日本の高市早苗首相が2026年9月22日(現地時間)の第81回国連総会一般討論演説で「旧敵国条項」について言及しました。

この「旧敵国条項」というのは、具体的には、国連憲章第53条、第77条、第107条のことで、(現在も削除されず残っている)第二次世界大戦の旧枢軸国を念頭に置いた規定です。現在も条文そのものは削除されていません。
「旧敵国条項」は何を定めた条項なのか
国連憲章は1945年06月に採択されました。つまり、第二次世界大戦の連合国が中心となって国連をつくった時点の国際情勢が、そのまま反映されています。
そのため憲章には「enemy state(敵国)」という概念が残っています。
特に重要なのが「第53条2項」です。
ここでは「敵国」を、第二次世界大戦中に、この憲章の署名国のいずれかの敵国であった国と定義しています。
したがって、特定の国名が列挙されているわけではありませんが、日本、ドイツ、イタリアなど、第二次世界大戦で連合国と戦った旧枢軸国が念頭に置かれています。
そして問題になるのが第53条1項です。
通常、地域的機構などが軍事的な「強制行動」を行うには国連安全保障理事会の許可が必要です。
ところが第53条は、旧敵国について、第二次大戦後の再侵略を防止するための措置について例外規定を置いています。
さらに強烈なのが「第107条」です。主旨を日本語にすると、
第二次世界大戦中に国連憲章署名国の敵であった国について、その戦争の結果として責任ある政府が取った、または承認した行動について、国連憲章はこれを無効にしたり妨げたりするものではない。
――という規定です。
つまり、これはもともと第二次大戦の戦後処理を、新しくできた国連憲章によって妨げないための経過措置だったわけです。
もう一つが「第77条」です。こちらは信託統治制度について、敵国から第二次大戦の結果として分離された地域を対象に含めています。
したがって「旧敵国条項」とは一つの条文ではなく、
国連憲章第53条・第77条・第107条に残っている「enemy state」「enemy」という文言・規定の総称である
と理解するのが正確でしょう。日本国の外務省もこの3条を「旧敵国条項」と定義しています。
旧敵国条項は今でも日本に対して使えるのか
ここが今回の高市発言を理解する上で一番重要です。
前記のとおり、これら条文は現在も国連憲章に残っています。しかし国連自身が、すでに旧敵国条項は「obsolete(時代遅れ・実質的に意味を失ったもの)」だと認めています。
1995年12月11日、国連総会は決議50/52※を155カ国賛成、反対0、棄権3で採択しました。
※「50/52」は、国連総会決議の番号。正確には United Nations General Assembly Resolution 50/52(国連総会決議50/52) です。
その決議は明確に、
国連憲章第53条、第77条、第107条の「敵国」条項は、世界情勢の大幅な変化を考慮すれば、obsoleteとなった
――と認定しています。
しかも、対象とされた旧敵国がすでに国連加盟国となり、国連活動に重要な貢献をしていることも理由として挙げています。
さらに2005年の国連首脳会合でも、各国首脳は国連憲章から「敵国」への言及を削除する決意を表明しました。
日本外務省もこれを「首脳レベルの文書として初めて、旧敵国条項の削除が明確に盛り込まれた」と説明しています。
――にもかかわらず、2026年現在も削除されていません。
理由は単純な書き換えでは済まないからです。国連憲章を改正するには、憲章第108条に基づく正式な憲章改正手続きが必要になります。
つまり「死文化したから文章を消しておこう」という編集作業ではありません。
したがって現状は、かなり奇妙ですが、
法文上:残っている
国連総会:時代遅れになったと認定済み
加盟国首脳:削除するとの意思を確認済み
実際の憲章改正:まだ行われていない
という状態です。
高市首相は具体的に何と言ったのか
今回の高市首相の演説は、この点をかなり明確に突いています。
首相官邸が公表した演説原文では、
「旧敵国条項」について、2005年には、全加盟国首脳の決意として、国連憲章から「敵国」への言及を削除するとの国連総会決議が採択されています。この決議に従い、同条項は早急に削除されるべきです。
――と述べ、その直後に、
「70年間に渡り国連の取組に大きく貢献してきた日本の誇りと名誉にかけて、強く申し上げておきます」
――と発言しています。
⇒参照・引用元:『日本国首相官邸』「『第81回国連総会における高市内閣総理大臣一般討論演説』全文」
ですから今回の高市発言は、単に「戦後80年以上経ったから古い規定を整理しましょう」というだけの話ではありません。
日本は1956年に国連加盟を認められ、その後70年間国連加盟国として活動している。それなのに1945年に日本を「敵国」として想定して設けられた規定が、国連憲章の本文に2026年になっても残っている――これはおかしいではないか、しかも国連自身が削除すると決めているではないか、という主張です。
なお、最近この問題が再び政治的に注目されている背景には、もちろん中国です。
中国が日本との対立の中で旧敵国条項に言及している事情が反映されています。
高市首相の演説は中国を名指ししてこの点を論じてはいませんが、タイミングとしては非常に重要です。
中国外交部が日本に「説教」
高市首相の演説を受けて、さっそく中国外交部が「説教」を始めました。
以下に、2026年09月23日に行われた中国外交部の定例記者ブリーフィングから引用します。
『中央広播電視総台・華語環球番組センター』記者:
現地時間09月22日、日本の高市早苗首相は国連総会で演説し、日本は平和国家として専守防衛政策を堅持し、国際社会の平和と繁栄のために力を尽くし、「核兵器のない世界」を推進するとともに、『国連憲章』の「敵国条項」を削除するよう呼びかけました。これについて中国側はどのようにコメントしますか。
郭嘉昆報道官:
日本側が何を言うかに比べ、国際社会は日本側が何をするかをより注視しています。戦後日本の「平和国家」という理念は、歴史を深く反省し、軍国主義と完全に決別することを基礎として成り立っています。しかし実際には、日本の現政権は侵略の歴史を否定し、戦争犯罪を美化しているだけでなく、軍備の強化・拡大を続け、「再軍事化」を加速させ、「非核三原則」を放棄し、「平和憲法」を改正しようと企て、公然と戦後の国際秩序に挑戦しており、すでに地域の平和と安定を脅かす際立った要因となっています。
今年は国連創設81周年であり、東京裁判の開廷80周年でもあります。
当時、日本は軍国主義の罪を認め、『国連憲章』のすべての内容を受け入れることを前提として国連に加盟しました。
『国連憲章』の「敵国条項」は重要な制度上の取り決めであり、ファシズム、軍国主義が再び国際の平和と安全に脅威を及ぼすことを防止することを目的とし、戦後の国際秩序を守るために重要な制度的保障を提供するものであり、今日に至ってもなお重要な現実的意義を有しています。
現在の世界で「ファシズム、軍国主義が国際の平和と安全に脅威を及ぼすこと」を進めているのは、まさに「中国」でしょう。
(吉田ハンチング@dcp)






