2024年12月02日、 『BIS』(アメリカ合衆国商務省産業安全保障局)が「Commerce Strengthens Export Controls to Restrict China’s Capability to Produce Advanced Semiconductors for Military Applications(商務省、中国の軍事用途向け先進半導体の生産能力を制限するため輸出規制を強化)」を公表。
これは、安全保障に関わる技術を中国に渡さないようにするための規制です。中国の半導体生産技術が自由主義陣営国に及ばないようにすることで合衆国の安全を高めることを企図しています。
この新規制を巡って、「合衆国に後頭部を殴られた」的は反応が出ています。傑作です。
2024年12月03日、韓国の産業通商資源部は急遽以下のようなプレスリリースを出しました。
ご注目いただきたいのは、赤いアンダーラインを引いた箇所です。
米国、高帯域幅メモリ(HBM)および半導体装置の輸出規制措置を発表
– 米国、外国直接製品規則(FDPR)の適用により、韓国を含む第3国で製造された製品も規制対象に米国商務省が発表した内容
米国商務省産業安全保障局(BIS)は、12月2日(月)午前8時45分(現地時間)、高帯域幅メモリ(High Bandwidth Memory, HBM)および先端半導体装置に対する輸出規制措置の改訂案を発表し、官報に掲載しました。【米国の輸出規制措置の主な内容】
1.HBM規制の導入(2025年01月01日施行)
-米国は、HBMを規制するため特定仕様のDRAM半導体を新たに規制対象品目に追加しました。-対象仕様:メモリ帯域幅密度が2GB/s/mm²を超えるもの。
-現在生産されているすべてのHBMが規制対象となり、これらを米国が指定する武器禁輸国(中国を含む24カ国)に輸出するには商務省の許可が必要です。
-ただし、ロジックチップなどとパッケージ化されたHBMは規制対象外であり、HBM2は一定条件を満たす場合に許可例外を申請可能です。
2.半導体装置規制の拡大(2025年01月01日施行)
-既存の先端半導体装置規制(29種類)に加え、熱処理・計測装置など新たに24種類の半導体装置と関連するソフトウェア3種類を規制対象に追加しました。
-例:リソグラフィー、エッチング、堆積、洗浄装置など先端ロジック・メモリー半導体製造に使用される装置。3.エンティティーリストの拡大(即日施行)
-国家安全保障上の理由から、中国に拠点を置く先端半導体製造施設や装置メーカーなど140の企業・機関をエンティティリストに追加しました。4.外国直接製品規則(FDPR)の免除国指定
-半導体装置に関するFDPRのみ適用。日本、オランダなど33カ国がFDPR免除国に指定されましたが、韓国は米国レベルの半導体装置輸出規制を実施していないため、免除国に含まれていません。
-除国でも規制効果はほぼ同等とされています。
【国内産業への影響】
1.HBMおよび半導体装置への影響
-今回の輸出規制措置にはFDPRが適用されます。このため、米国外で生産されたHBMおよび半導体装置でも特定条件を満たす場合は米国製品とみなされ、規制対象となります。-例:米国製技術やソフトウェアを使用して生産された製品、またはこれらを使用した工場で製造された製品。
-韓国のHBM製造企業への影響が懸念されますが、米国規定が許可する輸出方式に切り替えることで、影響は最小化できる見込みです。2.半導体装置に関する影響
-今回の規制対象は国家安全保障上重要な先端装置に限定されており、関連する国内企業は少数と推定されるため、影響は大きくないと予想されます。3.輸出許可の原則
-基本的に「許可拒否の推定(presumption of denial)」が適用されますが、すでにVEU(Validated End-User)承認を受けている中国内の韓国企業には、今回の措置の影響はありません。【今後の対応方針】
1.業界支援の強化
-12月04日に半導体装置業界との会議を開催し、規制内容を共有。
-韓国半導体産業協会(KSIA)および貿易安全保障管理院(KOSTI)に「輸出規制相談窓口」を設置し、支援を進めます。2.中国向け輸出企業への支援
-輸出規制に関する説明会やガイドライン配布を通じて業界を支援。3.米国との協議
-韓国政府は米国と緊密に協議を行い、韓国企業が予期せぬ影響を受けないよう対応します。問い合わせ先:(後略)
⇒参照・引用元:『韓国 産業通商資源部』公式サイト「(참고자료)미(美), 고대역폭메모리(HBM)·반도체장비 수출통제 조치 발표」
韓国で騒動になっているのは、「4.外国直接製品規則(FDPR)の免除国指定」です。
外国直接製品規則(Foreign Direct Product Rule, FDPR)の免除国指定というのは、
合衆国製技術やソフトウエアを使用して製造された製品に適用される輸出規制の特例措置を指します。
特定の条件を満たす国に対しては、FDPRの規制を緩和または適用免除とする制度です。
「FDPRの免除国指定」って何?
そもそもFDPRとは、合衆国外で製造された製品であっても、合衆国製の技術やソフトウェアを一定割合使用している場合に、その製品を「合衆国製品」とみなして合衆国の輸出規制を適用するルールです。
この規則により、合衆国は間接的に外国製品の流通や輸出先をコントロールできるのです。
アメリカはFDPRを適用する際、特定の国々に対しては、同等または類似の輸出規制を自主的に実施している場合に「免除国」として指定します。
免除国に指定されると、FDPRの対象から外れる場合が多くなり、製品の輸出や取引がより自由(マシ)になります。
韓国は免除国になれなかった!
今回の免除指定では、日本やオランダなど、合衆国と同等レベルの輸出規制を実施している33か国が免除国として指定されました。
これらの国では既に半導体製造装置や関連製品に対する厳格な輸出管理が行われているため、合衆国側の追加規制が不要と判断されたと考えられます。
ところが! 上掲の産業通商資源部のリリースにあるとおり、韓国は免除国になれませんでした。
これは身から出た錆です。
韓国が合衆国が求めるほど厳格な半導体装置輸出規制を実施していないため、免除国リストに含まれなかったのです。
――結果、韓国製の半導体装置や製品であっても、合衆国製の技術やソフトウェアを使用している場合、FDPRが適用され、アメリカの輸出規制の対象となります。
つまり、これらの装置・製品は合衆国の許可を得なければ輸出でできません。
中国・無錫に最新のファウンドリーを建設するなどして米中の対立を甘く見ていたせいなじゃないのか、ばかなの?などと思われるわけですが、合衆国の新規制に泡食った産業通商資源部が慌てて上掲のような文書を出す羽目に陥ったわけです。
ただ、対策といっても……上掲のとおり、
12月04日に半導体装置業界との会議を開催、業界を支援し、合衆国政府と協議する――ですから、これはアテにはなりません。政府協議も、現在のバイデン政権はもうおしまいです。次のトランプ政権が相手なので、これは無理筋なものとなるでしょう。
(吉田ハンチング@dcp)