「外平債」は為替介入資金を作るために発行する
『中央日報(日本語版)』に「韓国、外貨準備高4,000億ドル超えるのに…外平債また発行」という記事が出ました(元は『韓国経済』の記事)。
この「外平債」――「外国為替平衡安定基金債券」は、韓国の非常に面白い点なのです。
しかし、韓国ウォッチャーの方ならご存じなのですが、一般にはあまり知られていません。
「外国為替平衡基金債権」(長いので以下「外平債」と表記)というのは、韓国政府が「為替介入の資金を作るため」に発行する債券です。
韓国政府が発行した外平債は、投資家に購入されて、その代金が政府に入ります。これは「外国為替平衡安定基金」に入って、為替介入の原資になります。
債券ですので、韓国政府は投資家に利子を支払い、償還期限が来たら元本を返済しなければなりません。
要は、為替介入の資金を作るために、債券を発行して借金をしているわけです。
なぜ今「外平債」を発行するのかについての疑問
で、韓国政府が07-09月に(上限)15億ドル規模の外平債を発行する準備に入った、と。
これを伝える『中央日報(日本語版)』の記事は「なぜ今発行するわけ?」と疑問を呈しています。同記事から以下に引用します。
現在韓国政府の外平債発行残高は約9兆8,000億ウォンだ。
計画通りに15億ドルを調達すれば発行残高は11兆6,000億ウォンに増える。外平債発行残高が10兆ウォンを超えるのは2006年の14兆7,000億ウォンから13年ぶりだ。
政府がこの7年間に6回にわたり8兆2,000億ウォン相当を発行した結果だ。
外平債発行残高が急増して利子負担はますます大きくなっている。
現在の外平債の年間利子は約3,000億ウォンだ。
これに対し外平債を発行して作る外国為替平衡基金の運用収益率は下落すると予想される。
政府が外国為替平衡基金の大部分を米国債など確定金利型安全資産に投資しているためだ。
※赤アンダーライン、ケタ区切り「,」、強調文字は筆者による(以下同)
上掲記事にあるとおり、韓国政府は外平債の発行によって集めた資金を「運用」もしています。アメリカ合衆国公債などに突っ込んでいるのです。
しかし、この運用によって上がってくる利益が、外平債の利子払い(購入した投資家への利息を払う)を上回らなければ――当然損をします。
外平債の発行残高が現在ざっくり「10兆ウォン」だとして、利子払いが「3,000億ウォン」なら利率は「3%」になります。
合衆国公債の利率が3%未満なら損です。
というか、世界唯一の覇権国家・合衆国公債の利率が「韓国政府の発行する債券」より上なんてことは、そもそもあり得ません。合衆国公債はリスクフリーの資産と目されており、韓国政府の発行する債券はそれより上の利率をつけないと誰も買わないからです。
つまり「発行すると損をする」(発行して得たお金で合衆国公債に投資したら必ず損をする)のは見えているわけです。世にもアホらしい話でしょう。
ですから『中央日報(日本語版)』でも、「なぜ損をするのが見えているのに外平債を発行しなきゃならないのか」という記事を上げているわけです(「運用収益率は下落する」と上品に表現しています)。
また、同紙は「外貨準備が4,000億ドル以上あるのになぜだ?」としています。以下に一部を引用します。
その上先月末基準で外貨準備高は4,073億ドルに達する。
外国為替確保と為替相場安定という草創期の外平債発行の意味ももう希薄になったと評価される。
同紙の疑問は至極当然です。
外平債でドルを調達しなくても外貨準備が潤沢なら、為替介入資金に事欠かないだろう、というわけですから。
さらに「なんで今なんだ」という疑問もあります。同記事から以下に引用します。
資本市場では政府が昨年末に国会から15億ドルを限度に外平債の発行承認を受けた時から「名分のない外貨負債拡大」という批判が出ていた。
今年は満期を迎える外平債がなく借り換えする必要もない。
満期を迎えて元本を償還しなければならない外平債があるなら、新たな外平債を発行する理由も分かるといっています。
つまり、
元本を償還すると金額が大きいので、新しい外平債を発行し、それで得たお金で元本を返す。で、このまま利子払いだけ続けようという「ロールオーバー(借り換え)」のためなら理解できる。
今期は満期もない。ロールオーバーでもないなら、政府の借金が問題になっているこの時期に、なぜ新たな外平債を発行してまた借金を増やすんだ?
というわけです。
もろもろの答えは「ドルがないから」じゃないでしょうか。
(柏ケミカル@dcp)