韓国メディア『毎日経済』に、「キャッシングローンを利用する際」に起こった金利差に驚き――という面白い記事が出ていますのでご紹介します。
まず以下に冒頭部分を引いてみます。
会社員Aさんは、同僚Bさんのカード会社のキャッシング(短期カードローン)金利を見て、怒りが込み上げてきた。
Aさんのクレジットスコア(信用評価点数)はKCB基準984点だが、クレジットスコアが950点のBさんのキャッシング金利を2倍以上上回ったからだ。
Aさんのキャッシング金利は年12.7%、Bさんは年5.5%だった。
貸金業者に匹敵する金融圏の略奪的な金利に対する不満が高まっている中、カード会社のキャッシング金利が物議を醸している。
常識的に理解しにくい体系で金利が算定されているという利用者の不満がそれだ。
カード会社は、内部評価モデルによるものだという「曖昧な」説明だけを繰り返している。
(後略)
「貸金業者に匹敵する金融圏の略奪的な金利」という表現もどうかと思いますが、同じようにキャッシングサービスを受けようとしたAさんとBさんでしたが、金利が2倍も違ったといのです。
12.7%と5.5%では全然違いますので怒って当然でしょう。
「クレジットスコア(信用評価点数)は同じようなものなのに、ぐぬぬ……」とAさんは激怒しています。
読者の皆さまは、「信用評価点数って何なの?」と思われるでしょう。
韓国で暮らす皆さんには、好むと好まざるとにかかわらず、漏れなくこの信用評価点数が付いてきます(信用評価会社が行い金融機関に提供しています)。
もともとは「スコア」(点数)制ではなく「信用等級」制でした。
そもそも等級を国民に付与することになったのは、韓国のお金事情が関係しているのです。少し長くなりますが、いい機会ですのでご紹介してみます。
「信用等級」って何?
日本ではあまり知られていませんが、韓国では国民に「個人信用評価」という信用等級を設けました(これが点数(スコア)制に変わります:後述)。
お金を借りるときには、金融機関はこの信用等級によって貸すか、利息は何パーセントにするか、などを決定します。クレジットカードの発行も6等級以上でなければ行ってくれません。
信用等級は、1~10等級に分かれています。
3~4等級:優良
5~6等級:普通
7~8等級:注意
9~10等級:危険
※韓国に暮らす人には勝手に付与されます。
1等級が一番評価が良く、金融機関が喜んで貸してくれる人で、7~10等級になるとたいてい金融機関からは「門前払い」となります。
当然ですが、何回も借りて、きちんと返済してくれる人が最もいいお客さんで、こういう人は1等級になれます。なれたからといって、借金を頻繁にしている人というわけなので、喜ぶべきことなのかどうか不明ですが。
世にもあほらしい「カード大乱」と「徳政令」
そもそも信用等級性が導入されたのは、韓国で「カード大乱」があった後です。
韓国におけるクレジットカードの普及は1990年代末から始まり、クレジットカードの使用が推奨されて、政府が太極旗を振って応援しました。
その結果どうなったかというと、読者の皆さまのご想像どおりで、個人破産者が続出し、踊りまくったカード会社も不良債権が蓄積してあちこちで飛ぶ――という散々な状況となりました。
これが「カード大乱」です。
現在の目からすると、1997年のアジア通貨危機(韓国の呼称では「IMF危機」)で回らなくなったお金を個人に借金させて流動性を高めたとも見えます。
もし、本当にそういう目論見だったとしたら大した戦略家ですが――韓国政府が徳政令を出して事態を収集することになったので、世にもあほらしい顛末でした。
「大乱」も何も、政府が推奨して国民が踊り、最後は政府が不良債権処理でお金を出す」という騒動だったわけです。この結果、お金を貸すときの判断になるよう「個人信用評価」という制度を作ったのです。
「スコア制にしてもっとお金を貸すように!」
で、韓国政府は、この信用等級性を「1~1,000点の点数制」(スコア制)に変更する指針を打ち出し、実行しました。
2021年01月01日から全面的にスコア制に移行したのです。
「何が違うんだ」という話なのですが、これまでは融資を受けようとすると「あなたは7等級だから駄目です」と一律で断られました。
制度の変更によって、等級ではなく、信用評価会社が「信用点数だけ」を金融機関(+ 消費者)に提供し、金融機関は「独自に点数を基にした判断基準を行う」ことになりました。
興味深いのは、信用評価会社が提供する「信用評価点」や順位、点数を向上させるためのサジェスチョンを参考にして、お金を借りる人(消費者)も「信用評価を管理しやすくなる」としたことです。
韓国の金融委員会は、この改革で「画一的な融資判断が減って、等級の低い人も融資を受けやすくなる」と目論んでいました。
例えば、7等級の上位にある人と、6等級の下位にある人ではそれほど信用評価は変わらないのに、7等級の人はばっさり「7等級だから駄目です」となっている――これはおかしいのではないか、みたいな話です。
――で、現在に至るわけですが、果たして本当にそうなったのか?です。
なぜその金利になるのかは「ブラックボックス」!
本線に戻ります。冒頭で引用したように、スコア制に移行しましたが、Aさんは「12.7%」、Bさんは「5.5%」という2倍以上も開きがあることになっています。
スコアによって金融機関がどのように判断して決めているのかは、ブラックボックスで分りません。これではAさんが怒っても無理はありません。
現在、韓国は金利が上昇する局面で、韓国の皆さんは利息払いの増加に青息吐息です。キャッシングに頼る人も増加しているというのに、不条理な金利差があるというのは耐え難いことでしょう。
スコア制にしたからといって、貸し出しが増えたのかというと実はそうではなく、判断基準が分からなくなった分、むしろ融資についての不公正感が増しているという状況といえそうです。
日本人からして不思議なのは、そもそもスコア制にする際の政府のモチベーションです。
「画一的な融資判断が減って、等級の低い人も融資を受けやすくなる」というのは、要するに「金融機関はもっと国民にお金を貸せ」です。
「国民がもっと借金しやすいように」と制度改革に取り組む政府というのも、日本人の感覚からするとヘンに思えるのではないでしょうか。
日本人は「できれば借金なんかしない方がいい」と考えますので。韓国はこういう根本の部分からまるで日本と違う国なのです。
(吉田ハンチング@dcp)