先に、韓国の「イランの原油代金70億ドル未払い問題」については、すでに決着しています――と書いたところ、「決着していないぞ」と投稿がありましたので、本件を整理しておきます。
結論からいえば、決着しています。
ただし「韓国の立場からすれば」――です。
まず事実関係を整理します。
詳細なまとめは以下ですが、簡単にいえば、韓国が未払だった70億ドルは、合衆国による「拘束されたアメリカ人を解放するため」のいわば「対価」として韓国からカタールに送金され、イランが利用できるようになった――のです。
ですから、韓国のイラン原油未払い70億ドルはもう決着しています。
いまだに「韓国が70億ドル支払っていない」と考えるならそれは間違いです。
ただし……なのです。これまで本件についてMoney1でもしつこくご紹介してきたので、ご愛顧いただいている皆さまはご存じのことですが、以下のまとめの後ろに何が「ただし……」なのかを述べます。
時系列の詳細なまとめが面倒くさい方は、次の小見出しまで飛んでください。
ドナルド・トランプ政権が、合衆国のJCPOA(イラン核合意)参加終了を正式発表
その後、2018年08月・11月に対イラン制裁を段階的に再発動
これにより、韓国の銀行にあったイラン原油代金が動かせなくなりました。例えば外信『Reuters(ロイター)』は2021年時点で「合衆国による制裁のため韓国銀行に凍結された70億ドル」と報じました。
2019年05月
韓国は合衆国の制裁例外終了後、イラン産原油・コンデンセート輸入を停止。CRS(Common Reporting Standardの略:共通報告基準)は、韓国が合衆国の同意を得ようとしたが認められず、2019年05月以降にイラン産購入を終えたと整理しています。
2021年01月04日
イラン革命防衛隊が韓国船「韓国ケミ」号を拿捕。表向きは海洋汚染理由でしたが、同時期にイランは韓国に対し、凍結資金70億ドルの解放を要求していました。
2023年08月
合衆国・イラン間で囚人交換と資金移転の枠組みが固まり、韓国にあるイラン資金をウォンからユーロに換え、カタールへ移すことになりました。
『AP』は、金額は為替レートによって60億〜70億ドル、資金は2019年の制裁前に韓国が購入した原油代金だと説明しています。
2023年09月08日〜11日
合衆国の国務省が制裁免除を出し、議会に通知。合衆国議会報告書は、この免除により「韓国からカタールへ60億ドルのイラン資金を移すことが認められた」と明記しています。
以下が議会報告書の該当箇所
“Waivers issued by the State Department on September 11, 2023, authorized the transfer of $6 billion in Iranian funds from South Korea to Qatar.”
60億ドル($6 billion)のイラン資金を韓国からカタールへ移転することを認めた
2023年09月18日
合衆国の財務省OFACがカタールの人道チャンネルを公表。
用途は食料、農産品、医薬品、医療機器に限定され、マネロンや制裁回避を防ぐデューデリジェンス付きと説明されました。
2023年09月18〜19日
囚人交換が実行され、合衆国人5人が解放。『AP』は、合衆国が韓国からカタールへの60億ドル移転を認め、同時に米国側もイラン人5人を釈放する枠組みだったと報じています。
2023年09月19日
韓国外交部は、韓国で凍結されていたイラン資金が「関係国の緊密な協力により第三国へ成功裏に移転された」と公式発表しました。
2023年09月22日
韓国・イラン外相会談で、双方は「韓国内のイラン凍結資金の第三国への移転成功」を確認し、凍結資金問題の解決を前向きな契機と位置づけました。
2023年10月12日
ハマスの対イスラエル攻撃後、合衆国とカタールは、当面イランがこの60億ドルへアクセスできないようにすることで合意。
ブリンケン国務長官は、資金はまだ使われておらず、合衆国の財務省監督下で人道物資にしか使えず、イランの手には渡らないと述べました。
イランに都合の悪い解決なので怒っている!
イランが「この解決」に怒っている理由は以下の3つです。
❶支払いが10億ドルも減った!
❷利息分も支払え!
❸代金すべてが自由に使えない!❶です。上掲のまとめを読み進めて皆さま気付かれたでしょうが、未払いの原油代金は70億ドルのはずだったのが、合衆国の許可を得て韓国が振り込んだのは「60億ドル」です。
10億ドルも減少しました。
なぜ減ったかというと、韓国が原油未払い代金をウォンで保管していたからです。保管している間にウォン安が進行して、ドルに換算してみるとウォンが安くなった分が減少してしまいました。
イランからすれば「ドル建ての支払いが当然なんだから、きちんとドルの額面払えや!」なのですが、韓国にも言い分があります。
「ドルは大事な外貨資産だから、70億ドルもの大金をそのまま保全しておくことなんかできねーよ。そもそそもお宅に送金できなくなったのもアメ公がやったことであって、オレが悪いわけじゃねーよ」
――です。国の外貨準備高はそもそも現金たるDeposits(預金)があっても200億ドルくらいですから、イランへの未払70億ドルを、いつ解除されるかも分からないのに「とっておく」なんてことはできません。
ですからまあ韓国の言い分も分かります。
次に❷です。
70億ドルもの資金が凍結されていましたので、その分を投資に使っていたら利息がついたはずだから、その分を補填して支払え――というイランの主張です。
これには十分な「理」があります。「本来得られるはずだった運用利益」「時間価値」「インフレ・為替による価値減少」をどう扱うか、という問題で、金融・商取引の世界ではごくごく普通に存在する論点です。
しかし、韓国側にも当然「理」があります。「そもそも原油代金であって投資の話ではないだろ。それに凍結は合衆国の制裁によるもので、韓国単独では送金不能だったんだから」です。
もっともです。
❸については、もっと韓国にはどうしようもありません。
韓国が振り込んだ60億ドルはカタールの金融機関に送られましたが、合衆国とカタールの合意によって「自由には使えない」ことになりました。人道的な使い道なら許可する――としたのです。
ですから、韓国は何も悪くありません。合衆国の言いつけを守って、原油代金をカタールに送金した時点でミッション完了です。
❶❷を別にすれば、韓国は「イラン原油未払いの代金」を精算しました。❸は韓国にはどうしようもできません。
――ですから、「イランの原油代金未払い問題」については、すでに決着しています。
(吉田ハンチング@dcp)







