お笑いを一席申し上げます。
韓国造船業界に朗報です。受注ラッシュなどよりもこちらの方が会社はうれしいかもしれません。
韓国造船業界の最大手企業の一つ『大宇造船海洋』が保有していたドリルシップ(掘削船)の在庫1隻がようやく売却の運びとなったのです。
なぜかドリルシップの在庫がある(笑)!
ドリルシップ(下掲写真)というのは、海底掘削用のドリルを装備した特殊な船舶で、海底油田・ガス田採掘などの用途に使われます。
発注を受けて完成するまで3年はかかるという特殊用途船で、普通は発注されてから建造にかかり、納品したらそれでおしまい。
いわばワンオフの製品で、そもそも在庫があるのがおかしいのですが、先にご紹介したとおり『サムスン重工業』、また『大宇造船海洋』にはドリルシップの在庫があるのです。
しかも両社に4隻ずつ(今回の売却で4隻ずつになった)。
店主「ああ、ありますよ。4隻ございます」
そんな会話はおかしいです。店主は「分かりました。見積もりを出しましょう」と答えないといけません。現物がすぐあってどうするんだ、という話です。
それはともかく、なぜこんなことになったのかというと、以前の石油価格が高騰した時代に、一種の資源探索ブームがきて、受注したもののの契約破棄などで納品できなかったのです。それが1隻で済まなかったのが悲喜劇でした。
ちょうど「海外で資源確保だー!」と号令をかけた李明博(イ・ミョンバク)大統領の時代だったのもよくありませんでした。韓国造船企業もノリノリだったのです。
その後、読者の皆さんもご存じのとおり造船企業大不況時代となり、韓国の造船業は一気に傾きました。特に2015年には『大宇造船海洋』による巨額赤字隠しが発覚し、公的資金が注入されるなどてんやわんやの大騒ぎでした。
今が千載一遇の「在庫一掃」チャンス!
問題なのは、このドリルシップの不良在庫が、ただでさえ赤字続きの造船会社の業績をさらに傾けることです。
以前にご紹介したことがありますが、『サムスン重工業』はこのドリルシップの不良在庫のせいで決算時の赤字が拡大しました。2020年の決算の営業利益は「-7,664億ウォン」でしたが、このうち約60%がドリルシップ関連だったのです(帳簿上は資産価値が落ちると損失に計上しなければならない)。
で、やっと『大宇造船海洋』も1隻をトルコの試掘会社に売却できたとのこと。2021年06月29日、『サムスン重工業』はイタリアの専門掘削船会社『Saipem』に在庫のドリルシップをレンタルしてもらうことに成功しています。
この『サムスン重工業』の契約では「売却」についても条項に入っているため、うまくいけば買ってくれるかもしれません(『サムスン重工業』の件については以下の記事を参照してください)。
なぜここにきて、ドリルシップの在庫がはけたかというと、世界的な資源価格の高騰で、また資源探索ブームがきているからです。原油価格が下がってブームが終了する前になんとかドリルシップの在庫を全て売却したいところでしょう。
うまくいけば『大宇造船海洋』『サムスン重工業』のキャッシュフローと業績が良くなることが期待できます。ぜひ頑張っていただきたいものです。
上記のとおり、まだ4隻ずつ在庫がございますよ!
(吉田ハンチング@dcp)