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中国の「米国をWTOに提訴」は全くの無駄!なぜなら……

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2022年12月12日、中国の商務部はアメリカ合衆国を『WTO』(World Trade Organizationの略:世界貿易機関)に提訴したことを明らかにしました。

以下は「商務部が記者からの質問に答えました」というプレスリリースです。

商務省の条約法局長は、半導体やその他の製品の貿易を制限するための輸出管理措置を乱用したとして、合衆国に対する中国の『WTO』訴訟について記者からの質問に答えた

記者からの質問:
中国が12月12日、合衆国が半導体を含む対中輸出規制を行ったとして、『WTO』に提訴したと報道されていますが。 商務部のコメントは?

A:
2022年12月12日、中国は合衆国の半導体およびその他の製品に対する輸出規制措置を『WTO』の紛争解決メカニズムに付託した。

合衆国側は近年、国家安全保障の概念を一般化し、輸出管理措置を乱用し、半導体などの製品の正常な国際貿易を妨害し、世界の産業チェーンのサプライチェーンの安定を脅かし、国際経済貿易秩序を損ない、国際経済貿易規則に違反し、経済基本法に違反し、世界の平和発展の利益を損なっており、これは典型的な貿易保護主義行為である。

中国が『WTO』に提訴したのは、中国の懸念を法的手段で解決するためであり、正当な権利と利益を守るために必要な手段だ。

我々は、合衆国がゼロサムゲーム思考を放棄し、適時に過ちを正し、半導体などのハイテク製品の貿易を妨害するのをやめ、中国と合衆国の間の通常の経済および貿易交流を維持することを望んでいる。

半導体などの重要な産業チェーンのグローバルサプライチェーンの安定性を維持しすることを期待する。

⇒参照・引用元:『中国 商務部』公式サイト「商务部条法司负责人就中国在世贸组织起诉美滥用出口管制措施限制芯片等产品贸易答记者问」

赤いアンダーラインを引いたところが圧巻で、中国語ではとにかく後ろに形容をどんどんつなげていくことが多く、合衆国がいかにひどいことをしているかが「これでもか」とばかりに列挙されています。

中国も分かっていて言っているのでしょうが、合衆国はもちろん「半導体などの重要な産業チェーンのグローバルサプライチェーンの安定性を維持」しようとしています。

ただし中国を除く」のですが。

中国は世界最大の半導体輸入国なので、半導体を止められると国が回らなくなるので必死なのです。中国ご自慢の兵器群も半導体なしで維持できるのか分かりません。

これ以上中国の勢力圏拡大を望まない日本と台湾はもちろん合衆国に追随します。

『WTO』に提訴しても無駄!上級委員会が開催できないから

これも中国自身が理解しているでしょうが、『WTO』への提訴はなんの効果も得られません。トランプ大統領の時代に合衆国が『WTO』を骨抜きにしたからです。

現在『WTO』には上級委員会を開催するための上級委員が1人もいません。つまり、小委員会(パネル)、上級委員会の二審制となっている『WTO』はその機能を果たせる状態ではないのです。

本件について、仮にパネルが設置され(どのくらい時間が掛かるか分かりませんが)合衆国に是正措置勧告が出たとしても、合衆国が上訴したらおしまいです。

なぜかといえば、上級委員会が開催できないので、上訴審がいつまでも進行せず、判断を採択・確定させることができないからです。2022年06月時点で、この空上訴によって12件の紛争案件が止まっています。

日本も他人事ではなく、

インドによる鉄鋼製品に係るセーフガード措置など(DS518)
韓国による日本製ステンレス棒鋼に対するアンチ・ダンピング措置(DS553)

は、被申し立て国、すなわちインドと韓国が空上訴を行っており、棚ざらし状態です。

さらには、小委員会で継続審議中の、

インドによる ICT 製品の関税引き上げ措置(DS584)
中国による日本製ステンレス製品に対するアンチ・ダンピング措置(DS601)

についても、結果によって空上訴が行われるかもしれません。

⇒参照・引用元:『経済産業省』「WTO上級委員会の機能停止下の政策対応研究会中間報告書」

というわけですので、中国の『WTO』提訴はなんの効果も期待できません。合衆国は放っておけばいいのです。もちろん、合衆国は『WTO』にパネルが設置されないよう圧力もかけるでしょう。

大笑いなのは、『WTO』に加盟するときの約束を全く守っていない中国が、他国を『WTO』に提訴するという行為に出たことです。こういうことは国際法を守ってから行うべきです。

この状態をなんとかしなければならないというので、「EUなどは、上級委員会の機能不全に対処するための対応策として、暫定的な上訴仲裁システムである多国間暫定上訴仲裁アレンジメント(MPIA: Multi-Party Interim Appeal Arbitration Arrangement)の組成・参加や、空上訴行為に対する独自の対抗措置の制定などの代替措置を講じてきている」のです(上掲URL経産省のリポートから引用)。

(柏ケミカル@dcp)

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