対米関税交渉がいまだに決着せず、韓国にとって最大の市場のひとつであるアメリカ合衆国で、韓国からの輸入品に対して「25%」が科せられています。
中国市場では貿易赤字に転落していますので、韓国は「儲けが出る」よその市場を探さなければなりません。韓国のターゲットのひとつは「EU」です。
しかし、EUでも市場をブロックする動きが強まっています。Money1でもご紹介してきたとおり、EUが標的にしているのは「中国」です。
自国の過剰生産性を他国にぶつけるのですから、他国から見れば中国はまさにイナゴです(なにせ赤字でも輸出するのです)。
放置すると自国の地場企業が「安値の叩き合い」に負けて滅んでしまいます。EUも領域内の国家・企業を中国イナゴから守らねばなりません。
しかし、中国締め出しに韓国も巻き込まれるとしたらどうでしょうか?
韓国メディア『中央日報』に面白い記事がでていますので、一部を以下に引きます。
韓国の鉄鋼企業はEUからもぶん殴られる
(前略)
07日(現地時間)、EUの行政執行機関にあたる欧州委員会は、既存の鉄鋼セーフガード(緊急輸入制限)を代替する低率関税割当制度(TRQ:Tariff Rate Quota)の草案を正式に発表した。今回の案の核心は、
無関税輸入枠を年間3,053万トンから1,830万トンへと47%削減し、これを超過する物量に対しては関税率を25%から50%に引き上げる
――というものだ。
EUのこの決定は表向きには「域内産業保護」とされているが、実際には合衆国の50%鉄鋼・アルミ関税引き上げにより生じうる輸出迂回を防ぐための対応策だという分析が優勢だ。
トランプ大統領が06月に鉄鋼・アルミ関税を50%に引き上げたことで、アジアや中東産の鉄鋼がアメリカの代わりにヨーロッパへ流入する可能性が高まり、EUは域内の供給過剰と価格下落を防ぐため、先手を打って障壁を高くした格好である。
現在、EUの鉄鋼産業稼働率は67%水準にとどまっている。
EUは新たな関税システムを導入しようとしているのです。
韓国は当然この影響をモロに喰らいます。韓国の鉄鋼企業の業績が傾いているのはMoney1でもご紹介してきたとおりですが、さらにEUからの措置でもダメージを受けるでしょう。
毎度おなじみ『KITA』(韓国貿易協会)のデータによると、韓国は2024年EUに44億8,000万ドル相当の鉄鋼製品を輸出しています。
合衆国は43億5,000万ドルで韓国にとって第2位の鉄鋼市場でした。
ドルではなく「量」で見ると、韓国は2024年07月~2025年06月の期間に、EUに380万トンの鉄鋼を販売しています。このうち「263万トン」が韓国の「無税割当枠」で輸出され、残りは世界割当枠(こちらも無税)で出荷されました。
ところが、新しい低率関税割当制度「TRQ」が発動されるとこううまくはいきません。
この草案には「溶解・鋳造原産地要件」が盛り込まれています。
輸入業者は製鋼所証明書など、鋼材が最初に溶解・鋳造された場所を示す証拠を提出する義務を負うことになります。
「溶解・鋳造国」というのは、製鋼炉内で原料鋼が初めて液体状態で生産され、ビレット・スラブ・インゴットなどの初期固体形状に鋳造された場所を指します。
溶解・鋳造国の証明を義務付けることで、過剰生産国で製造された鋼材が他国で再加工された後、EU市場に流入するのを防止する――という狙いがあります。
最重要ターゲットはもちろん「中国」です。
ただし韓国も無事ではすみません。
合衆国はすでに「無税割当枠を廃止し、鉄鋼製品への関税を25%から50%に引き上げ」ています。
ぶっちゃけていえば、無税割当枠を制限して(割り当て超過分の)税率を50%に上げるわけですから、EUも合衆国に続く措置をとるわけです。
韓国にとっては、合衆国に続き、EUからもぶん殴られることになります。
さて韓国の鉄鋼企業は生き残れるでしょうか。生き残るためには、合衆国に製鉄所を造るなどしないとならないでしょう。ということは、韓国製鉄業の空洞化が進むことになって、当然ながら雇用も減るでしょう。
※今回のEUの新制度は、現行のセーフガード措置が失効する2026年06月末に、EU加盟国による投票を経て発効する見込みです。
(吉田ハンチング@dcp)






