ)できないetc不安要素ばかりです。
対中国防空網を整備するのが焦眉の急!
フィリピンは南シナ海の一件で、中国から激しい圧力を掛けられており、戦力の拡充は焦眉の急です。空軍力のみならず軍備では、中国側が圧倒的に優勢で、まともに来られると対処は困難です。
そもそもフィリピンは合衆国の縄張りみたいなものですが、日本にとってもシーレーンの要衝でここを中国に押さえられるわけにはいきません。
そのため、日本もフィリピンを支援するべく、2024年07月08日には、日本・フィリピン両政府が、自衛隊とフィリピン軍の相互往来を容易にする「円滑化協定(RAA)」に署名しました。
※2023年10月に1基、2024年04月に1基、『三菱電機』が納品しました。
読者の皆さまもご存じのとおり、先には警戒管制レーダーをフィリピンに輸出しています(2014年に武器禁輸政策を転換して初の完成品の防衛装備移転となりました※)。
↑「Cope Thunder Philippines 24-1」の様子。一緒にJDAM「GBU-38」を整備するフィリピン空軍・米空軍の兵士。
フィリピンと合衆国は大規模な二国間航空訓練「CopeThunder(コープ・サンダー)」を復活させました。また、フィリピン空軍はオーストラリア主導の多国間演習「Pitch Black(ピッチ・ブラック)24」にオブザーバーを派遣しています。
フィリピン空軍は、2028年と2040年の戦略計画で「信頼性の高い防空態勢の建設」要件を定めています。そんな時間があるのかという話ですが、フィリピンの場合裕福な国ではないので、時間的な制約のみならず「資金不足」もポイントです。
合衆国の縄張りなので、兵器なら合衆国から購入するのがスジですが、ウクライナ戦争の余波で兵器の価格が値上がりしています。
『東亜日報』の書きようを引用すると以下のような具合です。
(前略)
戦闘機を購入しようとする国は多いものの、生産量が追いつかず、当然ながら価格は急騰している。韓国が20年余り前にKF-16C/Dブロック52戦闘機を購入したとき、1機当たり約440億ウォンだったF-16の価格は、現在では1機当たり8,000万ドル(約1,100億ウォン)に迫っている。
戦闘機を購入する際には、機体だけでなく、軍需支援や武装などもパッケージで一緒に購入する。
そのため、実際の戦闘機の購入価格は機体の価格の1.5~2倍の範囲で形成される。
例えば、最近スロバキアがF-16Vを14機購入した際に支払った価格は、1機当たり1億2,800万ドル(約1,760億ウォン)に達した。
韓国がF-16より性能がはるかに優れているF-35A戦闘機を2019年に1機当たり1,850億ウォンで購入したことを考えると、驚異的な価格上昇である。
このように高価にもかかわらず、F-16Vは人気が高く、在庫がなくて売れない状態が続いている。
国際情勢が悪化するにつれて、軍備増強に乗り出した発展途上国が購入できる戦闘機はごくわずかしかないからである。
特にF-35はアメリカ政府の輸出規制が厳しく、どの国でも購入できる機種ではない。
ヨーロッパのユーロファイタータイフーンやフランスのラファールはF-16Vよりもはるかに高価だ。
7月にトルコが提示されたユーロファイタータイフーンの価格見積もりは40機で100億ユーロ(約15兆ウォン)で、1機当たり約3,700億ウォンに達した。
2022年にインドネシアに売却されたラファールの価格は1機当たり約2,630億ウォンだった。
(後略)⇒参照・引用元:『東亜日報』「국산 KF-21에 ‘러브콜’ 보낸 필리핀」
読者の皆さまもお気付きのとおり、ここまでが前フリです。
「そこでKF-21ですよ!」と続くのです。
「安物買いの銭失い」になりませんかね
『東亜日報』は以下のように書いています。
(前略)
KF-21は、フィリピン空軍の悩みを一気に解消するカードになり得る。KF-21は、F-16VやグリペンNGとは異なり、初めから4.5世代の戦闘機として設計された。
さらに、設計の過程で5・6世代への段階的進化も考慮された機種である。このため、低視認性設計が積極的に取り入れられ、現存する4.5世代戦闘機に比べてレーダー反射面積(RCS)がはるかに小さいとされている。
KF-21の正確なRCSは秘密だが、F-16Cの5分の1程度とされるF/A-18Eよりもはるかに小さいと推定されている。F-22やF-35のような5世代のステルス機には及ばないが、非常に探知が難しい「セミステルス機」ということだ。
KF-21は、F-16やグリペンNGよりも一段階上の中型戦闘機である点も強みである。KF-21は、同じ系列のエンジンを使用するFA-18E/Fよりも多くの燃料を積むことができるが、重量は軽い。
これは、機動性に優れ、戦闘行動半径が広いことを意味する。
公表された数値はないが、F/A-18E/Fの戦闘行動半径である722kmよりもはるかに広いと一般的に評価されている。
ルソン島やパラワン島から離陸しても、南シナ海の紛争海域上空で無理なく任務を遂行できる能力を備えている。
さらに、KF-21の主力空対空武器である「ミーティア」ミサイルを使用すれば、紛争海域の上空まで行く必要もなく、遠距離から一方的にミサイルを発射して離脱する戦術も可能だ。
ミーティアは射程が300kmに達し、いわゆる「回避不可能区域(NEZ)」が既存の空対空ミサイルよりも2~3倍長く、中国の戦闘機にとって非常に脅威的な武器である。
(中略)
KF-21量産本格化で価格さえ安定化すれば、フィリピンの立場では他の候補機種よりも性能が圧倒的優位にあるKF-21を買わない理由がない。
このようにKF-21の商品性が十分な状況で、韓国が注力しなければならないのは「外交」だ。
(中略)
ぜひ関係当局とメーカーが一チームになってフィリピン空軍の戦闘機が「メイドインコリア」に統一されることに期待したい。
⇒参照・引用元:『東亜日報』「국산 KF-21에 ‘러브콜’ 보낸 필리핀」
「フィリピンがKF-21を買わない理由がない」そうです。「フィリピン空軍の戦闘機が「メイドインコリア」に統一される」のを目指して外交に注力しろ――なんて書いています。
政治的に合衆国が黙ってはいませんので、フォリピン空軍の戦闘機をメイドインコリアで統一するなどという、考えるだけで恐ろしい状況を作るのは不可能です。
↑KF-21に取り付けられた(独自開発と言い張る)AESAレーダー(赤い円盤が付いているもの)。
そもそも「空対空ミサイルとAESAレーダーとの連携検証試験などが完了していない」ということが2024年03月時点で判明しています。
韓国の防衛事業庁が2023年03月04日に出したプレスリリース(上掲)によると、
「23年03月から」26年02月までの90回の飛行を通じて、空対空モード最大検出、 追跡距離、追跡精度など34項目について開発および運用試験評価を行い、作戦運用性能の充足性、 軍運用適合性、電力化支援要素実用性などの充足を確認する計画だ。
となっています。まだテストが行われており、それは2026年02月まで続くのです。これを「フィリピンが買うぞ!」というのは、いくらなんでも気が早すぎないでしょうか。
フィリピンにしても「安物買いの銭失い」」は嫌でしょう。
(吉田ハンチング@dcp)