2025年12月06日、沖縄本島南東の公海上空で中国空母「遼寧」搭載のJ-15戦闘機が、対領空侵犯に対処するために上がった航空自衛隊のF-15にレーダーロックオンを行いました。しかも2回です。
❶16:32分~16:35頃
❷18:37~19:08頃
(❶とは別のF-15に照射)
火器管制レーダーのロックオンは「発砲」と同じです。幸いにして、ロックオンされて機体は無事に帰投し、パイロットも無事でしたが、F-15から撃ち返されても文句はいえないシチュエーションだったといえます。
理解しておかなければならないのは「中国は撃ち返されても仕方がない」状況に自らを置いた――という点です。「宣戦布告」と同義のことを行いました。
つまり日中戦争をしても構わない――と考えていることを意味します。
中国の台湾侵攻について「空想だ」などと考えるのは論外です。日本軍機にレーダーロックオンするような国が「侵攻作戦を行わない」と考える方が空想的です。
では中国が台湾に侵攻するとして、その目論見は成功するでしょうか。
2023年『CSIS』が公表したウォーゲームによるシミュレーション結果は、広く知られるようになりましたが、ご存じない方もいらっしゃるかもしれませんので、あらためてご紹介しておきます。
⇒参照・引用元:『CSIS』公式サイト「The First Battle of the Next WarWargaming a Chinese Invasion of Taiwan」
詳細は上掲の『CSIS』自身の公表を読んでいただきたいのですが、中国が台湾に侵攻した場合を5つのシナリオモデルに分けてウォーゲームを行いました。
※「iteration」というのは「同じ条件セットの下で行われた、それぞれの試行のこと」を指します。平たくいえばプレーした回数です。

↑ウォーゲームのマップ。
●悲観的シナリオ(Pessimistic):18イテレーション
●基本シナリオ(Base):3イテレーション
●楽観的シナリオ(Optimistic):2イテレーション
●ラグナロックシナリオ(Ragnarök):1イテレーション
小計:24イテレーション
プラス
●台湾単独(Taiwan Stands Alone):1イテレーション
結果は以下のようになっています。
⇒結果はいずれも「中共軍に不利な膠着」
●悲観的シナリオ(Pessimistic):18回
⇒4回:中共軍の決定的敗北
⇒14回:ゲーム終了時点(14〜35日)で決着に至らない膠着
(以下が14回の内訳)
――3回:中共軍に優勢な膠着(stalemate,trending toward China)
――7回:中共軍に不利な膠着(stalemate,trending against China)
――4回:優劣の判断がつかない膠着(stalemate,indeterminate)
●楽観的シナリオ(Optimistic):1回
⇒中共軍が3日以内に惨敗
●ラグナロック(Ragnarök)シナリオ:1回
これは中共軍が勝利することを検証するために作成されたシナリオで、
・自衛隊は一切参戦しない
・米軍は日本の基地を使えない
・対艦攻撃ミサイルを使用しない
――という条件の下にプレーされました。
⇒中共軍が勝利
●Taiwan Stands Alone(台湾単独):1回
合衆国・日本ともに不介入、10週目に台湾が降伏(中共軍の勝利)
24+1のシナリオのうち、明確に中共軍が勝利したのは、2つだけです。
すなわち、
●ラグナロック(Ragnarök)シナリオ
●Taiwan Stands Aloneシナリオ
です。中共軍が台湾に侵攻して勝利するためには、
・日本が参戦しない
・日本にある米軍基地を使用させない
・対艦ミサイルを使用しないなどの米軍に悪条件が重なること
が条件で、何より「台湾軍が単独で戦えば」中共軍には勝てない――のです。
つまり逆に言えば、日本と合衆国が協力して中共軍の阻止に全力発揮すれば、勝利する可能性が高い――ということになります。
台湾は「合衆国が来援するまで」降伏してはならない
この『CSIS』によるウォーゲームシミュレーションの「The Results(結果)」部分を日本語訳すると以下のようになります(摘要のResultsです)。
The Results(結果)
侵攻は常に同じように始まる。
開戦の最初の数時間で、台湾の海軍と空軍の大部分が、最初の爆撃によって破壊される。強力なロケット部隊によって増強された中国海軍は台湾を包囲し、包囲された島へ船舶や航空機を送り込もうとするいかなる試みに対しても阻止を行う。
数万人規模の中国兵が、軍の揚陸用艦艇と民間のロールオン/ロールオフ船の混成によって海峡を渡り、空中強襲部隊と空挺部隊が上陸橋頭堡の背後に降下する。
しかし、最も可能性の高い「基本シナリオ」においては、中国の侵攻はすぐに頓挫する。
大規模な中国の爆撃にもかかわらず、台湾の地上部隊が橋頭堡へと押し寄せ、侵攻軍は物資を積み上げて内陸へ前進することに苦慮する。
一方、合衆国の潜水艦、爆撃機、戦闘/攻撃機は、しばしば日本の自衛隊によって増援されながら、中国の揚陸艦隊を迅速に無力化する。
中国による日本の基地や合衆国の水上艦に対する攻撃は結果を変えることはできない。台湾は自治を維持する。
ここには一つ大きな前提がある。台湾は抵抗し、降伏してはならない。もし台湾が合衆国が介入できる前に降伏すれば、あとは無意味である。
この防衛は高い代償を伴う。
合衆国と日本は数十隻の艦船、数百機の航空機、数千人の軍人を失う。
こうした損失は、合衆国の世界的な地位に長年にわたって損害を与えるだろう。
台湾軍は壊滅は免れるものの、戦力は著しく低下し、電力や基本サービスを失った被害経済を抱える島を防衛することになる。
中国もまた甚大な損害を受ける。その海軍は壊滅状態になり、揚陸戦力の中核は粉砕され、数万人の兵士が戦争捕虜となる。
戦端が開かれたら魔女の釜をひっくり返したような状況となるでしょう。
初動段階で台湾軍は非常な損害を受けることになるでしょうが、合衆国が来援するまで台湾は降伏してはならない――は絶対に忘れてはならない点です。
台湾が先に降伏してしまったら、状況を挽回する前に「おしまい」だからです。
(吉田ハンチング@dcp)






