韓国企業の2020年第2四半期の決算が次々公表、韓国メディアでも報道されています。新型コロナウイルス騒動で決算がいいわけないので、多くの場合、報道では「善戦した」となっております。
そんな中、造船会社である『サムスン重工業』の決算が大変に面白い興味深いことになっていますのでご紹介します。
『サムスン重工業』の2020年第2四半期決算
売上高:1兆6,915億ウォン(約1,505億円)
営業利益:▲7,077億ウォン(▲約630億円)
▲はマイナスの意味です
利益率「マイナス41%」という非常によろしくない結果ですが、巨額赤字の理由が「ドリルシップ」(drillship)のせいだというのです。
※ウォン円換算は2020年08月02日の「1ウォン=0.089円」を用いました
問題は棚に積んである「ドリルシップ5隻」だ!
「ドリルシップ」(掘削船)というのは、上掲の写真(『サムスン重工業』のHPより)のような船で、海底を掘削することができます。油井調査、科学調査などで海底の掘削を行うために使用されます。
このドリルシップがなんと「5隻」も棚卸資産となっており、その評価損が「4,540億ウォン」もあって、これが業績の足を引っ張っているのです。
ざっくりの説明をいたしますと、会社の資産にもいろいろありますが、「発注先に納品しないである製品」というのは、帳簿上「棚卸資産」というものになります。
一般には「在庫」と呼びますね。
この「棚卸資産」は、帳簿上「ナンボなのか」を評価しなければなりません。評価額が資産として帳簿に記録されます。
で、時期が来たら(次の決算期)、再び棚卸資産の評価を行います。同じ商品が売れずに残っていたら、評価は下げて(例えば「100円」だったものを「80円」にするなど)計上しないといけません。時間がたって価値が上がることは普通ないので(例外あり)。
『サムスン重工業』は、ドリルシップ5隻分が棚に積まれ(棚卸資産に計上され)、「ママ」でここまできたため、今度はこのドリルシップ5隻の「評価額の低下分」を計上しないといけないのです。
それが「4,540億ウォン」というわけです。この評価損4,540億ウォン分の「資産が減った」 ⇒ 赤字の計上 で、その分決算が悪くなった、と。
経営者の皆さんが「在庫処分はもうかっているときにドンとやらにゃあイカン」なんておっしゃるのは、決算に与える影響が大きいからです。
それはともかく、『サムスン重工業』の問題は「なぜドリルシップが5隻も在庫になってるのか」です。
客「すみません。ドリルシップが欲しいんですが……」
店員「大丈夫ですよ! 在庫は5隻ございます」
そんな会話はおかしいでしょう。
納品できずに訴訟になったり……
ドリルシップが5隻も在庫になっているのは、発注元の会社が「発注をキャンセル」「受け取りを拒否」しているからです。これはこれで大変に面白い経緯があるのですが、とても長くなりますので、ステータスだけ以下にまとめます。
『シードリル』(ノルウェー)3隻発注 ⇒ 2隻の契約解除を通告
『パシフィック・ドリリング』(アメリカ合衆国)1隻発注 ⇒ 契約解除を通告 ⇒ 訴訟に発展 ⇒ 『サムスン重工業』が勝訴(2020年01月報道あり)
『トランスオーシャン』(スイス)※:2隻発注 ⇒ 契約破棄を通告小計:5隻
ドリルシップが5隻も納品できずに宙に浮いているという異常事態ですが、この新型コロナウイルス騒動で不況になっていますので、新しい納品先を探して販売するというのは相当難しいでしょう。
『サムスン重工業』は次の決算でまた評価損を計上することになりそうです。
※『トランスオーシャン』は買収した『オーシャンリグ』(ギリシア)の契約を引き継ぎました
(吉田ハンチング@dcp)